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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第39話 妹キャラの交流

 レイチェルたちが春先の収穫を目指して次の作物に取り掛かっている頃、ウィズタリア王国の王都では……。


「王女殿下、準備はよろしいですかな?」


「はい、いつでも始めて頂いて構いません」


 アマリスはなにやら物々しい雰囲気の中にいた。

 それというのも、魔法学園の入学試験が始まったのだ。


 ウィズタリア王国の魔法学園は、歴史ある由緒正しい魔法学園である。

 一般的な作物の収穫時期が落ち着いた頃、各貴族の家に試験官が訪れて、筆記の試験が行われる。

 もちろん、平民も望めば試験を受けることができるが、なにぶん納めるお金が多いために、あまり多くはない。

 ゲームにおける主人公とヒロインの一人は、平民の出身である。どのようにして学園に入学したのかは、ここでは省略しておこう。


 アマリスは机に向かってうんうんと唸っている。


(うう、レイチェルお姉様とハンナに見て頂いた上に、城に戻ってからもしっかりと勉強してきましたのに……)


 アマリスは思ったよりも試験の内容に苦戦しているようだった。

 魔法学園の入学試験は、王族であっても、貴族であっても、平民であっても受ける内容は同じだ。そこには差別も忖度もない。

 決められた制限時間の間に回答を行い、定められた正答率以上が合格となる。


(さすがはレイチェルお姉様が落とされただけのことはありますわね。ですが、わたくしとて王族です。この程度の難関を突破できなければいけません!)


 アマリスは必死に勉強してきた内容を思い出しながら、回答をしていく。


「それまで!」


 後ろに立って様子を見守っていた試験官が、試験の終了を告げる。


「ぷはーっ、息が詰まりそうでしたわ」


「お疲れ様です、王女殿下。回収した答案はすぐに採点が行われます。数日後には結果が伝えられるでしょう」


「きちんと名前も書いていますし、その結果とやらをゆっくり待つことにしますわ」


 試験官は解答用紙を回収すると、一礼をしてアマリスの部屋から出て行った。


「お疲れ様です、王女殿下」


「ええ、ありがとう、ハンナ」


「大丈夫でしたでしょうか。かなり険しい顔をなさってましたが」


「そうですね。ちょっと予想外な問題が出たものですから、面食らってしまったようです。おそらく大丈夫ですよ」


 心配するハンナに対して、アマリスははにかんだ笑顔を向けている。

 その顔を見て、ハンナはちょっと安心したようだった。


「問題は、ルーチェ様ですわ。レイチェルお姉様の一件がありましたから、かなりの期待がかけられていますもの」


「そうでございますね。ですが、今は入学試験の時期です。お茶会をなさるにしても、少なくとも十日間くらいは待っておかないといけません」


「そうですね。この時期に集中して行われますが、全員が同日とは限りませんものね。……心配ですわ」


 アマリスは両肘をついて窓の外をじっと眺めていた。


 十日後、アマリスはルーチェをお城に招いた。


「本日はお招き頂きありがとう存じます、王女殿下」


「よく来てくれましたね、ルーチェ様」


 アマリスとルーチェは挨拶をしあう。

 今日はいい天気なので、二人はアマリスの部屋から見える庭園でのんびりとお茶会を楽しんでいる。


「早速ですけれど、ルーチェ様は入学試験の結果はいかがでしたか?」


 いきなりである。

 気になるとはいえ、さすがに話題のトップに持ってこられると、ルーチェもびっくりしてしまっていた。


「……王女殿下、一斉に見せ合うというのはいかがでしょうか」


 ルーチェはすぐに落ち着いていた。予想はしていたので、試験の結果を知らせる手紙を持ってきているようなのだ。


「それはいいですね。では、せーので見せ合いましょう」


 アマリスも負けじとにやりと笑っている。

 二人の覚悟が決まる。


「せーのっ……!」


 掛け声と同時に、二人は同時に通知を見せ合う。

 そこに書かれていた文字は『合格』の二文字。

 アマリスもルーチェも、無事に魔法学園の入学試験を突破したのである。


「さすがですね、王女殿下」


「ルーチェ様もですよ。これでわたくしたち、同級生ですわね」


「そうですね。お姉様も一緒に通えればよかったですが、今さらですよね」


 ルーチェはこれだけは心残りのようである。

 姉のレイチェルは入学試験に落ちて公爵領で畑仕事をしているのだ。

 好きなことをしてのびのびとしている姉もいいのだが、やはり魔法学園の中で一緒に勉強してる姉の姿を見たかったのである。


「そうですよね。わたくしもそこは残念で仕方ありません。ですが、半年近く一緒に暮らしていて思いました。お姉様はあの姿がとても似合っていると」


「王女殿下がそう仰られるのでしたら、そうなのでしょうね」


 ルーチェはくすくすと笑っていた。


「ルーチェ様」


「何でしょうか、王女殿下」


 アマリスに唐突に声をかけられて、ルーチェは背筋を伸ばして姿勢を正してしまう。


「同級生になるのですから、王女殿下ではなくアマリスとお呼び下さい。それに、お兄様と結婚なされば、わたくしは義理の妹になるのです。名前呼びを推奨いたします」


「わわっ、そうでした。では、その……アマリス、様」


「うぐっ」


 名前呼びをされて、アマリスにクリティカルヒットをしてしまう。


「ルーチェ様、さすがはお姉様の妹ですわ。破壊力が凄まじいです……」


「あ、あの。大丈夫でしょうか?」


「ええ、大丈夫です。大丈夫ですから、これからも名前で呼びますように」


「はい、承知致しました、アマリス様」


 レイチェルがいないとはいえ、今日も王都は平和のようだった。

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