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第35話 販売契約

 あっという間に畑の確認が終わってしまいます。

 畑の作物を見ていた職員たちの目は実に真剣で、その査定の間、私たちはとてもドキドキしながら様子を見つめていました。

 私たちは小屋に移動して、商業ギルドの人たちの評価を聞くことにします。

 小屋に戻ってきますと、なんということでしょうか、アマリス様と鉢合わせてしまいます。


「あっ、お姉様。どうでしたでしょうか」


「あ、アマリス王女殿下?!」


「えっ!?」


 なんてことでしょうか、ミサエラさんが叫んでしまいました。どうやらアマリス様のことをご存じのようです。


「えっ、この方が王女殿下だというのですか?」


「みすぼらしい格好をしているものの、その身から気品というものが感じられます……」


 職員たちも慌てふためいていますね。こんな公爵領の辺鄙な場所に、まさか一国の王女様がいらっしゃるなんて思いもしませんから。

 ですが、これは残念ながら事実なのです。目の前の方は、このウィズタリア王国の王女、アマリス・ウィズタリア様なのです。


「あの、事情を説明して頂けますでしょうか」


「あっ、はい。ですが、その前に作物の判定をお聞きしてよろしいでしょうか。これ以上はアマリス様の話をすると、せっかくの判定が吹き飛んでしまいそうですから」


「そうですね。では、作物の話からしましょう」


 ミサエラさんをどうにか説得して、先に作物の評価を聞き出せそうです。

 結果として、一年目にしては優秀という判定でした。さすがは土と水の精霊に手伝って頂けただけのことはあります。私の前世知識なんて、微々たる力にしかなっていません。精霊様様です。

 

「今日の帰りの際に、売れそうなものは預かって帰ります。販売した実績の中から、ギルドで取り決めている手数料を差し引いて、レチェさんの取り分とさせて頂きます」


「はい、よろしくお願いします」


 作物に関しては、商業ギルドへの委託販売という形で決めました。

 ラッシュバードたちの世話もありますので、あまり頻繁に出て行けませんからね。

 ですが、話はこれで終わりではありません。


「それでですが、お金の扱いはどうしましょうか。わざわざ受け取りに来るのも面倒であれば、ギルドで預けておくということもできます」


「なるほど、預金というわけですね。そうですね、まだ半年くらい前の薬草の代金が使いきれていませんし、ギルドにお預けしましょう」


「畏まりました。それでは、契約書を取り交わしますので、よくお読みになった上、よろしければ署名を頂きます」


「分かりました」


 ミサエラさんが取り出した契約書に目を通します。

 これでも公爵令嬢ですからね。この世界の文字の読み書きはお手の物ですよ。前世でもどれだけ契約書に目を通してきましたか。

 あっという間にすべてを読み終え、私は内容に問題はないと判断したので署名します。

 ミサエラさんが持ってこられたということも、判断材料です。最初からこの方は信用できると感じていましたからね。


「ありがとうございます。これだけの質のものであれば、手数料二割を差し引いたところで、十分な利益を叩き出せると思います。任せておいて下さい、私がしっかりと売って差し上げますから」


「よろしくお願い致します」


 私はミサエラさんに深々と頭を下げます。

 無事に売買契約が成立しましたが、話はここで終わるわけがありません。

 改めて、アマリス様のことについて質問が飛んできます。

 私としては答えづらいのですが、アマリス様ときたら喜んで説明を始めてしまいましたよ。

 ミサエラさんは知っていますからいいですけれど、他の三名の職員の方が腰を抜かしかねないのでやめてほしいですね。

 私の心の叫びもむなしく、アマリス様は全部話してしまいました。はい、私の正体までもです。

 アマリス様のことにびっくり、私のことにもびっくり。職員たちは全員腰を抜かしてましたね。想像通りです。


「みなさん、どうかこのことはご内密に。公爵令嬢がこんな田舎で畑仕事をしているなんて知れたら、お父様たちに迷惑がかかってしまいますのでね」


「しょ、承知しました。決して口外致しません。これだけの作物を作られる方に不利益をもたらす方が問題ですからね」


 さすがは商業ギルドの職員。名誉よりもお金を取りましたか。

 ですが、これで私たちの平穏は守られそうですね。


 こうして、私たちが作った作物の初年度の取引が無事に成立しました。

 当面の間は毎日様子を見に来られるそうです。

 その際に、冒険者ギルドの方も連れてきて下さるそうで、ラッシュバードの件も同時に片付きそうですね。さすがはミサエラさん。できる方というのは違います。

 すべての用事を終えた商業ギルドの職員たちは、街へと引き上げていったのでした。


 約半年間の苦労が報われる時が来ましたが、まだ気は抜けません。

 次はアマリス様の魔法学園の入学試験です。

 そろそろ王家と約束をしたお迎えの時期です。

 それまでの間、私とハンナが協力してアマリス様の勉強を見ます。ここで失敗してしまっては、また私にはいろいろと責任がのしかかりかねませんからね。特に、公爵家への迷惑は絶対避けたいです。

 最後の踏ん張りどころです。頑張りましょう。

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