第34話 査定の日
翌日の昼のことです。
予告通りに商業ギルドの方々がいらっしゃいました。
「ようこそいらっしゃいました、商業ギルドの方々。本日はご査定のほど、よろしくお願い致します」
丁寧な挨拶で私は商業ギルドの方々を迎えます。
商業ギルドの方々のリーダーはミサエラさんです。一緒に来られた方はこういった農作物に詳しい男性職員のようですね。あ、女性職員も一名いらっしゃいます。
「こちらこそよろしくお願い致します。レチェさん」
ミサエラさんはにっこりと微笑んでいます。
ちゃんと偽名で話してくれているあたり、さすがに信用ができますね。
私たちの農園にやって来られた商業ギルドの方々を、早速農園へと案内します。
入口は私たちの家とは反対側の方向にあります。だって、私たちの家の裏には、みなさまにお出しできない特殊な畑があるんですもの。見られるわけには参りません。
ですが、こちらからやって来ると、嫌でも目に入る小屋があるんですよね。
「ぶふぇっ!」
ああ、この声はスピードですかね。
ラッシュバードの鳴き声が聞こえてきます。
「今の声は?」
当然ながら、空耳で済ませられないくらい大きな鳴き声です。気付かれてしまいました。
どうしようかと考えましたが、ひとまず先に紹介をしてしまいましょうか。
「ミサエラ様、先に紹介しておきたいものがありますので、あちらの小屋へ向かいましょう」
普段なら「さん」付けで呼ぶところですが、今回は農園の主として対応していますので「様」付けで呼びます。
まぁどうでもいいことでしょうけれど、貴族ってこういう細かいところを気にするんですよ。
それはそれとして、私はミサエラさんたちをラッシュバードの小屋に案内します。
「これはまた立派な囲いですね」
「はい。中にいる子たちが逃げないようにと、少々分厚くしてあります」
「中にいる子?」
私の説明を聞いて、何を言っているのか理解ができないようですね。この時点で理解できれば大したものですよ、ええ。
一つ目の扉を開いて、小屋の中の小部屋にまずは移動します。
「外への扉はしっかり閉めて下さいね」
「は、はい」
最後に入ってきた職員に声をかけると、慌てたように扉を閉めています。
今いる子たちは大丈夫ですけれど、将来的に数が増えれば脱走は十分あり得ますからね。
「この中にいる子たちに驚かないで下さいね。繊細な子たちですから、いきなり大声を出したらびっくりしちゃいますから」
奥の部屋に移動する前に、私はミサエラさんたちに忠告をしておきます。
しっかりと同意を得たことで、私は奥の部屋への扉を開けます。
奥の部屋に進むと、そこには四羽のラッシュバードがいます。首にはそれぞれ違った色のスカーフが巻かれていて、名前が刺繍されています。
「これは、鳥? いや、魔物か?」
商業ギルドの職員たちは見たことがないのか、なにやら騒いでいますね。それほど珍しいものなのでしょうか。
「ラッシュバードですね。意外と立派な姿ですが、こうやって見るのは初めてですね」
さすがミサエラさんはご存じのようでした。
「ラッシュバードって、魔物のですか?」
「はい、その通りです。ここでは私たちがラッシュバードを飼って育てています。鳥の刷り込みという習性を活かしていますので、私ともうひと方にはとても懐いているんですよ」
私がその証拠にと、ゆっくりと近付いてぎゅっとラッシュバードを抱きしめている。
あまりにも衝撃的な場面なせいなのでしょう。商業ギルドの方々はミサエラさん以外はまったくもって言葉が出ないようですね。
「な、懐かないと言われているラッシュバードと触れ合っているぞ……」
「俺たちは一体何を見せられているのだろうか……」
「ミサエラ様、これは一体?」
「鳥の習性の刷り込みですね。初めて見た動くものを親と思い込む習性です。それによって、レチェさんはラッシュバードたちに親だと思われているのでしょう」
説明をしているミサエラさんですけれど、本人自身も信じられないといった表情をしていらっしゃいます。
知識として持っていても、やはり見たことがなければそうなってしまいますよね。
「スピード、乗せてくれる?」
「ぶぇっ!」
私が撫でていたスピードは、私の声に地面に座り込みます。私が背中の上に座ると、ゆっくりと立ち上がります。
なんでことでしょう。ラッシュバードの背中に乗っていますよ、私。
「これからギルドを訪れるようになる時にはこのような姿で訪問するかもしれません。襲われない危険性がないか怖いですので、何か手続きというものはございませんか?」
「それでしたら、冒険者ギルドの方がよいでしょう。さすがに魔物の飼育は私たちの管轄外です」
「承知しました。では、明日にでもお邪魔致しましょう」
さすがに商業ギルドでは魔物の登録はできないようです。日を改めて街に向かわないといけないようですね。
ひとまず、商業ギルドの方から冒険者ギルドの方たちへ話を通してもらえることになりましたので、手続き自体は簡単に済むかもしれません。
私を乗せたままとことこ歩いたり、少し勢いよく走ったりした姿は、とても良く印象に残せたと思います。
そんな感じでラッシュバードのお披露目は無事に終わりまして、残りは畑の作物ですね。
この数か月間大事に育ててきた作物たちです。一体どのような評価が下されるのか、今からハラハラドキドキですよ。
ラッシュバードの小屋を先程と逆の手順で出た私たちは、畑の方へと到着したのでした。