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第31話 少し先の懸念

 名づけによって、ラッシュバードたちはすっかり大きくなりました。

 どのくらい大きいかというと、頭の位置が私たちの腰よりも上に来てしまっています。

 ギルバートが狩ってきたラッシュバードの成鳥はかなり大きかったですし、これでもまだまだ子どもなのでしょうね。


「あはは、もうくすぐったいですってば」


 私とアマリス様は、すっかり懐いてしまっているラッシュバードたちに頭を擦りつけられています。

 畑仕事をしていても、勉強をしていても、後ろについて来ては時々構えといわんばかりにこうしてくるんですよね。

 可愛いのでつい許してしまいますが、さすがに侍女たちがいい顔をしていませんね。


「アマリス様、この子たち、どうするおつもりですか?」


 ハンナがアマリス様に確認をしています。

 それというのも、数か月後には学園の入学試験のために王都に戻らねばならないからです。

 ラッシュバードたちはアマリス様に懐いていらっしゃいますし、アマリス様も自分が名付けたフォレとラニのことを気に入ってらっしゃいます。

 アマリス様の性格ですから、連れて行こうとするでしょうが、実は問題が一つあるのですよね。

 それは、ラッシュバードが魔物だということ。

 大きくなったので、見分けがつくようにと街でイリスに購入させてきた布に名前を刺しゅうして着けているのですが、それでも魔物だと分かっていますので警戒する方はいらっしゃるのですよね。

 ですので、もしアマリス様が連れて帰るとなると、いろいろと問題が起きると思うのです。

 アクエリアスがいますからどうにかなるとは思いますが、言葉が通じましたっけ?


『なんですか』


 アマリス様の様子を見終わって畑に戻ろうとした時です。不意に私とアクエリアスの目がばっちり合ってしまいました。

 慌てて目を逸らしましたが、すでに遅かったようです。

 アクエリアスは部屋から出て、私に向かって壁ドンをしながら迫ってきました。

 壁ドンとは申しましても、アクエリアスが壁に手を押し付けたのではなくて、私に水魔法をぶつけて押し付けたんですけどね。


『心配要らないわよ。私はどこかのもぐらと違って、人間の振りができますから。すでにお城で姿は見せているから、もし連れて帰るってことになったら、ラッシュバードについては私に任せてもらえばいいわ』


「あ、そうなのですね」


 どうやら、私の心配はばれてしまっていたようですね。

 この時、アマリス様に聞かれてはいけないと、アクエリアスと私は場所を移動することにします。

 私の部屋では近いですし、食堂に移動をして話の続きをします。


『ええ、精霊とはちょっと特別ですからね。魔物と心を通わせるのも割と簡単です。ましてや、お互いが共通の契約主なのだから、通常よりもさらに簡単だと思うわ』


 これは、なんとも頼もしいかぎりですね。

 アクエリアスがかなり強気に話してくれますので、私はそれを信じることとしましょう。


『あの分だと、帰る頃には王女様を背中に乗せて走ることも可能でしょうね。ただ、そうなると問題はあるかも』


「どういったことでしょうかね」


 アクエリアスが腕を組んでいる悩み始めたので、私はつい尋ねてしまいます。


『ラッシュバードは魔物なのよ? たとえ立派な服装のアマリスが背中に乗っていたとしても、下手をすると冒険者に襲われるかもしれないわ』


「そ、それは困りますよ。国家の一大事です」


『まあ、そうよねぇ……。私の水魔法では、攻撃を跳ね返すような防壁は張れないし、困ったものね……』


 さすがのアクエリアスも、かなり困った様子でした。

 精霊とはいえど、できることとできないことがあるようです。


『ははは、僕らのことをもぐらといったくせにそんなこともできないのか』


『ノーム?!』


 急に声が聞こえてきたと思ったら、ノームが顔を覗かせていました。小屋の地面を突き破るのはやめてもらえないでしょうか。


『だけど、当日は王家から馬車がお迎えに来るのだろう? それと並走していれば襲われる心配はないと思うけど、どうなのかな』


「いえ、魔物しか目に入らない変わった方もいらっしゃるでしょうから、やっぱり必要だと思います」


『そっか。それじゃ、僕たちも一人ついていくことにするよ。そうすれば安心だろう?』


 任せてくれと言っているみたいですので、私とアクエリアスは困った様子で顔を見合わせます。

 仕方ないので、当日アマリス様がラッシュバードを連れて帰りたいと仰られた時は、ノームとアクエリアスに任せることにしました。


「さて、アマリス様が勉強に集中できるように、ラッシュバードたちを引き離してきましょうか」


 私は大きく伸びをすると、アマリス様の部屋へと再び向かいます。


「アマリス様、フォレとラニを預かりに来ましたよ」


「はーい、お姉様。さぁ、お姉様がいらしたから、あなたたちはお姉様のお手伝いに行きなさい」


 扉を開ける前に、中からそんな声が聞こえてきました。

 次の瞬間、扉が開いたかと思えば、ラッシュバードたちが私に突撃してきました。


「あらららら、お姉様、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。二羽とも私が面倒を見ていますので、アマリス様は勉強を頑張って下さいね」


「は、はい……。お願い致しますね」


 困った顔をするアマリス様に、私は笑顔で答えておきます。

 そして、フォレとラニを連れて、再び畑作業へと向かったのです。

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