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第28話 誕生の時

 ラッシュバードの卵ですが、鑑定魔法なるものを使ったらあっさりとオスメスが分かってしまいました。

 そうしたらですが、見事に二組いたものですから、どうしたものかと困ってしまいましたね。卵料理、すぐに食べたかったのですが、これは食べられませんね。

 結局、ギルバートが持ち帰った四個ともかえすことになりました。食べられると思って楽しみにしていたギルバートは残念そうにしていましたが、可哀想ですからね。


「結局全部卵をかえすんですか。どうするんですか、そんなことをして」


「私たちで飼育して、その後の卵から食べるようにしましょう。しばらくは、今回の卵からかえった子たちに頑張ってもらうしかありませんね」


「ああ、お預けかよぉ……」


 この世界の卵は貴重なので、ギルバートは嘆いているようでした。

 すぐにというのであれば、成鳥を捕まえてきて卵を産ませればいいのですけれどね。

 聞けばラッシュバードはこの辺りにはあまりいない鳥のようです。ギルバートが捕まえられたのも、たまたまのようですね。

 ひとまずは、温もりの魔法をかけたシーツでくるんで、しばらく様子を見ましょう。


(卵があったということは、そこにはラッシュバードの巣があったはずです。つまり、あの捌いた鳥はメスだったということですね。……可哀想なことをした気がしますね)


 そうは思うものの、生きている以上は他の生き物を食さねばなりません。ですから、おいしくいただけるようにと冷蔵庫を用意したのですよね。魔石代がシャレになりませんでしたが、薬草が売れたのでどうにか賄えました。

 とりあえず、次の準備としては、ラッシュバードを飼うための小屋ですか。

 鑑定魔法で分かりましたが、飛べないですが跳べるようです。なので、屋根はなくても大丈夫でしょうが、壁はそこそこの高さがあった方がよさそうですね。

 あとは、ぶつかっても大丈夫なように少し柔らかくしておきましょう。痛い目を見れば覚えるでしょうが、だからといって衝撃が強くては死んでしまいますからね。この加減は難しいです。

 私はノームの一体に卵のことを頼んで、余っているスペースにラッシュバード用の広い小屋を作ります。走り回るそうですから、広さは必要なんですよ。


「ラ・ギア・ルド」


 魔法を使うと、あっという間に正方形の見事な囲いができます。


「ア・ギア・ルド」


 もう一度魔法を使い、小さな部屋を作ります。脱出防止と道具などを置いておく部屋ですね。

 こういう部屋を設けておかないと外へ逃げてしまいます。そうなると再び捕まえるのは困難になりますからね。

 これに扉をつけて完成です。魔法って便利。


「お姉様、何をしてらっしゃるのですか?」


 アマリス様がやってこられました。どうやら、ハンナに見てもらっていた勉強が終わったようですね。


「ギルバートが持って帰ってきたラッシュバードの卵をかえした後のことを考えていたんです。育てると決めた以上、きちんと面倒を見なければなりませんからね」


「そうなのですか。さすがお姉様、慈悲深いです」


 アマリス様が目を輝かせて褒めてきます。

 卵が食べたいだけですので、そんなに褒められたことではないのですけれどね。


「ラッシュバードって名前は聞いたことあるのですが、実物は見たことがありませんのでね。どのような姿なのか楽しみですね」


 無邪気にアマリス様が微笑んでいらっしゃいます。

 人のことはまったく言えませんが、お城で育ってきましたものね。知らないことには興味津々のようです。


『主~っ!』


 私たちが話をしていますと、なにやらノームが騒がしくしています。


「どうしましたの、ノーム」


『卵がかえりそう。すぐ来て』


「わ、分かりました」


 どうやら私が処置をした卵がかえるようです。

 ……あまりにも早すぎません?

 だって、ギルバートが持って帰ってきたのは昨日ですよ?

 とにかく、もうかえりそうだというので、私はアマリス様と一緒に部屋へと慌てて戻ります。


 部屋に戻ると、卵は確かに動いていますし、うっすらとひびのようなものが入っているようにも見えます。

 ふ化させようとして温め始めたのは昨日の夜。まだ半日少々しか経っていません。

 慌てながらも、私たちは机の上にシーツで包まれた状態で置かれている卵をじっと見つめています。

 次の瞬間、パリパリと卵の殻のひびが大きくなります。


「ピルッ、ピルルルル……」


 卵の割れた隙間から、可愛い顔がひょっこりと出てきました。


「わあ、可愛い……」


 私たちは思わずそろえて声を漏らしてしまいます。

 そこにいたラッシュバードのヒナたちは、それはとても可愛いものでしたから。

 よちよちと殻から脱出しようとするヒナたちですが、さすがに穴が小さくて出てこれません。


「うう、出てこれなさそうですね」


「アマリス様、手を出してはいけませんよ。最初に見たものを親と思い込む性質がありますので、とにかくじっと見守りましょう」


「分かりました、お姉様」


 手を貸そうとしてしまうアマリス様を、私は制止します。

 その後、ヒナたちが殻から出てくる瞬間を、時間も忘れてしばらく見守り続けたのでした。

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