第27話 新しいもの
雨期もすっかり終わりまして、天気のいい日が続きます。
イリスとギルバートが頑張ってくれていますが、ノームとアクエリアスによる恩恵は大きいですね。畑の手入れがとても楽です。
本日の私は、先日アマリス様に褒められました料理に本腰を入れることにします。
今までは生活に慣れるために自分たちにしか作っていませんでした。
ですが、かなりの日数が経ちましたので、もういい加減に次の段階に進んでもいいかと思われるのです。
「えっと、自分たち用の食材の畑で採れるものはと……」
私はその日、商業ギルドへ卸すための畑とは別の、自分たちの食事用の畑を見ます。
こちらはノームの力によって成長が早められた植物がたくさん熟れています。おかげで、ほとんどお金をかけずに毎日の食事にありつけます。素晴らしいですね。
この世界のお野菜は、大体が前世と変わりはありません。
小麦は収穫したら、商業ギルドで粉にしてもらって引き取っています。製粉技術は持ち合わせていませんからね。
ミサエラさんのおかげで製粉するのも非常に早くて助かります。
ですが、小麦を売ってもらいたいと持ち掛けられていて、その点では困っています。私はあくまでも自分たち用だと言って断ってはいますが、見た感じでは諦めてくれるようには思いませんね。
申し訳ありませんけれど、あと三か月はお待ち下さいませ。
「レチェ様、鳥の魔物を狩ってきましたぜ。鳥の巣もあったので、卵も持って帰ってきました」
狩りに出ていたギルバートが戻ってきます。
大抵はウルフやラビットなどの獣系の魔物ですが、今日は鳥の魔物を狩ってきたようです。
「卵ですか? 見せてもらってもよいでしょうかね」
「はい、外に置いてありますのでご覧になって下さい」
ギルバートの言葉に従い、外に出ます。
そこで私は驚いてしまいました。
「まあ、ダチョウかしら」
「ダチョウ? なんですかね、それ。こいつはラッシュバードっていって、地面を走り回る空の飛べない鳥なんですよ」
なんとまあ、目の前にいるのはどう見てもダチョウなんですけれど、こちらの世界じゃ名前が違うんですね。
その横には、そのダチョウの卵と思しきものが転がっています。
「オスメス一対になるようだったら、卵をかえして育てましょう」
「えっ、マジですか?!」
ギルバートがものすごく驚いています。
魔物を育てるというのですから、それは驚くでしょうね。
ですが、私の目的はその卵です。前世ではダチョウの卵は食べたことはありませんが、卵があれば料理のレパートリーが増えます。
魔物の巣を探すとなればいろいろと手間がかかりますが、飼って育てるというのなら、安定的に卵を見つけることができますからね。
そうしましょう。そうしたら、ますます農園っぽくなっていいですからね。
『僕も賛成だね。ラッシュバードは気性はおとなしい。育ててあげれば、移動手段としても使えるようになるよ。大きいから人が乗れるしね』
私たちの様子を見ていたノームが口を挟んできます。
なるほど、移動手段というのはいいですね。
いつも通っている街の商業ギルドへの往復も地味に大変ですし、馬だってギルバートの乗る一頭しかいません。
「ノーム。このラッシュバードって刷り込みっていうのは起きるのでしょうか」
『ああ、最初に見たものを親と思うことだね。うん、起きるよ』
しめたと思いました。
卵を自分でかえしてあげれば、私のことを親と思い込む可能性があるということです。ならば、言うことを聞かせやすくなるというものです。
それよりも、私がダチョウに乗ってみたいのです。あのふわっふわの羽毛の乗り心地を知りたいのです。
……いけませんね。余計な野望が暴走してしまいました。
とりあえず、狩ってしまったラッシュバードは可哀想ですけれど解体させて頂きます。
「羽はきれいに洗って、袋状のものに詰めてしまいましょう。きっとふわふわなクッションになると思いますから」
「承知しました。でも、一本一本むしるのは大変なんですよ?」
「分かっていますが、お願いします」
「まぁ、レチェ様がそう仰られるのでしたら……」
ギルバートはぶつぶつと言いながら、ラッシュバードの毛をむしり始めます。
私は空いているスペースに新しい小屋を建てて、そこにラッシュバードから入手したものをしまっていきます。
水魔法を応用して空気を冷やすことができたので、これで少しは長持ちするでしょう。
「へ~、ひんやりしてるな。これもレチェ様の魔法で?」
「はい、冷蔵庫と呼ばれるものを冷やす空間です。以前どこかの書物でちらっと見かけましたので、実際に試してみました」
はい、嘘です。前世の知識でやってみただけです。
野菜だけならすぐ食べてしまうので要らなかったのですが、肉となるとちょっと勝手が違いますからね。
これで、数日間はお肉が堪能できそうです。
「この技術、売り出しませんかね。魔道具にしてやれば、きっとばかすか売れますぜ」
「ふふっ、考えておきますわ」
ギルバートにはそう答えておきましたが、私は考えておりませんよ。
商業ギルドが知ったら、絶対にあれこれ聞かれますからね。
新しいことを始めようと思った日に、新しい出会い。
料理はもうしばらくお預けにして、ラッシュバードの育成に励みましょうか。




