第25話 婚約者変更
会議の間に王族とウィルソン公爵家が勢ぞろいをする。レイチェルを除いて。
「アマリス、戻ってきていたのか」
「はい、お兄様がごねていると聞いて、いてもたってもいられませんでした。私はずっとレイチェルお姉様を身近で見ておりますが、王家にも公爵家にも未練がないようでしたわ」
「アマリス、そこまではっきり言うのか……」
アマリスが発した言葉に、国王は完全に引いてしまっている。
それと同時に、アマリスの後ろにいる女性が気になって、ついに尋ねてしまう。
「アマリス、さっきから気になっていたのだが、後ろにいる女性は一体?」
国王が問い掛けると、アマリスではなくその女性が答えている。
「お初にお目にかかります。私、水の精霊アクエリアスと申します。此度はアマリス王女と契約を結びました。今はやむを得ず、見える状態にしておりますので、みなさんにもよく見て頂けると思います」
「なんと、精霊と契約したのか?!」
アクエリアスの返答を聞いて、国王は驚きを隠しきれなかった。
今までの王族でも聞いたことのない精霊との契約を、今代の王女が成しえていたのだから。
「お父様、今回はその話は置いておいて下さいませ。お兄様の婚約者の話ですよ、今は」
アマリスはまったく遠慮がなかった。
この指摘に、国王は慌てたように話題を切り替えていた。
「そ、そうだったな。では、本題に入ろう」
このひと言で場の空気が重くなる。
レイチェルとアンドリューが幼少の折に結んだ婚約者の契約を、ここにきて変更するのだ。気まずいのも仕方あるまい。
だが、レイチェルは魔法学園の入学試験に失敗するという失態を犯したのだ。王族としても何らかのアクションを起こしておかねば、他の貴族につけ入るスキを与えてしまう。早めの対処が必要なのだ。
そこで持たれたのが、このウィルソン公爵家との会談の場である。
「ウィルソン公爵家としては、レイチェルのアンドリューとの婚約解消を受け入れるということでよいのだな?」
「はい。レイチェル自身も入学できなかったことが分かった時にその話をしておりました。妹のルーチェにすべてを任せるとも」
「そうか……」
ウィルソン公爵を見ながら、国王は小さくため息をついた。
今度はルーチェへと視線を移す。
「ルーチェ・ウィルソン。そなたにも話を聞こう」
「はい」
国王が声をかければ、ルーチェはしっかりと返事をする。
「そなたは、姉の代わりに婚約者になるとして不満はないか?」
「ありません。お姉様との約束ですし、お姉様のためだったら代わりになることだって受け入れられます」
国王の問い掛けに、ルーチェははっきりと言い切った。
「こう申してしまっては、陛下たちの機嫌を損ないかねませんが、私はこのような事態になってほっとしています」
「ほう、それはどういうことかな?」
国王は声こそ厳しいが、表情は柔らかいままだった。むしろ、王妃の表情が険しい。
「お姉様はそもそも縛られた生活を望んでおりませんでした。自由気ままに生きたがっている気持ちはずっと前から知っておりました」
確認をされると、ルーチェは遠慮なくすべてを打ち明け始めた。
「最悪の場合は、お姉様の座を奪い取ってでも、お姉様を自由にしてあげたいとも考えていました。お姉様の幸せが、私の幸せなんです!」
ルーチェの訴えに、部屋の中はしんと静まり返る。
まだ十二歳になるかどうかという少女の言葉としては、ずいぶんと重かったのだ。
「ウィルソン公爵、公爵夫人。そなたらの考えは?」
「概ね、ルーチェと同様です」
「ええ、時折来る報告では、本当にのびのびと楽しそうに生活しているとのことで、それを取り上げる気にはなりませんわ」
「ふむ、そうか……」
ウィルソン公爵夫妻の答えに、国王は黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙ののち、国王が口を開く。
「よし、ウィルソン公爵家にもう一度機会を与えるとして、レイチェル・ウィルソンとの婚約を解消し、ルーチェ・ウィルソンとの間で、我が息子アンドリューとの婚約を締結する」
「父上!」
国王の決定に、アンドリューだけが声を上げる。
「お・に・い・さ・ま? 聞いておられましたか、ルーチェ様の言葉」
テーブルを叩いて立ち上がったアンドリューに、アマリスの暗黒微笑みが襲い掛かる。
「今のお兄様では、レイチェルお姉様は不幸になるだけですわ。独占欲の強さは相手の自由を奪うものですわよ」
「アマリス、どこでそういうことを覚えてくるんだ」
「さあて、どこででしょうかしらね」
ぎろりと睨むアンドリューに対して、にんまりと笑って言葉を返すアマリスである。なんという小悪魔系王女なのだろうか。
「いい加減にしろ、アンドリュー。精霊も見ていらっしゃる中での決定だ。いくらお前でも覆せはせぬぞ」
「ぐっ……」
国王の言葉を受けて、アクエリアスもまた満足そうに微笑んでいた。
この会議をもって、王子の婚約者はレイチェル・ウィルソンからルーチェ・ウィルソンへと変更されることとなった。
しかし、ルーチェもまた魔法学園の入学試験を控えた身である。結果いかんでは、どのように転ぶか分かったものではない。
ここまで考えていたルーチェに抜かりはないだろうが、不安要素はまだ残っているのだ。
ひとまず無事に行われた婚約者変更の決定は、瞬く間に王都の中へと広まっていったのだった。




