第21話 うきうきとはいきません
アクエリアスとの契約も無事に終わりましたが、ノームは少し不機嫌そうでした。
『僕の楽園だと思ってたのに、長雨の時期に紛れてくるなんて、なんて狡猾なんだ……』
どうやら、アクエリアスが私たちの魔力をかぎつけてやって来たことが不満でたまらないようです。
ですが、精霊は気まぐれだといっていたの、他ならぬノームです。少しは予想ができていたと思うのですが、やはり実際に起きてしまうと事情が違ってくるみたいですね。
私は文句を言っているノームの一体を抱え上げます。
『主?!』
「こういう時こそ、慰めなくて何が主ですか。みんな日替わりで構ってあげますから、少しは機嫌を直して下さい」
『うう、主を選んでよかったよ……』
ノームってば、大げさに泣き始めました。
見た目はもぐらですけれど、小さな子どもという感じで可愛いですよね、ノームって。
外はまったく雨がやみそうにありませんけれど、今日の畑仕事は無事に終わりました。
私はアマリス様を呼んで、小屋の中へと戻っていきました。
小屋に戻りますと、イリスとハンナが入浴の支度ができたといって、私たちを別々にお風呂へと連れて行きます。
お湯を沸かすのはギルバートの役目です。私たちの中で強い火の魔法が使えるのは彼だけですからね。
いえ、私も使えるのですが、畑仕事をしていたではありませんか。雨を嫌がって畑を見に来なかった彼が悪いんです。
「ふぅ、ひと仕事した後のお風呂は格別ですね」
「まあ、レチェ様ったら。毎度のように仰っていませんか、それ」
湯船につかりながら私が思わずこぼしてしまうと、イリスが笑いながら指摘してきます。私ってば、そんなにしょっちゅう口にしていましたっけ?
それはとりあえず置いておきましょう。
私たちは、畑仕事の後は必ずお風呂に入ります。それというのもあちこちに泥がついているためです。
私もアマリス様も髪の毛が長いですので、邪魔にならないようにと上げたり結んだりしていますが、どうしても汚れてしまいますからね。
そのままにしておくと、寝床を汚すことも十分ありますから、必ず一日の作業の後にはお風呂に入るんです。
今日の場合はそれだけでありません。
最近は長雨の季節ということでずっと雨が降っています。その中で作業を続けていると、体が冷えてしまうんです。
ですから、風邪をひかないようにと体を温める必要があるんですね。
ちなみにですが、湯船の中にはノームの一体もいます。イリスには見えませんし、精霊には性別がありませんし、何も問題はありませんよ。
「そういえば、レチェ様」
不意にイリスが何かを聞きたそうにします。
「なんですか、イリス」
「いえ。アマリス様がなにやら嬉しそうにされてらしたのですが、何かおありになられたのでしょうか」
イリスは先程小屋に戻ってきた時のアマリス様の姿が気になっているようですね。
そうですね。今は一緒に生活している身ですから、イリスには教えてあげましょうか。
「実はですね。アマリス様も精霊と契約なされたのですよ」
「えっ、本当でございますか?!」
イリスは大きな声で叫んでいます。
驚くのも無理はありませんね。精霊の契約というのは稀ですからね。
そんなできごとが、短期間に二度も自分の身近で起きたのですから、驚くなという方が無理なのです。
「はい。契約されたのは水の精霊『アクエリアス』です。水を操る能力を持つ精霊のようですね」
「はっ! それでアマリス様はあまり濡れてらっしゃらなかったのですね。あれだけ雨が降っていますのに……」
イリスは小屋に戻ってきた時の私たちの姿を思い出したようです。
そう、私はかなり濡れていましたのに、アマリス様はほとんど濡れていませんでした。これが水の精霊の力なのです。
「そういうことです。でも、今の私たちにとってはいい組み合わせですよ」
「そうでございますね。農園の仕事をされるのでしたら、土と水は大事でございますものね」
イリスがすぐに反応していたので、私はくるりと顔を向けてにこやかに微笑んでいました。
さて、そろそろお風呂も長くなってきましたし、夕食の支度をしなければなりません。
温かくて心地よいですが、そろそろ上がりませんとのぼせてしまいそうです。
「イリス、着替えはありますかしら」
「はい、ご用意しております。もう上がられますか?」
「もう十分です。これ以上入っていては、夕食が遅くなってしまいますからね」
「承知致しました。では、すぐに支度を始めます」
お風呂から上がって着替えが終わりますと、イリスはすぐに台所へと向かっていきました。
今日もいろいろありましたが、思ったよりは疲れませんでしたね。
ですが、あまり雨が続かれても困るというものです。
魔法で服を洗濯するのもいいですが、きちんと日の光に当てて乾かしたいものですよ。
部屋に戻ってくつろぐ私は、部屋の外へと視線を向けます。
まだまだ外は雨が降り続いていて、景色がよく見えません。
長雨は豊穣を約束するといわれていますが、長く続くと気分は滅入ってきてしまいます。
「レチェ様、お夕食の支度が整いました」
「はい、すぐに参ります」
天気だけはどうにもならないですが、一日だけでも晴れてくれないかなと切に私は思いつつ、イリスたちが準備した夕食を食べに食堂へと向かったのです。




