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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第20話 雨の日のできごと

 商業ギルドの人たちが来られてから十日くらいが経ちましたでしょうか。

 ウィルソン公爵領は長雨の時期を迎えたようです。

 毎日雨が降り続いていまして、私は畑のことが心配になってきてしまいます。

 雨の降り続くある日の朝、ノームがひょっこり小屋に顔を出してきました。


「あら、どうされたのですか、ノーム」


 普段はのんびりした様子を見せているノームですが、少し焦ったような様子が見られます。


『主、大変だ。水の精霊がやって来た』


「まあ、そうなのですね。お迎えした方がよろしいでしょか」


 慌てている様子のノームに対して、私はのんびりとした感想を漏らします。

 ところが、ノームの様子はやっぱりおかしいようですね。


『何を言っているんだ。あいつら契約する気満々だ。出ていったら無理やりにでも契約させられる。主は僕らのだ』


 ノームは私と水の精霊が契約することを阻止したいようです。

 ですが、精霊って一人で二体以上と契約できたりするものなのでしょうか。

 私はノームに確認しますが、別に問題はないそうです。

 さらに聞いてみれば、過去には最大で四体もの精霊と契約された方もいらっしゃるとのことです。……すごいですね。

 ノームたちが騒いでいますが、畑の様子は見に行かねばなりません。さて、困ったものですね。


「お姉様、どうかなさいましたか?」


 私が困っていますと、アマリス様がやってこられました。

 そういえばそうです。アマリス様は精霊の声が聞こえるのでした。だから、私とノームが騒ぐ声に反応してしまったのです。

 さて、どうしたものでしょうか。


「な、なんでもありません、アマリス様」


「なんでもないことはないと思います。水の精霊様がいらしてるのでしょう?」


 なんてことでしょうか。先程の会話の内容を全部聞かれています。

 こんな時ばかり、どうしてこうも耳がいいのですか、アマリス様!

 私はノームと目を合わせると、大きなため息をついてしまいます。


「アマリス様に興味を向けさせればいいのですかね」


『うん。前も言ったけど、彼女の方が水の精霊が好むと思うんだ。うまく盾にして契約を回避してちょうだい』


「了解」


 私とノームはぼそぼそと小声で話をしておきます。アマリス様に聞かれるわけにはいきませんからね。


「二人とも?」


 アマリス様が不思議そうに首を傾げています。どうやらちゃんと聞かれなかったようですね、よかったよかった。


 朝食を済ませた私たちは、雨が降りしきる中へと雨具を着て出ていきます。

 畑には雨なんて関係ありませんからね。刻一刻と状況は変わっていくのです。

 それにしても、さすがはノームが肩入れした土地ですね。これだけの雨が降っているというのに、土が流れ出ていくようなことはなくしっかりとした形が保たれています。

 これならば、収穫の時期にはしっかりとしたものが収穫できるでしょうね。今から楽しみでなりません。

 それにしても、アマリス様がまったく落ち着かれないようですね。

 お城暮らしですと、雨の中に外に出かけるなんてことはまあまあありませんからね。はしゃぎたくなる気持ちはよく分かるというものです。


「アマリス様、地面がぬかるんでいますから、あまり走らないで下さい。転びますよ」


「えっ、何か仰りましたか、お姉さ……きゃっ!」


 私が声をかけたために、アマリス様が顔を振り向かせます。

 その瞬間、地面のぬかるみに足を取られたアマリス様がこけそうになってしまいます。

 なんでことでしょう、私のせいでアマリス様が泥だらけに!

 アマリス様を受け止めようと私は急ぎます。ですが、間に合いそうにありません。


 そう思った時でした。


 ぽよんっ!


 ものすごい音ともに、アマリス様は地面との衝突を回避されていました。

 よく見ると間に水のクッションができています。

 一体何があったのでしょうか。


『見つけたわ、私の契約すべき人間!』


 アマリス様の近くに、小さな女性の姿が見えます。あれがノームの言っていた水の精霊なのでしょうか。


『久しぶりだね、アクエリアス』


『げげっ、ノーム。なんでいるの』


 ノームが挨拶をすれば、水の精霊が驚いて後退っています。もしかして仲が悪いのでしょうかね。


『そうだよ。水と土は属性相性が良くないんだ。だから、主と契約をさせたくなかったんだ』


『まあ、そちらにもよさげな魔力の持ち主が。……でも、困ったわね。一度に契約できるのは一人だもの』


 アクエリアスは私とアマリス様を見比べています。


『まあ、いいわ。こちらの子が最初に目に入ったからこちらの子にするわ』


 アクエリアスはアマリス様にぴたりとくっついています。この姿には、ノームはほっとした顔を見せていました。

 ちなみにですが、アマリス様は水のクッションの上で呆然とした様子を見せています。ですが、アクエリアスの能力でしょうか、雨にはまったく濡れていないようですね。


『あなた、名前は?』


「あっ、私はアマリス・ウィズタリアと申します。この国の王女でございます」


 クッションの上で座ったまま、アマリス様はアクエリアスの質問に答えています。

 答えたまさにその時でした。

 アクエリアスは青く光り、その光はすぐにおさまります。


『これで契約が終わったわ。よろしくね、アマリス』


「はい、よろしくお願いします。アクエリアス」


 精霊との契約が無事終わって感動する場面なのでしょうけれど、アマリス様の体勢があまりにも滑稽すぎます。

 私は契約が終わったアマリス様に声をかけ、その場にちゃんと立たせたのでした。

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