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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第184話 王子様とダンスを

 アンドリュー殿下からの挨拶が終わりますと、ルーチェが呼ばれます。

 本来ならば在校生側はアンドリュー殿下の妹君でいらっしゃるアマリス様になるところですが、ルーチェが婚約者ですからこれは仕方ありませんね。

 まあ、何かと申しましたら、こういうパーティーの定番であるダンスですね。

 アンドリュー殿下とルーチェのダンスは、それはとても優雅でした。見ている者をとりこにする、その表現がぴったりでしたね。

 ダンスの腕前ですが、さすが私の妹というべきものでした。


(これで、アンドリュー殿下の婚約者は、ルーチェだということが印象付けられましたね。これで私は自由になれるはずです)


 ダンスを見ていて、私はそんなことを思っていました。

 ところが、それは間違いだったと気付かされます。


「お姉様」


「レイチェル」


 二人揃って私に声をかけてきます。どういうことですかね。

 ちなみにですが、今の私は魔法で染めていた髪を元に戻しております。ですので、名前を呼ばれれば、すぐに私に注目が集まってしまいます。みなさん、あれだけ目を向けないようにしていましたのに、なんなんですか。

 急に呼ばれたので私が戸惑っていますと、アマリス様とルーチェが私に駆け寄ってきて手を引いてきます。

 ちょっと待って下さい。これは、私にアンドリュー殿下と踊れという流れではないのですか?

 いやいやいや、私は魔法学園に入れなかった落ちこぼれですよ。殿下と踊るだなんて、そんな大それたこと……。


 はい、踊らされておりますとも。


 三年間も離れていましたのに、体はしっかりと覚えているものです。問題なくアンドリュー殿下と踊れてしまっています。

 なんでこうなるんですか。

 踊っている間に周りを見てみますと、アマリス様とルーチェは目を輝かせて私を見ていますし、腫物のように私を見ていた貴族たちまで目の色が変わっています。なんなんですかね、もう。


「ルーチェも踊りやすいが、レイチェルはやっぱり息がぴったりだ」


「何を仰られているんですか、殿下」


 微笑みながら語りかけてきますので、私は少しだけむすっとした表情で言い返します。


「今からでもいい。レイチェル、婚約者に戻らないか?」


 真面目なトーンで何を言い出すかと思いましたら、そんなことですか。


「お断りいたします。私は魔法学園にも入れなかった貴族の面汚しです。婚約者の座も妹のルーチェに譲って、家を飛び出た身でございます。今さら殿下の婚約者に戻るなど、ありえないことなのです」


 私は大まじめにアンドリュー殿下に言い返します。

 まったく、なぜ今頃になってそんなことを仰るのですか。まさか、そんなことのために私に招待状まで送って王都に呼びつけたのですかね。だとしたら、迷惑というものです。アマリス様とルーチェの顔を立てるために、私は参列しただけですからね。


「まったく、なにを考えているのかよく分かるな。いつも妹たちのことばかりを考えている」


「当たり前です。可愛い妹たちの幸せを考えない姉などいるものですか」


「本当に、自分のことは後回しなのだな」


「ぶっ飛ばしますよ?」


「おお、怖いな」


 いけません。つい本音が出てしまいましたね。


「いや、正直いうとね。レイチェルの扱いは私たちの方でも議論に上がっているんだよ」


「まあ、どんな風にですか?」


 私たちは踊りながらも話を続けています。


「あの数の魔法かばんを作れる魔力。水着という服を作る発想力。それと、新しい料理を作り出し、食堂を経営しているという手腕だな。これだけの能力を持った女性を、放っておくのもどうかと思ってね」


「それなら、すでに国王陛下との間で契約を交わしているではありませんか。今さらながらに婚約者に戻れなど、ルーチェに失礼すぎます」


「まあ、そうだな」


 アンドリュー殿下の物言いに、私はしっかりと反論をしておきます。というか、これ以上私を縛ろうとしないで下さい。

 万一、王妃になんてなったら、今までのように過ごせなくなってしまうというものです。

 話は平行線のまま、ダンスが終わりました。

 私たちは最後の礼までしっかりと決めて、ダンスを終わらせます。


「アンドリュー殿下」


「なんだい、レイチェル」


「どんなに言われようとも、私は国境の辺境の街キンソンで商人として暮らします。絶対に殿下のものにはなりませんから」


「そっか。そこまで君の心が固いのなら、諦めるしかなさそうだね」


 これだけはっきり申しあげれば、ようやくアンドリュー殿下も諦めてくれました。

 殿下、しつこい殿方は嫌われますからね?

 私は、アンドリュー殿下の元から去り、家族のところへと戻ります。

 その私の姿を、アンドリュー殿下はどこかうらやましそうに見ていたそうですよ。


 お祝いパーティーの残りの時間、私はアマリス様と一緒に過ごさせていただきました。

 久しぶりに会う水の精霊アクエリアスと共に、それは楽しいひと時でしたね。

 ですが、最初にアンドリュー殿下の行為について謝罪されるとは思ってもみませんでしたね。まったく、アマリス様も私が最優先なんですから。

 こんな可愛い方なので、どんな殿方の元に嫁がれるのか、気になります。ですが、現状ではまだ、アマリス様の婚約者は決定していないそうです。

 私はアマリス様の幸せな未来を祈りながら、パーティー会場から去ることになったのでした。

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