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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第18話 理由と目標

 アマリス様がやってこられてから、一か月が経ちました。

 畑の作物は順調に大きくなってきていまして、ものによっては私たちの腰丈近くまで背を大きくしています。

 はっきり申しまして、今の環境にアマリス様がいつまで耐えられるのか分かりませんでした。ですが、一か月が経った今でも特にへこたれることなく畑作業を手伝って下さっています。

 まったくもってこれほどまでに忍耐強いとは思いませんでした。私、ちょっとアマリス様のことを侮っていましたね。

 そうかと思えば、ある日の夜のこと、アマリス様は私に入学試験に向けて勉強を見てほしいと仰ります。

 今の環境に慣れてきて余裕が出てきたということでしょうけれど、どこに一体勉強道具があるのでしょうか。私は思わず首を傾げてしまいます。

 アマリス様が侍女であるハンナに呼び掛けますと、彼女のポケットからなにやらいろいろなものが出てきます。

 なんてことでしょうか。こういう転生ものにお約束の収納魔法のようです。ハンナの着ているメイド服のひとつであるエプロンのポケットに、その収納魔法が掛けられていたのです。


「えっ、あの高等魔法をそんなところに使ってられるんですか?」


「はい。アマリス様をお守りするため、様々な道具をしまい込んでおります。ここならすぐに取り出せますから」


 私がハンナに確認をすると、淡々とした声で答えが返ってきます。

 ええ……、そんなものなのでしょうか。

 私はイリスに顔を向けますが、イリスはとぼけたように顔を背けています。これは、何か知っていますね。


『あれっ、気が付いていると思ったんだけど、主はそういうところに鈍いんだね』


 どこからともなくノームがひょっこりと顔を出します。


「今のはどういう意味なんですか」


『付与魔法に関してかなり鈍いねと言っているんだ。使用人の一部は普通に付与魔法が掛けられたものを持っているんだよ。そこの使用人の女性は二人とも、収納魔法と汚損不可の二つが付与されたエプロンを着けているんだよ』


「え、ええ?!」


 ノームから聞いた話に、つい大声を上げてしまいます。

 私はすぐさまイリスを問い詰めます。すると、イリスはおとなしく頷いていました。


「使用人たちは仕える主に何かあった時にすぐ対応できるようにと、いろいろなものを持たされているのです。私も護身用の武器と非常食をこの通り持っております」


 イリスはそう言いながら、ポケットから短剣と干し肉を引っ張り出していました。まさかこんなものがあるだなんて、転生者としては恥ずべき汚点ですね。

 思わぬ事実を知った私は、思わずその場にしゃがみ込んでしまいました。


「し、知らなかったですわ……」


 しばらくショックで動けそうにありませんね。


「お姉様って、ご存じではなかったのですね」


「なるほど、入学試験に落ちたというのも信ぴょう性が増してきましたね。付与魔法についてご存じでないとは、まったくもって予想外でございます」


 アマリス様は驚きの声を上げ、ハンナは呆れたといった感じで喋っています。

 ええ、悪かったですね。今の今まで知りませんでしたよ。


「付与魔法は学園の授業の中でも重要なことですからね。とはいえ、収納魔法が使える方はごく少数ですけれど」


「うう、反省します……」


 ハンナに責め立てられて、私はただただしょげ返るだけでした。


「ちょっとハンナさん。いくらなんでもレチェ様に言い過ぎです。知らなかったのは事実だとしても、慰めるくらいはしたらどうなのですか。アマリス王女殿下が慕われている相手ですよ?」


「ですから、厳しく申し上げているのです。アマリス様まで入学試験に落ちては困りますからね」


 付与魔法のことで、イリスとハンナの間の空気が一気に険悪さを増してしまっていますね。

 ここは、私が責任を取ってどうにか空気を修復しませんと。


「それでしたら、私と一緒に勉強して参りましょう。入学試験に落ちた現実逃避でこんな場所まで来ましたけれど、アマリス様を私に付き合わせるのは悪いと思いますのでね」


「はい、お姉様。一緒に頑張りましょう」


 私が取り繕いますと、アマリス様がすぐさま乗ってきて下さいます。

 本当に良い方です。

 ハンナはアマリス様の反応に、ただただ困っているばかりのようですね。


「分かりました。では、レイチェル様、アマリス様のお勉強をお任せ致します。くれぐれも失態を犯させぬようによろしくお願いしますよ」


「はい、肝に銘じておきます」


 とてもとげのある言葉でしたけれど、仕方ありませんね。それだけの実績があるのですから。


 こうして、アマリス様の状況が落ち着いたことで、お昼は畑作業、夜は入学試験のお勉強という日々が始まることになりました。

 正直に申しますと、ハンナから向けられる視線はとても痛いです。

 やはり、一度ついてしまったケチというものは、いつまでも尾を引きずるものですね。

 この汚名を返上するためにも、私はアマリス様のお勉強をしっかりと見てあげなければなりません。

 それと、私が見落としていました付与魔法というのも気になります。アマリス様の落第を阻止するためにも、こちらの方は私もしっかりと勉強しませんとね。

 当面の目標が増えてしまいましたので、どうやらしばらくは忙しくなりそうですね。

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