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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第179話 これがだめなら次です

「却下です」


 私は一撃で追い返されました。

 判断を下したのは、ミサエラさんです。


「な、なぜですか?」


 私は食い下がります。ですが、ミサエラさんの判断は覆りませんでした。


 何がありましたかというと、魚を扱うための食堂の二号店を開店させようという話を、ミサエラさんに持ち込んだのです。

 私としてはやる気が十分でしたのに、ミサエラさんからはひと言で断られてしまったのです。


「私の可愛い姪っこの言うことですから、聞いてはあげたいですよ。ですが、商業ギルドとしてのルールというものがありますのでね」


「る、ルール?」


 私にとっては初耳な話です。

 驚く私を目の前にして、ミサエラさんは商業ギルドの決まり事を書いた書面を持ち出してこられました。


「レチェさん、ここを見て下さいますか?」


「えっと、これは……」


「商業ギルドで定められたルールです。昔からあるルールですが、これはさすがに守っていただかないと困りますよ」


 ミサエラさんは、ルールの書かれた書面のとある箇所を指差しておられます。

 そこに書かれていたルールに、私は思わず驚かされてしまうのです。


『飲食店を増やす場合は、一年以上の実績をもって認められた場合のみ、許可される』


「な、なんでこのようなルールがあるのですか、ミサエラさん」


 書かれていたルールを見て、私はミサエラさんに問いかけます。

 すると、ミサエラさんはため息をつかれましてから、質問に答えて下さいました。


「その昔、飲食店を立て続けに出そうとした方がいらっしゃいましてね。店舗の教育がうまくいっていなかったこともあって、食中毒事件が起きたのですよ。死人まで出るような凄惨な事件でしたので、このようなルールが定められたのです」


 なんということでしょうか。昔にそんな無茶をされたことがあったとは知りませんでした。


「レチェさんは教育がしっかりされているようですけれど、このようなルールがある以上、例外は認められません。どうしてもといわれるのでしたら、来年までお待ちいただくしかありませんね。それか、ウィズタリア王国の外に出るかということになります。ですが、レチェさんは国王陛下の監視対象ですので、それは無理でしょうね」


「そんな……」


 私はがっくりと膝を落とします。

 せっかく新しい料理を作り始めたといいますのに、困ってしまいます。

 今扱っている料理とは完全に毛色の違う料理ですから、別のお店を出そうと思いましたのに、こんなルールがあるだなんて……。許せませんね、その事件を起こした方は。

 私が悔しがっていますと、ミサエラさんが声をかけてきます。


「あと半年我慢すればいいのですよ。何も急ぐことはないでしょう?」


「ミサエラさん……」


「そうやって周りを見ないから、これまで何度となくドジをしてきたのでしょう。少しは冷静になって、しっかりとした準備をしなさい。今開いている食堂だってそうでしょう?」


「……はい」


 ミサエラさんの言葉に、私は静かに頷くことしかできませんでした。

 ……そうですね。私は何を焦っているのでしょうか。

 私は、静かに落ち着きを取り戻しました。


「ありがとうございます、ミサエラさん」


「信じてはいるけれど、焦りは禁物よ。新しいことをするつもりなら、それなりにちゃんとした準備が必要なんですからね」


「はい、ご忠告ありがとうございます」


 結局私は、食堂の二号店は来年まで諦めることにしました。

 その代わり、別のことをすることにしました。


 この世界には調味料が少ないのですが、私が普及させようにも作り方が分かりません。

 できることといったら、ワインビネガーと油と塩で作るドレッシングと、ワインビネガーと卵と油で作るマヨネーズくらいです。

 醤油や味噌が欲しいですけれど、分かっているのは材料だけですからどうしようもないですね。


「となると、あとはソースですかね。確か野菜を煮込んで熟成させるはずです」


 野菜を使うとなれば、ノームの出番ですね。種さえあれば、彼らの力を使えば一瞬で収穫までたどり着けますからね。

 思い立ったが吉日です。

 私はイリスに食堂のことを任せ、適当な種を仕入れて農園へと向かいます。


 農園に到着すると、キサラさんたちと出くわしてびっくりされてしまいました。


「わわっ、レチェ様、どうなさったんですか?」


「ええ、やりたいことができましたので、ノームに協力を頼みに来たんです」


『えっ、なになに~?』


 私の声を聞いて、ノームがひょっこりと顔を出してきました。


「よかったです。ちょっと手伝ってほしいことがあるのですよ」


『ほいほい。主の言うことだったら、なんだってやってあげる。何をすればいい?』


「野菜を使った調味料を作りたいので、その材料となる植物を育ててほしいのです」


『了解。種さえあればいくらでも作るよ』


 ノームからは快く協力を得られました。これならば、私の目的はすぐに達成できそうです。

 そんなわけでして、私は早速ノームに頼んで植物を育ててもらいます。


 さあ、ソースづくりの開始ですよ。

 私は両手をぎゅっと握って意気込んだのです。

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