第174話 国王陛下の妙案
その日の夜、私たち一家はお城に呼び出されて夕食の席に同席させられました。
理由は簡単です。私の独立宣言ですね。
そのことで、私は両親からこっぴどく叱られました。話を聞きつけたミサエラさんにも怒られました。
いいじゃないですか、これまで商人をしてきた実績があるのですから。今さらなんだというのですか。
文句は言いたいですけれども、ひとまず今は我慢です。すべての決着は、王家との夕食の席で着けさせて頂きましょう。
私は気合いを入れて、お城へと向かう馬車の中に乗り込みます。
兵士に案内されてやってきたお城の中の王家の食堂。過去にも何度か入ったことのある場所ですが、相変わらずの華やかさのあるお部屋ですね。
部屋の中には、すでに国王夫妻とアンドリュー殿下とアマリス様がお待ちになっておられました。ですので、私たちはきちんと挨拶をします。
着席の許可が出ましたので、私たちはテーブルに座ります。
本来ならば対面に座るのでしょうが、今回はかなり国王陛下から近いところに座ります。そして、なぜか私は、空席を挟んで国王陛下の隣に座らされます。よりにもよって、正面はアンドリュー殿下ですよ。なんでしょうか、この配置は……。
私の隣にルーチェが座り、そこから順番にお父様、お母様、ミサエラさんで座っています。順番がおかしくないですかね。
「なんだ、不満があるのかな、レイチェル・ウィルソン」
じっと国王陛下が私の顔を見てきます。なんでそんなに近付けてくるんですか。
「不満というより、なぜ本来の席順を変えてまで私をここに座らせたのかということが気になります。私の座っている場所は、このような配置であるなら、お母様が座っておられるはずですからね」
私はとりあえず文句を言っておきます。
私の文句を聞いた国王陛下は、意外だなといった顔をしています。なんでそんな顔をなされるのでしょうかね。
「仕方あるまい。今回の話の中心はレイチェルなのだからな。だから、私に最も近い場所に座らせたのだ」
ああ、やっぱりそうなんですね。もしや、私の宣言を聞いて慰留でもするおつもりなんですかね。ミサエラさんまで読んでいる理由も分かりませんし、困ったものですよ。
「そんな顔をするということは、何か勘違いをしておるな?」
「勘違いとは何ですか」
「私は何も、お前の独立を思いとどまらせるために呼んだのではない。農園や食堂の話は私も聞き及んでおるし、その手腕を思えば、むしろ商人をすることの方が望ましいと思うからな」
国王陛下からは意外な声がかけられてしまいました。
では、一体なぜ家族を集めてまでこんな席を設けたというのでしょうか。
「お前はウィルソン公爵家を抜けるとは言っていたが、それは認められない」
目をぱちぱちとさせていますと、一発目からこけさせられます。どうして公爵家から籍を抜くことをお許しにならないのでしょうかね。
「魔法学園の入学に失敗したという大きな汚点があるのだ。それを返上するためには功績を公爵家に帰属させる必要があるからな。だから、籍を抜いた方が都合が悪いのだ」
「なるほど、それは一理ございますわね」
納得させられますね、これは。つまり、籍を置き続けたまま、汚点を雪げるほどの功績を打ち立てればいいというわけです。
抜けてしまえば、汚点は残ったまま公爵家の語り草となってしまうということなのですね。
「分かりました。公爵家から独立することはやめておきましょう」
私がこう言いますと、みんながどことなくほっとした表情を浮かべています。なんでみんなしてそんな反応をするのでしょうかね。
「その一方で、ただのレチェとして生きていきたいということも叶えてやろう。貴族の中には自らの身分を隠して活動する者も存在する。レイチェルもそれに当てはめようというわけだ。で、ミサエラよ」
「はい、国王陛下」
ミサエラさんが国王陛下の呼び掛けに返事をします。元々平民のはずですけれど、とても堂々としていらっしゃいますね。
「レイチェルの商業ギルドの登録を、書き換えることはできるだろうか。今は本名で登録してあるはずだな」
「はい、その通りでございます。ですが、システム上は厳しいかと思われます。元々レチェの名で登録しようとしていたのに、カードには本名で登録されてしまったという過去がございますので」
「そうか……。こればかりは融通が利かぬものな。では、これでどうだ」
ミサエラさんの報告に、国王陛下が提案をするようです。
それによりますと、私のカードは普段は使わないようにして、ギルドマスターなどの一部の人物のみが確認できるようにするみたいですね。
その代わり、普段の取引には国王陛下から下賜された特別な証書を用いることになるようです。それもそれでとんでもない話ですけれどね。
国王陛下の証書を所持することで、私をウィズタリア王国の商人として保護する目的があるということです。これがあれば、私に無理な取引をかけようとしても、国際問題に発展するということで牽制になるというわけのようです。恐ろしいことを考えましたね。
でも、私にとってのデメリットはありませんね。私はよく考えましたが、この提案を受け入れることにしました。
「うむ、決まりだな。早速証書の作成に取り掛かり、明日一番にでも公爵邸に届けよう。そろそろキンソンに戻らねばいかぬだろうからな」
「はい、そうさせていただきます。国王陛下、まことにありがとう存じます」
「うむ。頑張るのだぞ、レイチェル」
なんとか円満に解決してよかったです。
その後の私たちは、適当な会話を楽しみながら、お城での夕食を味わったのでした。




