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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第16話 驚きのアマリス様

 農園に戻ってきた私は、驚くべき光景を目撃します。


「あ、アマリス様?!」


「あっ、お帰りなさい、お姉様」


 私が驚いていますと、アマリス様が笑顔で挨拶をしてくれます。

 ですが、その手に抱えているものを見て、びっくりするしかありません。

 なんと、ノームを捕まえているのです。

 精霊であるノームは人の目に見えることはありませんし、触れることもできないと本人たちが仰っていました。

 ところが、アマリス様はそのノームを手で捕まえているではないですか。これは一体どういう事なのでしょうか。


「お姉様、これっていったい何なのですか?」


 両手でがっしりと捕まえたノームを私に突き出してきます。

 私の後ろにいるイリスや、アマリス様の後ろにいるハンナが、この様子を首を傾げて見守っています。


「あ、あの、レイチェル様。姫様は一体何をつかんでいらっしゃるのでしょうか」


 ハンナが慌てたように私に問いかけてきます。

 普通の人からすれば、精霊は見えませんからね。アマリス様の行動がよく分からないのは無理もありません。


「アマリス様、それが見えるのですか?」


「えっ、みなさんには見えないのですか?」


 私に指摘されて初めてアマリス様は気が付いたようです。

 イリスに確認しても、ハンナに確認しても、ギルバートに確認しても、全員が見えませんと首を横に振っていました。


「アマリス様がつかんでいらっしゃるそのもぐらは、土の精霊のノームです。ノームたちの説明では、魔力が高くないと見えないという風に仰られていましたが、まさかつかめるだなんて……」


 驚きのあまり、私はノームに視線を向けます。

 ところが、ノームはなぜか幸せそうに微笑んでいます。


『なんということだ。僕たちが見えて触れる者が、まさか二人もいるだなんて』


 ノームも驚いたようなことを仰っていますが、表情がまったくもって伴っていませんよ。まったく、でれっとしてしまっているなんて許せませんね。


 まったく、アマリス様もとんでもないお方ですね。さすがはゲームでは隠しヒロインをしていただけのことはあります。

 主人公は私と同い年ですから、ひとつ下のアマリス様というのは、なかなか遭遇が難しいのですよね。

 ゲームにおけるアマリス様ルートというのは、私のルートからの分岐なのですよ。

 ゲームでも公爵令嬢レイチェル・ウィルソンのことをお姉様と慕うアマリス様です。ですので、登場させるにはレイチェルルートを進めた上で好感度を上げなければならないんですよ。

 一年経った時点でレイチェルの好感度が一番高いと、そこから選択肢によって分岐するのです。

 あれ、これって私、捨てられてません?

 シナリオを思い出して、なんだか嫌な気分になってきましたね。

 うん、このくらいでやめておきましょう。


『主、この子は誰?』


 完全に緩みきった顔をしていますが、ノームは突如私に質問をしてきます。

 不意を突かれてしまて、びっくりしてしまいましたね。すぐに落ち着きましたけど。

 質問されたので、私はノームに答えます。


「この方はこの国の王女殿下であらせられるアマリス・ウィズタリア様です。私とは小さい頃からのお付き合いでして、私も妹のように可愛がっています」


「まあ、妹だなんて」


 私の紹介を聞いていたアマリス様が照れていらっしゃいます。まったく、そんな姿も可愛らしいですね。


『なるほど。それじゃ、この子が僕たちを見たり触ったりできるのは、主のせいだね。その子も魔力は多いけれど、僕たちとは波長が合わなさそうだからね』


「まあ、そういうこともありますのね」


 なるほど、魔力があるから精霊が見えるというわけではないのですね。


 この世界には七つの属性があるそうです。

 フィア、ズミ、エル、ギア、ラト、シェド、ルイという七属性です。

 意味は順番に、火、水、風、土、光、闇、無という風になります。この辺りはゲームと同じですね。特殊呼び方があるとは知りませんでしたけど。

 ノームはこの中のギアの属性を司る精霊です。

 ゲームのレイチェルも土属性は得意でしたが、一瞬で家を建てられるほどの反則級の魔力ではなかったのですよね。あくまでもちょっと魔力が多いくらいです。


 ひとまず現実に話を戻しましょう。


「では、この子はどの属性と相性がよろしそうですかね」


『魔力の感じからするとズミかシェドかな。とはいえ、闇属性の使い手は数が少ないし、精霊もあまり表に出てこないから難しいんじゃないかな』


 ノームの見解はこのような感じでした。


「へえ、水か闇なんですね。私も精霊とお近づきになりたいですね」


 話が全部聞かれていましたわ。アマリス様ってば、言葉も分かるのですね。

 でも、水ならまだしも、闇ともなるとあまりいい印象を持たれませんので、アマリス様に闇の精霊がつくことはなんだか避けたい気がしますね。


『主、心配なのは分かるけれど、精霊は基本的に気まぐれだよ。どのような形で契約させられるか分かったものじゃないから、そこはもう気楽に構えるしかないよ』


 私はノームに諭されてしまいました。


 それにしても、昨日からアマリス様には驚かされ続けていますね。

 アマリス様は気品にあふれていらっしゃいますし、どう見てもこの場では浮いてしまいます。

 のんびりと片田舎で農園を営む私の計画は、一体どうなってしまうのでしょうか。

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