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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第148話 お見送り

 翌日、王都に戻られるアンドリュー殿下とアマリス様を見届けるために、私たちは街の入口までやって来ています。ちなみにですが、精霊王様はとっくに戻られてしまいました。忙しい方ですからね。


「レイチェルは、農園に行くつもりなのか?」


 見送りに来ている私に、アンドリュー殿下がこう尋ねてきます。

 そう聞くのも無理はないでしょうね。横にはマサさんたち一家がいますもの。ちなみに、マリナさんについてきたノームとラッシュバードたちもいますよ。


「当然ですよ。マリナさん一人抜けるだけでも、農園の方は大変ですからね。ノームと話ができるのは、彼女だけなんですから」


 私はちらりとマリナさんを見ます。私の視線に気が付いたのか、マリナさんはびっくりした上で、なぜか恥ずかしそうにしています。

 マリナさんにアマリス様が近付いていかれます。


「マリナさん」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 声をかけられまして、飛び跳ねるように驚いていますね。平民が王族に声をかけられるなんて、まずありえませんからね。去年に話はされていましたが、やっぱり慣れませんよね。


「精霊の見える者同士、仲良くしましょう。遊びに来た時には、よろしくお願いしますね」


「お、おそれ多いでございますです……」


 アマリス様の笑顔に、目を回しそうになりながらマリナさんは答えていました。言葉がおかしくなっています。

 二人の様子を見ながら、私はつい笑ってしまいます。


「レイチェル」


「なんでしょうか、アンドリュー殿下」


 再び声をかけられましたので、私は仕方なくアンドリュー殿下に体ごと視線を向けます。


「いずれ、王都に戻らせるからな。この料理、こんな端っこで振る舞うにはもったいなさすぎる」


「お言葉ですが、殿下。私は王都に戻るつもりはございません。あんな醜態をさらした人間を王都に置いておくということが理解できません」


「この二年での実績を踏まえれば、そんな失態、補って余りあるというものだ」


「くどいですね。私は戻りません。王命を出されようと断りますからね?」


 私はきっぱりと言い切っておきます。横ではマサさんたちが顔を真っ青にさせながら、私たちのやり取りを見ています。

 そりゃそうでしょうね。王命を断るって、反逆の意に取られても仕方のない宣言ですからね。


「わたくしはお姉様を支持しますわ。今のお姉様はとても生き生きしていらっしゃいますもの。お兄様、お姉様をこのままにしておいて下さいな」


「アマリス……」


 アマリス様の訴えに、アンドリュー殿下は困っていますね。可愛い妹の訴えですもの、迷うというものですよね。


「あのなぁ……。俺を無視して話を進めないでくれ。他の騎士たちも困ってるじゃないか」


 様子を見かねたワイルズが口を挟んできました。

 私たちがはっとして騎士たちの方を見ますと、早くしてくれないかという雰囲気が漂っています。

 もともと無理に頼んでやって来てもらいましたからね。結局出番がなかったわけですから、とっとと帰りたくなるというものでしょう。

 これにはさすがに私たちは苦笑いですよ。


「そういうわけです。アンドリュー殿下、早くお引き取り下さいな」


「レイチェル。本当に私がそんなに嫌なのか?」


 私が言いますと、アンドリュー殿下はいちいちそんなことを確認してきます。


「誰が殿下のことを嫌っていますか。私は殿下とは婚約を解消しましたが、今もお慕いしておりますとも。ですが、国王陛下と王妃様、それと私の両親の立会いの下で婚約者変更を行ったのですよ? 私より、ルーチェの方を大事にして下さいませんかと申しているのです」


「うっ……」


 私の言葉に、アンドリュー殿下が仰け反っています。痛いところを突かれたというのがよく分かりますね。


「アマリス様、余裕ができましたら、いつかまた王都に遊びに行きますね」


「はい。ルーチェと一緒にお待ちしておりますね」


 私はアマリス様と約束を交わします。

 傷心状態となったアンドリュー殿下を連れて、アマリス様たちが王都へと戻っていかれます。

 さすがに可哀想かと思いましたので、商業ギルドを通じてお手紙くらい出しておきましょうか。

 殿下たちを見送りましたので、私たちも農園に向かおうかと思った時です。前からワイルズが戻ってきました。


「ははっ、レイチェルっていったな。さっきのはなかなか見ものだったよ」


「なんですか。なんで戻ってきたんですかね」


 ワイルズは馬から降りて、私に近付いてきます。なんなのかと私は身構えてしまいます。

 ですが、ワイルズはそんなことにお構いなしに近付いてきます。これが平民主人公の度胸ですか。まったく、アンドリュー殿下にもずけずけ言いますし、恐れ知らずというのは怖いですね。


「やっぱりよく見れば見るほどいい女だな、あんた」


「な、なんなんですか……。人の顔をじろじろ見るなと注意されたはずですよ?」


 しばらく私が睨んでいますと、ワイルズは急に手をポンと叩いています。


「うん、気に入った。卒業したら迎えにくるぜ」


「はあ?!」


 とんでもない爆弾発言をすると、馬にまたがります。


「爵位とかうるさいけど、絶対あんたのことを射止めてやるからな。覚悟しておけよな。じゃあな!」


 言うだけ言い残すと、ワイルズはさっさと去っていってしまいました。

 唐突なことすぎて、私たちはしばらくその場を動けずに呆然としてしまうのでした。

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