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第13話 思わぬ恩恵

 王都で大騒ぎになっているとも知らず、私は今日もイリスとギルバート、それとノームたちと畑仕事に勤しんでいます。

 初めの頃こそ戸惑いのあったイリスたちですけれど、今ではとても積極的に畑に顔を出しています。

 まったく、貴族たちのしがらみから解放されてのんびりと畑いじりをするというのは、なんて気持ちのいいものでしょうか。

 私の今の楽しみは、自分の手で育てた作物を初めて収穫する時です。そのためには、ノームの手助けがあるとはいっても気を緩めることなく、しっかりと育てていくことですね。

 一度手を休めた私は、肩に下げた手拭いで汗を拭います。

 まだそれほど暑くはない時期ではありますけれど、さすがに日中ずっと外にいて畑作業をしていると、じんわりと汗がにじんできますね。


「レチェ様、そろそろお昼に致しましょう」


「あら、もうそんな時間ですのね。ギルバート、あなたの方はいかがでしょうか」


 いつの間にか小屋の方に引っ込んでいたイリスが声をかけてきます。

 空を見上げると、確かに日の光はかなり高くなっていました。

 心なしかお腹が空いた感覚を覚えた私は、ギルバートに声をかけます。


「ちょっと待ってて下さいよ。レチェ様の魔法が素晴らしいせいか、雑草までもが生い茂ってましてね。引っこ抜くのに時間がかかってるんですよ」


「あらあら、そうですのね。それは困ったものですね」


 ギルバートの足元を見てみますと、確かに作物とは別の種類の雑草が生えています。

 あそこは一度耕してもらったので、その後に紛れ込んだということなのでしょうか。


「ノーム、あそこに紛れ込んだ植物、ちょっと別の場所に移動させて下さいな。私はギルバートが引っこ抜いた分を回収してきます」


『分かったよー』


 私がこそこそと声をかけると、ノームたちはエッホエッホと移動していく。もぐらの姿で二本足で走っていく姿は、なんともシュールですね。


「ギルバート、そこの草はノームたちにお任せしましたから、あなたもお昼にしましょう」


「分かりました、レチェ様」


 私が再び声をかけますと、ギルバートはやれやれといった顔でようやく作業の手を止めていました。

 近くに積もった草の量を見てみますと、相当生い茂っていたようですね。

 私はギルバートと入れ替わるように移動して、引っこ抜かれた草を見ています。


「すごいですね。こんなに薬草が生い茂っているっておかしくないですかね」


『うん、確かにおかしい。野生に群生していても、ここまでってことはまずないよ』


「私とノームのせいでしょうかね」


『多分~』


 ノームたちはまだ地面に埋まっている薬草を魔法で除去しながら、別の場所へと移していきます。

 それにしても、この薬草たちってどこからやって来たのでしょうかね。商業ギルドで購入した中にはありませんでしたし、風で飛ばされてくるなんてこともまずないでしょう。


『主~、これがここで生えている原因だけど、思い当たる理由はあるよ』


「本当ですか?」


『うん、僕たちのせい。移動してくる際に体に付けてきちゃったみたいだ』


「そうでしたのね。納得しました」


 意外と簡単に薬草が生えていた理由が分かりました。

 そうですね。ノームも見た目はただのもぐらですから、移動してくる時に体にいろいろとくっつけてきてもおかしくないでしょうね。

 なんとも納得の理由でした。


 そんなわけでして、午後はギルバートと一緒に、引っこ抜いた薬草を持って商業ギルドに向かうことにしました。

 ギルバートは自分が苦労して引っこ抜いていたものが薬草だと知って、それは顔を青くしていましたね。だって、彼はかなり無造作に力任せに引っこ抜いていましたもの。

 魔物も存在するような世界です。薬草というものは需要が高いですから、それは当然青ざめますよね。

 商業ギルドに向かう間、私はギルバートの反応を見ながら、つい笑い続けてしまったのでした。


 ちなみにですが、商業ギルドに入手方法を確認された時は、野生動物たちが運んできたとごまかしておきました。さすがにノームのことは言えませんからね。

 精霊と契約しているなんて知られたら、せっかくの農園生活が壊されてしまいます。

 ギルドの人たちもにわかに信じられないという顔をしていましたが、首を突っ込んではいけないと思ったらしく、黙って査定に入ってくれました。

 山のような量でしたから、結構な金額になりましたね。これなら、当面の生活は困りそうにありません。

 ギルドの人たちからは、次はいつ手に入るかというようなことを聞かれましたが、全部根こそぎ引っこ抜いたと伝えたらがっかりされましたね。薬草ですから、仕方ないですね。


「いやあ、ただの雑草だと思ってたんですが、あれって薬草だったんですね。気が付かれるとはさすがレチェ様です」


「うふふふ、たまたまですよ、兄さん。あの子たちがいますからね、私たちには」


「ああ、そうですね」


 私がノームたちのおかげだと暗に返すと、ギルバートはすんなりと言葉を理解して納得していました。さすがは私の護衛です。

 実にほくほくした表情で農園へと戻っていった私たちですけれど、そこでまさかの事態が待ち受けているとまでは予想できませんでした。

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