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第127話 大変なお知らせが届きました

 スピードたちの様子は問題なく、どんどんと月日は流れていきます。

 食堂の開業から三か月が経過した時、私は商業ギルドに呼び出して受けましたので、早速出向くことにしました。


「レチェさん、お伝えすることがあります」


 商業ギルドの中で、私はいきなりこんなことを言われます。

 こう仰るのは、商業ギルドの副マスターであるミサエラさんです。ものすごく真剣な表情です。


「ど、どうなさったのですか、ミサエラさん。そんな怖い顔をしまして……」


 私は思わず問い掛けてしまいます。


「これを、お読みください」


 ミサエラさんが神妙な面持ちで差しだしてきたもの、それは一通の手紙でした。

 ですが、封蝋を見て私は思わずぎょっとします。

 そこにあったのは、まぎれもないウィルソン公爵家の封蝋です。


「まさか、お父様たちが……?」


 私が問い掛けますと、ミサエラさんがこくりと頷いています。


 マジですか……。

 私は困り果てた顔で手紙を受け取ります。

 中身を確認すると、お父様、お母様、そしてリキシルおじさまが勢ぞろいでいらっしゃるようです。

 困りましたね。勢ぞろいした上で私と話をすることになりますと、私が公爵令嬢だと全員に知れ渡るでしょうね。

 むぅ、困ったものです。


「さすがに公爵様のご訪問を止めることは叶いませんよ。なんといってもここは公爵領なのですからね」


 確かにその通りなのです。自分の領地を視察するのですから、誰に求める権利なんてありません。娘である私だって例外ではありません。

 そもそも領主による視察は、領地の健全な経営のためには必須ですからね。

 おそらくはルーチェから話が漏れたのでしょう。口止めはしていませんでした、仕方ありませんか。あの子にとっては、私は自慢の姉でしかないのです。


「食堂のみなさんには伏せておいた方がいいでしょうかね。何も知らない方がいいと思いますよ」


「私もそう思いますね。事前にお伝えしてぎくしゃくされる方がかえって面倒なことになりそうです。イリスにだけは伝えておきますけれど」


「それでよろしいかと。しかし、夫もわざわざ来られるとは、私に何か用があるのでしょうかね」


 ミサエラさんはリキシルおじさまの同行を気にしているようですね。一応知られていないだけで、自分の夫ですからね。別々に仕事をしているだけに、顔を合わせることにちょっと抵抗がある感じのようです。

 とはいいましても、こうやって通告が出されてしまった以上は受け入れるしかありません。

 幸い、何日後くらいにやって来るという日にちが記載されていましたので、私たちはその日に向けて粛々と準備をするだけです。


「げっ……」


 手紙を最後の方まで読んでいた私は、思わず公爵令嬢らしからぬ声を出してしまいます。


「お父様ったら、もう……」


 書かれていた内容に、私はがっくりと項垂れています。


「農園まで見にいらっしゃるおつもりですか……。今までずっと放置していましたのに、なんでまた急に……」


 私はお父様の意図がつかめませんでした。

 ですが、ミサエラさんはひとつ思い当たることがあるようです。


「レチェさん、今年の頭の方にどなたかがいらっしゃったことを忘れておりませんか?」


「あ……」


 こう指摘されまして、私はすぐに思い出しました。

 そう、アンドリュー殿下です。

 私のことがまだ気になっていらっしゃるのか、こっそりと私の様子を窺いにいらしたのですよね。イリスが厨房にいたことで私に視察のことはばれてしまってましたけれど。

 人の口には戸が立てられないとは言いますが、本当に困った人たちです。でも、それだけ私のことを心配なさっているのでしょうね。


「一度公爵邸に寄られるでしょうから、通告された日付を見ますと、日程はギリギリですね。しかし、なぜ今になってなのでしょうか」


「三か月は、だいたい経営が安定期に入る頃にあたります。ですので、きちんと営業できているのかということを確認なさるおつもりなのでしょう」


「なるほど。そういうわけですか」


 さすがは商業ギルドの副マスターでいらっしゃいます。なんという的確な分析なのでしょうか。


「まあ、それは建前上の理由ですね。単純にアンドリュー殿下に先を越されて慌てたんだと思いますよ。公爵様も奥様も、レイチェル様とルーチェ様を本当に大事に思っていらっしゃる方ですからね」


「それは、まあ、分かりますね……。あんな大失態を犯した私を、公爵家の籍にまだ置いていらっしゃるんですもの。普通なら追い出しますよ。公爵家全体で始まって以来なんですからね」


「本当にレチェさんは愛されてますね」


 私の呆れた表情に対して、ミサエラさんはくすくすと笑っています。


「私は爵位とか家柄とか関係なしに、レチェさんのことは気に入っていますよ。あれこれと出されるアイディアといい、一瞬で家を建てたという魔法といい、本当に期待の方でいらっしゃいます」


「あ、ありがとうございます」


 ミサエラさんに改めて言われますと、なんだか照れくさくなりますね。

 手紙を受け取った私は、ミサエラさんと話を終え、食堂に戻っていきます。


 当然ながら、この話を聞いたイリスは驚いていましたね。

 どんなに騒ぎましょうが、約十日後にはお父様たちが来店なさいます。

 他の方に気付かれないように、私とイリスは密かに話し合いをすることにしました。無事にやり過ごせるでしょうかね。

 ああ、ちょっと胃が痛い気がしますよ……。

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