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第126話 引越したけど心配です

 ラッシュバードのお引越しからしばらくの間、私は毎日のようにスピードたちの様子を見に小屋へと向かうことにしました。なんといっても心配だからです。

 街の入口からちょっと奥に入ったところですが、日当たりはよく、広々とした場所です。公爵領の端っこの方で他国の方も来られるような場所ですので、治安はよいと思っていますが、油断はなりません。

 私はこの距離でも身を守れるように防犯対策をしっかりした上で向かいます。

 新しい小屋では、スピードたち四羽のラッシュバードが仲良くしています。


「ブェーッ!」


「ブェブェッ!」


 相変わらず、なんともいえないすごい鳴き声です。翼はばたつかせながら、じゃれ合っているようですね。

 魔物の場合ですと、私たちと違って親子の関係は希薄だといいます。なので、自分たちから生まれた子どもとはいえど、眷属化によって大きくなった四羽は敵同士ということになるのでしょうかね。

 ところがです。心配そうに私が覗き込みますと、なんとさっきまでの様子が嘘のようにおとなしくなりました。どうやら私のことはみんな分かるようですよ。主である私の前で悪いことはしていたくないみたいですね。


「スピード、スター、イチ、ウノ。元気にしていますか?」


 鳥小屋に私が入りますと、四羽ともそろって私の方へと駆け寄ってきます。まったく、体が大きいですのに、そんなに勢いよく迫って来ないで下さい。

 私が困った顔で両手を広げていますと、私に近付いてきたところでスピードを緩めて、そっと私の手の中に収まってきました。私に対しては気遣いのできるいい子たちですね。

 私に頭を擦りつけてくるスピードたちを順番に撫でておきます。

 まったく、私の前ですとみんな気持ちよさそうな顔をしていますね。


 私がスピードたちを撫でていますと、ウィルくんとジルくんがやって来ました。


「あれ、レチェ様。こんな早くからいらしてたんですか?」


「はい、新しい環境になじんでいるのか心配でしたので、朝の営業を終えてすぐにやって来ました」


「そうなのですね。さすがレチェ様です」


 褒めてくれているのですが、私としては当たり前かなと考えています。だって、この子たちは私の眷属なんですから。主たる者、下の者を心配して当然だと思うのです。


「さあ、スピード、スター、イチ、ウノ。朝ご飯を持ってきてあげましたよ」


「ブフェーッ!」


 私の言っていることが理解できるようですので、すごく大きな声で鳴いています。本当に元気ですね。

 でも、まだ朝の時間です。あまり迷惑になっても困りますから、私は優しく注意しておきましたよ。


 四羽に餌を与えて、ウィルくんとジルくんに世話をお願いしますと、私は小屋の中へと移動します。それというのも、ドーンさんの姿が見えなかったからです。

 小屋の中に移動すると、朝食を終えたドーンさんが武器の手入れを行っていました。


「これはレチェさん。どうしたんですか、朝早くから」


 私の姿にドーンさんがびっくりしていました。


「おはようございます。スピードたちの様子を見に来ました。環境が変わって、どんな影響が出ているのか心配になりましたからね」


「なるほど……。確かにラッシュバードは魔物ですから分からないことが多いですもんね」


 ドーンさんはすぐに理解したようです。さすがは冒険者ですね。頭の回転はとても速いようです。


「でも、わざわざ自分で見にくるあたり、レチェさんは心配性ですな」


「えへへ……」


 思わず私は照れてしまいます。


「ひとまず、一週間は見に来させて頂きますね。あの子たちは私にとって家族ですから」


「分かりました。そもそもレチェ様の管轄なんです。外部の俺たちに遠慮する必要はありませんよ。好きな時に来て、好きなようにしていって下さい。俺たちはそれに従うだけです」


 なんとまあ、ドーンさんは器の大きい方のようですね。


「分かりました。それでは好きにさせていただきますね」


 ですので、私も笑って答えておきます。

 引越初日の今日は、日が暮れる頃まで滞在して、夕食を用意してから私は帰ることにしました。

 スピードたちの様子次第では、様子を見る期間を短くできると思います。


「ブェーッ!」


 ドーンさんと話をしていますと、大きな鳴き声が聞こえてきます。


「まったく、この声はイチですね。それでは、ドーンさん。私は鳥小屋に行ってきますね」


「ああ、分かりました」


 その後、ドーンさんはしばらく首を捻っていたそうです。私が鳴き声で誰か言い当てたのが分からなかったからだそうですよ。

 ふふっ、これも眷属化の恩恵でしょうね。

 この日の私は、精一杯スピードたちと触れ合いました。少しでも不安が和らぐようにと、それは接し過ぎというくらいに。


 夕方になって、ウィルくんたちの夕食の支度をします。食堂と違って設備はこちらの一般家庭並みのものしかありませんが、これにも慣れていますので問題ありません。


「では、私はこれで失礼しますね」


「あれ、レチェ様はこちらで食べていかれないのですか?」


「はい。私はまだ仕事がありますからね。それが終わってからです」


「まったく、無理すんじゃないぞ。開店時にも一度倒れかけたんだ。養生してくれよ」


「お気遣いありがとうございます。では、私はこれで」


 私は最後にもう一度スピードたちに挨拶をして小屋から帰っていきます。

 なんだかすでに大丈夫そうで安心したのですが、ちょっと寂しくなりましたね。

 ですが、まだ食堂は開業一か月ちょっと。これから先は長いのです。私は寂しい気持ちを気合いでごまかして、食堂へと戻ったのでした。

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