第125話 ラッシュバードのお引っ越し
さて、新しいヒナが誕生しました。
イチとウノと名付けられたラッシュバードも連れて、鳥小屋の引越です。
ティルさん、ウィルくん、ジルくんの三人も新しい住居がどんなところなのか気になっているようです。
それにしても、歩いているとじろじろと見られますね。ラッシュバードを四羽も引き連れていれば、それはまあ目立ちますでしょうか。
「ブェ、ブェ」
スピードたちも気になっているようですね。
私は四羽を落ち着かせるために、一羽ずつ順番に撫でておきます。みんな嬉しそうに笑うものですから、本当に心が通っているようにしか思えませんね。
街の人もほとんどがラッシュバードに慣れているようですので、私たちのことを微笑ましく眺めていらっしゃいますね。
時折驚いている方が見えますが、ここは初めてなのでしょうね。
私は笑顔で手を振りながら、みなさんに挨拶をしておきました。
そうこうしている間に、新しい鳥小屋に到着です。もう敷地全体が鳥小屋のような感じでして、ティルさんたちの住む小屋がおまけのようでしかないですよ。
「ドーンさん、キャリーさん」
鳥小屋の前には、住み込みの護衛として雇った冒険者のお二人が待ってられました。昨日もお店に来られていましたので、今日お引っ越しだと伝えておきましたからね。
「これはレチェ様。お待ちしておりました」
「やめて下さい、よそよそすぎます。レチェさんでいいですよ」
「は、はあ……」
私が呼び方を訂正しますと、ドーンさんは困ってしまっているようでした。
私は確かに公爵令嬢ですけれど、今は平民の商人レチェですからね。やっぱりそういう立場でいますと「様」とつけられるのはくすぐったくてたまりません。
ですから、訂正させて頂きます。
ドーンさんとキャリーさんと合流しましたので、まずはラッシュバードを小屋に案内します。四羽では広すぎますが、最初だから仕方ありませんね。
「ブフェーッ!」
生まれたばかりのイチとウノが大はしゃぎです。
首に巻いたスカーフですが、赤色に白の縁取りがイチ、白色に赤い縁取りがウノです。調べてみましたら、イチがオス、ウノがメスということも分かりましたね。これで来年の卵は期待できそうです。
そんなことは抜きにしましても、私にとってこのラッシュバードたちは可愛い家族です。
ただ、私が忙しくなりそうですから、ウィルくんやジルくんにお任せになってしまいます。ですので、二人にもラッシュバードたちにも仲良くするようにとしっかりと言い聞かせておきます。私の言葉に、ウィルくんとジルくん、それとラッシュバードたちは首を縦に振ってくれています。
みんな聞き分けがいい子たちで助かりますね。この様子にはひと安心ですよ。
そんなわけでして、小部屋を挟んだ扉を通って鳥小屋に入ります。
本当にかなり広いですね。壁は高さがありますが、天井はありません。ラッシュバードは飛べませんからね。
その代わり、寝床となるスペースには屋根があります。あと、小屋の中には数か所の水魔法を施した魔石による水飲み場があります。お手洗いも完備していまして、これが肥料にもなります。
「鳥小屋っていうには、ずいぶんとしっかりとした設備になってるな」
「はい。大切な家族ですし、食堂を陰で支えてくれる子たちですからね。来年からは卵料理を加える予定ですから」
「ほう、それは楽しみだな」
「レチェさんの料理はおいしいから、新しい料理も期待できますね。ふふっ」
ドーンさんとキャリーさんが揃って期待していますね。でも、こちらの食事は基本的にティルさんなんですよ、用意するのは。私が作るのはお昼だけですよ?
まあ、これは黙っておきましょうか。ティルさんが作る料理も私が作ってきた料理ですからね。
話もそこそこにしまして、スピードたちをわらが敷かれたスペースに案内します。用意できた量が少ないので、まだ全体の二割程度しかわらの敷かれた寝床はありません。
食材とともにキサラさんに持ってきてもらいますが、とても間に合いそうにありませんね。困りました。
私が悩みながら寝床を見ていますと、スピードが近付いてきます。
「ブェフェ、ブェブェブフェー」
珍しく長く鳴いていますね。まるで私に話し掛けているようです。表情から察するに気にしないでくれといったところでしょうか。
私はスピードの首筋を微笑みながら撫でておきます。スピードは嬉しそうな顔をしていますので、おそらく合ってたのでしょう。
スピードたちの引っ越しが終わりましたので、改めて小屋の中を見ます。
基本的にはティルさんたち親子と、護衛であるドーンさんとキャリーさんは別住まいです。共通になるのは食堂といった設備で、それぞれの居住空間の間にあります。
ミサエラさんが手配してくれた家具も先日運び込まれましたので、生活は今からでも始められます。初月のお給金も支払われていますので、みんな生活には困らないでしょう。
「土魔法で作った家ですので簡素ですけれど、頑丈さだけは保証します」
「これが土魔法って……。警備をしていた時にも思ったが、やっぱりレチェさんってとんでもないお人だよな」
「まったくですよね」
驚かれてしまっていますね。
とりあえず、この小屋はこれからは五人で住んでいただきます。特に行動は制限いたしませんから、好きに過ごしてもらって大丈夫だと伝えておきました。
こんな感じで無事にラッシュバードたちの引っ越しが終わりました。
同じ街の中とはいえども、環境が大きく変わります。ちゃんと生活できるのか心配ですので、しばらくはきちんと様子を見ることにしましょう。