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第12話 ウィズタリアの王子と王女

 私はアンドリュー・ウィズタリア。ウィズタリア王国の第一王子だ。第一とは名乗ってはいるが、私には弟はいない。

 代わりに、可愛い妹がいる。

 名前はアマリス・ウィズタリアといい、私のひとつ下になる。

 王家は金髪に碧眼という特徴を持っている。

 今日の私はとても憂鬱だ。

 今日から学園が始まるというのに、私の婚約者であるレイチェル・ウィルソン公爵令嬢が学園にはいないというのだ。

 ひと月前には結果が分かっていたはずだが、昨日まで私はその事実を知らなかった。

 公爵は義務として私の侍従であるジャックには伝えていたのだが、ジャックが私はおろか、父上たちにも知らせていなかったようなのだ。

 将来的に王妃として迎えることを楽しみにしていたので、ショックを受けることを憚ってのことらしいが、報告義務を怠ったのは事実だ。あとで何らかの罰を与えねばなるまい。

 それはそれとしてだ。

 私はもう一つ悩んでいることがあった。

 それが妹のアマリスだ。

 アマリスはレイチェルのことを実の姉のように慕っている。そのため、学園に入学できなかった上に、王都から姿を消したとなるとショックを受けることだろう。

 ジャックが報告しなかったのは、そういうことなのだろう。私たちに伝えれば、妹の耳には必ず入るからな。


「はあ、実に気が重い……」


 学園の制服に着替えた私は、いよいよ学園に向かうことになる。

 時間になるとジャックが現れる。


「殿下、馬車の準備が整いました」


「うむ、すぐに向かう」


 私が部屋を出ようとすると、ひょっこりと妹が顔を出してきた。


「お兄様、いよいよ学園ですね」


「ああ、そうだな」


「お兄様、なんだか元気がありませんですね」


 にこやかな笑顔を見せていた妹の表情が曇る。

 なんということだ。この世で一番可愛い妹の表情を曇らせてしまうとは。これは兄として失格だ。


「なんでもないよ。今日は学園の入学式、新入生代表として挨拶をしなければならないから、ちょっと緊張してしまっているようだ」


「そうなのですね、お兄様」


 妹が笑顔を取り戻す。これには私もほっとする。

 しかしだ。この妹に、レイチェルのことをどう話せばいいのだろうか。

 レイチェルが学園に入学していないと聞けば、間違いなく泣き崩れるだろう。何かの間違いだと泣き叫ぶだろう。

 そんな姿が容易に思い浮かぶほどには、妹はレイチェルのことを慕っているのだ。


「殿下、向かいませんと遅れてしまいます。アマリス王女、ささっ、お部屋に戻って下さい」


「あ、はい。そうですね、お兄様の邪魔はよろしくありませんね」


 アマリスが私から離れて扉の脇へと移動する。


「では、お兄様、行ってらっしゃいませ。学園でのお話、楽しみにしております」


「ああ、そうだな。行ってくる」


 私は妹と挨拶を交わして、学園へと向かう。

 しかし、このあと、まさかあんなことになるとは思わなかった。

 この時が、私が妹の姿を見た最後になろうとは……。


 ―――


 お兄様が学園へと向かわれました。

 私も来年から通うことになる魔法学園です。


「ふふっ、お兄様ってばどんな学園生活を送られるのかしら。婚約者であるレイチェルお姉様もいらっしゃるでしょうから、それはとても楽しそうな学園生活になるのでしょうね」


 私はお兄様の学園生活の風景を想像して、一人でにやけてしまいます。

 ですが、その私の浮いた気分も、午後には打ち砕かれてしまいます。


「なんですって、そんなわけありません!」


 私はつい怒鳴ってしまいます。

 こんなに気持ちが抑えきれないなんて、五歳の頃以来だと思います。

 なぜ私がこんなに落ち着かないかというと、レイチェルお姉様が学園に通われていないということを知ってしまったからです。

 あの優秀なお姉様が、学園の入学試験に落ちたというのです。信じられるわけがないのです。


「それは事実なのですか、ハンナ」


「はい、間違いございません。この耳でしかと聞きました」


 私は、侍女であるハンナを問い詰めます。

 彼女は午前中にお使いに出ていたのですが、その最中に他家の侍女が噂している話を聞いてしまったのです。

 ウィルソン公爵家のレイチェルお姉様が、学園に通われていないという噂話を。

 その話を聞いた私は、いてもたってもいられません。すぐさま、ウィルソン公爵家へと突撃します。


(そんな、あのお姉様が学園の入学試験に落ちられるなんて、何かの間違いです!)


 どうしても信じられない私は、とにかく馬車を急がせます。

 たどり着いた公爵家で、私は更なる追い打ちをかけられてしまいます。


「事実……なのですか?」


「はい、申し訳ございませんが……」


「娘はショックのあまり、公爵領にて療養をしております。王女殿下にお知らせせずに、大変申し訳ございません」


 公爵夫妻から、謝罪とともに事実だと告げられたのです。

 私はショックを隠し切れませんでした。

 ですが、これでおとなしくお城に帰る私ではありません。大好きなお姉様を追いかけさせて頂きます。


「分かりました。私も公爵領へと参ります。私がお姉様を慰めて差し上げます!」


 私は勢いでそう告げると、公爵邸を出ていきます。

 待っていて下さい、お姉様。

 この時の私は、落ち着きを完全になくしていましたね。

 私はすぐさま公爵領へと向けて馬車を走らせたのでした。

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