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第11話 一か月

 新しい生活を始めてから前世でいうところの一か月が経とうとしています。

 こちらの世界でも一年は十二か月ですが、ひと月あたりの日数が違っています。

 ひと月はすべて三十五日間あります。なので、一年は四百二十日ということになりますね。

 一年が十二か月あることや、一日が二十四時間、一時間が六十分であることなど、こういうところはさすが日本人の作ったゲームらしいシステムですね。

 ひと月の日数が違うことは戸惑いますが、七日間を一週間とすると、二十八にするか三十五にするか悩んだと思われます。それで、一の桁の数字が五の方を選んだのでしょう。

 私が『前世で』と加えたのは、三十日が経ったからです。こちらのひと月と外れるために、このように表現しました。


 それで畑の状況ですが、ノームが手伝ってくれたために、作物の生育は実に順調です。

 ノームにしてみれば雨が降ろうが日照りが強かろうが関係ないようでして、毎日熱心に畑を見てくれています。

 その見返りとして、時々彼らは私の魔力を欲するのですが、畑を見ていてもらっているので断る理由がありませんね。

 なんでも、私に撫でてもらえればそれでいいというので、数日ごとに一度、勢ぞろいしたノームたちの頭を撫でて労ってあげています。

 私が頭を撫でてあげると、ノームたちはとても幸せそうな顔をしていました。こんなことで喜んでくれるのなら、いくらでもして差し上げますよ。


「レチェ様、そういえば、そろそろ王都では学園が始まる頃ではないですかね」


 イリスが私に声をかけてきます。

 そういえば、あれからもうひと月が経過するんですよね。となれば、確かに王都の魔法学園では入学式が行われるはずです。

 まあ、私は入試で落ちましたし、今さら関係ありませんね。


「イリス、学園のことなんてもうどうでもいいのです。ただ、何か気になる情報がありましたら、それだけ教えて下さいませ」


「はい、承知致しました」


 急に思い出す程度の思い入れしかない学園のことなんて、もう気にすることはありません。

 私はイリスに学園のことはあまりに気に掛けないように言い聞かせておきました。


「さあ、今日ももう少し畑のお世話をしましょうか」


 私は背伸びをして体をほぐすと、畑に生えた雑草を引き抜きに向かったのでした。


 ―――


 その頃の王都では……。


「さて、いよいよ明日から学園が始まるな」


「はい、左様でございますね、殿下」


 お城の一室で王子が侍従と話をしている。


「ウィルソン公爵家の長女も、確か今年入学だったな。彼女ももちろん学園に通うのだろう?」


 王子が侍従に話し掛けると、侍従はうぐっと言葉を詰まらせていた。

 さすがに王子もこれにはおかしいと感じる。


「どうしたんだ、ジャック。ウィルソン公爵令嬢に何かあったのか?」


 じっとジャックと呼んだ侍従を睨み付けている。

 王子からの執拗な睨みに、さすがのジャックも観念したようだ。


「じ、実は殿下……。残念なお知らせがあるのです」


「どういう知らせなんだ、言ってみろ」


 侍従の態度があまりにもおかしいので、王子はさらに凄みを利かせる。

 あまりにも強い王子の圧に、ジャックはついに観念する。


「はい、殿下が気になさっておられるウィルソン公爵令嬢なのですが、どうやら学園の入学試験に、その……」


 ここまで言いながらも、ジャックは再び言いよどんでいる。

 なんとも煮え切らない態度に、王子はもう一度気迫の困った表情を向ける。

 さすがにここまでやられては、ジャックも観念したようだ。


「失礼致しました、殿下。ウィルソン公爵令嬢なのですが、入学試験に落ちられまして、今はウィルソン公爵領にいらっしゃるそうなのですよ」


「なんだって!?」


 寝耳に水な事態に、王子は大きな声を出していた。

 

「くそっ、なぜそのようなことに。というか、なぜジャックが知っている!」


「殿下への伝言を預かったからでございます。言うかどうかは私のタイミングに任せると仰られておりましたので、黙っておりました」


「お前な。そういうことはすぐに知らせるものだぞ!」


「も、申し訳ございませんでした、殿下」


 王子の怒りに、ジャックは深く頭を下げて謝罪している。


「まあ、よい。それで、その事実は社交界には?」


「現在は知られていないと思われます。ですが、さすがに明日には大々的に知られることになるでしょうな」


「だろうな。入学式となれば、学生が全員集まる。彼女ほどの家柄と風貌ともなれば、かなり目立つからな……。はあ、どうしたものか」


 王子はため息をついている。


「殿下、お気持ちはわかりますが、彼女は学園に入学できなかったのですから素直に諦めましょう」


「そうだな……。魔法学園の卒業は、王家にとって必須。そこにすら入れなかった彼女は、諦めるしかあるまい……」


 王子の落胆は火を見るよりも明らかだった。

 さすがにここまで落ち込んでしまっては、ジャックもかける言葉が見つからなかった。


 レイチェル・ウィルソン公爵令嬢の落第。

 その事実は、翌日の王都に大きな衝撃をもたらすこととなるのである。

 当のレイチェルは、そんなことも知らずに今日も農園の手入れを行っているのだった。

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