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第108話 オーナーたるもの

 朝のパンの販売が終わりまして、いよいよまるっと一日間のお休みに入ります。

 私はみなさんにはすぐに休むように言い渡しまして、パンの売上の集計を始めます。


「レチェ様」


「なんですか、ギルバート」


 いざ計算を始めようとした時、ギルバートが顔を出してきます。私は手を止めて反応します。


「いや、警備に雇った冒険者たちはどうなさるおつもりかと思いましてね」


「そのまま仕事にあたらせて下さい。告知が今日の朝でしたので、知らない方がお昼にいらっしゃるかもしれません。冒険者の方々に対応して頂きましょう。ちゃんとお給料と食事もお出しします」


「分かりました」


 ギルバートが出ていこうとしますが、私は呼び止めます。


「ギルバート、もうひとつ頼みがあります」


「なんですか、レチェ様」


「農園に戻って、小麦粉を大量に持ってきて下さい。ノームに頼めばすぐにできますでしょう?」


 最も減りの速い小麦粉の補充を頼みます。マリナさんに頼めばノームと意思疎通ができます。私からの頼みといえばノームも断れませんから、すぐに用意できるでしょう。

 ギルバートは渋々馬にまたがり、外へと出ていきました。

 頼みますよ。明日の営業はあなたにかかっているんですから。


 ギルバートをお使いに出した私は、売り上げのチェックに戻ります。

 今日はパンが一千個売れましたのでね、かなりの金額です。

 冷静にこの街の人口を考えれば、一千個は相当だと思いますからね。明らかに応援が過剰だったように思います。だって、私のところ以外にもパン屋さんはありますしね。

 ですが、今日の挨拶はどうにも悪手だったと思います。

 私たち自身もそうですし、お店の方にも体力がないことを露呈させてしまったのですからね。おそらく失望された方々もいらっしゃることでしょう。

 これからどうやって信頼回復に努めるか、課題はそこになりそうです。


 さて、無事に売り上げのチェックが終わりましたので、私はせっかくの休みということで、スピードとスターと戯れることにします。


「ブェッ!」


 私が姿を見せると、嬉しそうに翼を広げて出迎えてくれました。


「スピード、スター、元気ですか。ここしばらくかまえませんで申し訳ありませんでした」


「ブフェ!」


 私が謝罪しますと、スピードとスターは私に駆け寄ってきて頭を擦りつけてきます。まったく可愛いものですね。


「ジルくん、ラッシュバードには慣れましたかね」


「はい。とてもおとなしい子たちで、僕でも問題なくお世話ができています」


「そう。それはよかったですね」


 私たちが会話をしていますと、スピードもスターもどんなもんだと言わんばかりに威張った姿を見せています。これは、私たちの言葉が分かってますね。つい笑みがこぼれてしまいます。


「それでは、私はみなさんの様子を確認して、お昼の支度を始めます。ジルくんはスピードとスターのお世話をお願いしますね」


「はい、任せて下さい!」


 私は最後にみんなの頭を撫でると、鳥小屋を後にしました。


 食堂の中に戻りますと、居住区域へと足を運びます。みなさんには寝ておくように伝えましたので、それを確認します。


「レチェ様。様子が気になりますか?」


「イリス、起きていたのですか」


 なんと、イリスは起きて掃除をしていました。


「はい。私たちメイドは朝から晩まで働き通しです。それこそかなりきつい仕事もこなしております。この程度の仕事には慣れておりますゆえ、この通り元気なのでございます」


「な、なるほど……」


 確かにそうでしたね。

 貴族の使用人たちは、夜が明けきらないうちに起きて仕事を始め、夜中遅くに休むということを聞いたことがあります。

 食堂で体験したような忙しさに見舞われることもよくあることです。だからこそ、イリスだけは元気なのでしょうね。


「庶民たちも、このくらいの忙しさなら慣れている方もいらっしゃいますよ。ただ、レチェ様の顔に泥を塗るまいと気を張っておりましたので、今日のお休みの判断はよろしかったかと存じます」


「なるほど、体力的に問題はなくても、気持ち的に厳しかったというわけですね」


「はい。そういった緊張をした状態では、本来の能力をかなり損なってしまいます。それこそ、重大な事故すら引き起こしかねません」


 なんとも耳が痛い話ですね。


「レチェ様が自身の状態を考えてお休みを取られたので、きっとみなさんも安心していることでしょう」


「みなさんにご心配をおかけするとは、私はダメな主ですね。しっかり反省しませんと」


「ですので、レチェ様は明日からの営業では厨房に立たれることも、ホールに出て頂くこともしなくて結構です。すべて私たちにお任せ下さい。レチェ様はオーナーなのですから、いざという時のためにどっしり構えていればよろしいのです」


「イリス……」


 私は思わず泣きそうになってしまいました。


「さあ、レチェ様。そろそろお昼ですよね」


「そうですね」


「では、私が起こしてまいりますので、レチェ様はお昼を作って下さいませ。レチェ様がどのようなアイディアを出されるのか、私は楽しみにしていますから」


「もう、イリスってば」


 泣きそうになっていたのに、涙が引っ込んでしまいましたよ。

 でも、期待をされては答えないわけには参りませんね。

 私はとびっきりを用意するために、厨房へと向かうことにしました。

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