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第107話 優しさに包まれて

 やることが急になくなったり、食堂のことが気になったりとなんとも落ち着きませんでしたが、私はどうにか睡眠をとることができました。

 おかげで、夕方にはすっきりとした顔で姿を見せることができましたね。

 忙しい時間でしたので、私はすぐさま補助に入りました。驚かせてしまうのは仕方ありませんが、忙しいので四の五の言っていられません。

 おかげさまで、営業は無事に終わることができました。これで一安心です。


「レチェ様、大丈夫だったのですか?」


「はい、ぐっすり眠れましたので、今は完全に回復していますよ」


 イリスたちの心配に、私は力こぶを作るような動作をして元気をアピールします。これにはみなさん安心してくれたようですね。


「ミサエラさん、今日は本当に助かりました」


「いえ、このくらいは当然です。それに今日は副マスターではなく、おばとして手伝させてもらいました。姪がこれだけみなさんに愛されているかと思うと、嬉しくて泣けてきますね」


「み、ミサエラさん……」


 私は思わず戸惑ってしまいます。


「あの、それでですけれど、朝のパンだけは営業させてもらってもいいでしょうか。さすがに全部お休みにすると、みなさん困ってしまいますでしょうから、明日の昼の食堂とあさっての朝のパンをお休みにするということでよろしいでしょうか」


 私は休んでいる間に考えていたことを伝えます。

 正直言いまして、ミサエラさんは悩まれるかと思いました。ですが、思いの外すぐに結論を出していらっしゃいました。


「分かりました。今日の時点で告知が出せなかったのですから、それくらいは許可します。その代わり、明日はの朝営業の後は絶対に休息を取ること、いいですね?」


「はい、もちろんです」


 ミサエラさんに強く言われて、私はつい背筋を伸ばして大きな声で返事をしてしまいます。

 私の勢いのある返事に、ミサエラさんは優しく笑っています。


「それでは、私はそろそろ戻らさせて頂きますね。ギルドの仕事がありますので」


「あ、ミサエラさん、食事くらいされていかれてはいかがでしょうか。警備をして下さった冒険者の方々も食事をされていかれますし、一人分増えたくらいで何の問題もありませんから」


 帰ろうとするミサエラさんを、私は呼び止めます。それに、ギルドに戻られるのでしたら、冒険者の方々と一緒の方が、近いとはいえ安心できますからね。

 ここは治安がいいとはいえ、何が起こるか分かりませんもの。

 私の真剣な表情を見て折れたのか、ミサエラさんは誘いに乗ってくれました。

 みなさんで楽しく夕食を食べますと、ミサエラさんは冒険者の方々と一緒に商業ギルドに戻っていかれました。


 食事の後は片付けです。

 みなさんに片付けをして頂いてもらっている間に、私は外に貼り紙をしておきます。

 もちろん、今後の営業についてですよ。翌日は朝のパンのみ、あさっては昼からの食堂のみときちんと記載しておきます。

 あとは、七日目のお休みをどうするかですね、ここで臨時休業を入れるならば、後ろに一日ずつずらすべきでしょうか。ここもミサエラさんと明日にでも話し合うことにしましょうか、発注ついでですけれど。

 そんなこんなでこの三日目も、ちょっとトラブルはありましたが、無事に営業を終えることができました。


 翌朝、三日目のパンの販売を迎えましたが、ちょっと外が騒がしいですね。


「ちょっと私、見てきますね」


「お気を付けて、レチェ様」


 パンの製造をイリスたちに任せて、私は門で警備に当たっているギルバートのところへ行きます。


「どうかされまし……」


 私がギルバートに問いかけるようとすると、門の外から声をかけられました。


「今日の食堂の営業はお休みなのかい?」


「一体どうしたんだよ」


 貼り紙に対する質問のようですね。

 いろいろと正直に答えたいところですが、ここは私の体調のことは伏せておいた方がいいでしょうね。


「申し訳ございません。ここまでの三日間、みなさまのおかげでとても繁盛しておりましたが、あまりにも予想を超えていましたので食材の在庫が厳しくなってしまいました。そのため、十分量を確保するために一日お休みをいただくことにしたんです。本当に申し訳ございません」


 謝罪が大事ですから、二度口にします。私は深々と頭を下げました。

 私の謝罪を受けて、集まったお客様たちが困惑しています。


「そ、そうか。それなら仕方がないな。材料は無限じゃないもんな」


「ましてや今は確保のしにくい時期だししょうがないな」


 お客様たちは納得して下さいました。


「でも、体は大丈夫なのかい?」


「ほへ?」


「そうだな。俺たちの間を回ってた女性たち、なんだか顔色が悪い気がしたからよ。もしかして、本当の理由はそっちじゃないのかい?」


 わわっと、察されてしまいましたか。

 ギルバートにも心配そうな顔をされてしまいましたし、正直に話した方がいいみたいですね。


「はい、実は体調の問題が出てきまして。食材の話も本当なのですが、このまま無理をして倒れてしまえば、結局みなさんにご迷惑をかけてしまいます。ですので、今回のお休みに至ったのです。申し訳ございません」


「いや、それならそうといってくれよ」


「俺たちも応援に力が入りすぎて、ちょっと一斉に押しかけすぎちまった。こうなったのは俺たちの責任でもある、気にしないで休んでくれ」


「いえいえ、そんな悪いですよ。お店である以上、みなさんの期待に副うのは当然なのですから」


 私はそう言いながらも、みなさんの優しさについ泣きそうになってしまいます。


「本当にごめんなさい。自分が未熟なせいでみなさんに気を遣わせてしまって……」


 私はつい泣きじゃくってしまいます。

 みなさんが困っている状況で、イリスの声が聞こえてきます。

 その声を聞いた私は、気持ちを引き締めてどうにか泣き止みます。


「それでは、今日のパンの販売を始めます。今日もかごはご用意してありますし、制限はお一人様十個です。どうぞお入りになって下さい」


 私の気丈なふるまいに、みなさんは困惑していました。

 ですが、中に入っていかれるみなさんから優しい声をかけて頂きまして、食堂を開いてよかったと思いました。

 みなさんの優しさに応えられるように、私、これからも頑張ります。

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