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第106話 強烈なダメ出しです

 今日の食堂の本営業の仕込みは、私抜きで行われます。

 なぜなら、私はやって来られるミサエラさんのお相手をしなければなりませんからね。

 朝の大盛況ぶりを思えば、不安でしかありませんが、私は揚げ物を作るフライヤーの処理だけを終わらせると、邪魔にならないように隅っこの方で作業に入ります。


 体感三十分くらい待ちましたでしょうか、ギルバートが外から私を呼びに来ました。ミサエラさんが食堂に来店されたようです。


「分かりました、すぐに出迎えに上がります」


 私はそう答えて、厨房から外へと出ていきます。

 入口のところでは、職人を伴ったミサエラさんが待っていらっしゃいました。


「ミサエラさん、よくお越し下さいました。こちらからご相談を持ち掛けるつもりでしたのに、わざわざ出向いてこられるなんて、何か気になることでもございましたでしょうか」


 私は待っている間に思い出したのです。ミサエラさんに相談することを決意したのは、昨日の閉店後だったのです。なので、知るわけがありません。職員に話し掛けられた朝の時点で気が付くべきでした。

 ギルバートたちに警備を引き続き頼みますと、私はミサエラさんたちを連れて食堂の中へと戻っていきます。

 私は奥に備えた事務所で話をすることにします。あまり使っていませんでしたが、話をするにはここしかありませんからね。

 席に着いたところで、ミサエラさんはにこにことした笑顔で話を始めました。


「二日間、ずいぶんと繁盛しているようですね」


「はい、おかげさまでして、嬉しい悲鳴でございます」


 ミサエラさんの言葉に、私は笑顔で答えておきます。

 ところが、次の瞬間ミサエラさんの顔が一気に険しくなります。


「ところでレチェさん、ちゃんと眠っていらっしゃいますか?」


「は、はい。夜遅くまで事務作業と一部の仕込みをした後に、ちゃんと寝ていますけれど」


 私は正直に答えます。

 ですが、ミサエラさんの表情は険しいままです。私、何か気に障るようなことでも言いましたでしょうか。


「目の下のクマ、隠れていませんよ。朝にパンを買ってくる職員が話していましたが、何名か気になってらっしゃる方がいたそうです」


「えっ、そうなのですか?」


 私は慌てて自分の顔を触ります。ですが、クマは触ったところで分かりませんでした。


「それと、昨夜の忙しい時間にこっそり私も食べに来ていました。事前の試食でも味わった通りの素晴らしい料理でした」


「ありがとうございます」


 ミサエラさんに褒められて、私は嬉しくてお礼を申し上げておきます。

 ですが、ミサエラさんの表情がますます険しくなります。


「それで思いました。このままでは倒れてしまうのではないかと。本日はその忠告のために来ました」


 私はどきりとしました。

 やはり、ミサエラさんの目から見てみても、食堂の状況は忙しすぎたのでしょうか。


「はっきり申し上げます。明日は朝も含めてお休みにして下さい。レチェさんは期待の方ですから、最悪の事態は避けたいのです。私の姪なのですから、なおさらというものです」


 はっきりといわれてしまいました。

 身内ということもありまして、心配をかけてしまったようですね。

 食材のの問題もありますし、私はその忠告を受け入れることにしました。


「明日の休業での対応は、私たち商業ギルドが責任を持ちますので、ゆっくり休んで下さい」


「はい、申し訳ありません」


 私はつい小さくなってしまいます。

 私は反省しているのですが、ミサエラさんはさらに追い打ちをかけてきます。


「それと、このかばん。魔力をほんのり感じます。レチェさん、このかばん、魔法で作りましたね?」


「は、はい。パンのお持ち帰りに何もないのも可哀想だと思いましたので」


「そういうことも事前に商業ギルドに相談して下さい。まったく、よくできているとはいえ、数を考えれば今日のあなたはもう倒れる寸前です。代わりに私が厨房に立ちますから、しっかりと休みなさい」


「えええっ、さすがにそれは悪いですよ」


 ミサエラさんの突然の申し出に、私はもちろん職員の方も戸惑っています。

 だって、商業ギルドの副マスターですよ? そんな偉い方を厨房に立たせるなんて、できるわけがないんです。

 いけません、こんなおんぶにだっこは。私と職員とで必死に説得をします。

 ですが、結局ひっくり返せませんでした。私たちの完全敗北です。

 手伝って頂くにあたりまして、まずはエプロンをお貸しします。ラッシュバードの刺繍が目を引くエプロンです。油跳ねだって怖くない特注品ですよ。

 準備をして頂くと、ひと通りの魔道具の使い方をお教えしておきます。ですが、食材の場所はさすがに数が多くて無理ですから、厨房内だけで済む仕事だけをお願いすることにしました。

 当然ですが、イリスたちがびっくりしています。開業前の準備の時からよく見ていた顔ですからね。


「申し訳ありません。本日私は休めと言われてしまいましたので、代わりにミサエラさんが手伝って下さいます。いつも通り、みなさん頑張りましょう」


「は、はい……」


 返事に戸惑いが表れていますね。


 はう、食堂開業三日目にしてこれですよ。

 なんとも前途多難なことですが、確かに無茶はいけません。

 心配ではありますが、ここはご厚意に預かり、休ませて頂くことになりました。

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