第101話 気が付いたら終わっていました
食堂開業日の結果から申しましょう。
はい、疲れました。起き上がる気力すら起きません。
商業ギルドが気を利かせて応援を寄こして下さいましたが、それでも回りませんでした。
みなさん、新しいものが大好きすぎませんか?
よく見るとよその食堂の方もお祝いと敵情視察のために来られてましたよ?
「み、みなさん、初日お疲れ様でした」
「は、はい……」
イリスたちも返事で精一杯という感じです。
これで翌日から朝の営業が始まるんです。見通しが甘かったといえばそれまででしょうけれど、私の予想をはるかに超えていました。
「ミサエラ様にかなり助けられてしまいましたね、レチェ様」
「はい、まったくです。さすが商業ギルドの副マスターをされているだけあって違います」
私たちが突っ伏していると、ギルバートたちがやってきました。
「これは……、これで夕食を作ってくれというのは酷か?」
「あははは、いいですよ。私がやりますので、みなさんを部屋まで送り届けて下さい」
「そ、そんな、レチェ様」
私の言葉に、カリナさんたちは揃えて声をあげます。
「いいんですよ。みなさんは明日の朝の営業から頑張っていただかなければなりません。私はまだやることが残っています。私にしかできない仕事ですから、お気になさらず先に休んで下さい」
私にしかできない仕事という点を強調したこともあって、みなさん渋々ギルバートたちに支えられて部屋に戻っていきました。これではお風呂は無理そうですから、起きてからですね。
みなさんが部屋に戻られていくのを確認すると、残った材料を使ってギルバートたち護衛の食事を作り始めます。
一日の感謝を込めて、しっかりとした料理を作って差し上げませんとね。ああ、あと私の夜食もでした。
ちなみにこのあとの私の仕事ですが、一日の売上の計算と、在庫を確認してからの発注です。食材を補充しませんと、あさって以降の営業が厳しくなりますからね。
無事に夕食を終えた私は、厨房奥の事務所のようなところで仕事を再開します。
うずたかく積まれた注文書から割り出した金額と、実際の金銭箱の中身とを照らし合わせていきます。
ギルドカード支払いの方もいらっしゃいましたが、それは商業ギルドから貸し出して頂けました装置がありますので、それでチェックできます。
結果としましては、誤差なしでした。みなさん優秀ですね。
食堂としてはかなり多い気もしますが、これだけあれば当面の経営は困りそうにありませんね。
ちょっとほくほくとした気持ちになりながら、売り上げをすぐに金庫の中にしまいます。
売り上げを確認すれば、食材の確認。減った分をすぐにまとめて、今日の消費量から見込まれる使用量を予測して発注書を作ります。
予測通りなら、三日目まではなんとかなりそうだとは思うのですが、その後は六日目まで、農園から追加物資を持ってきてもらわないといけない感じです。さて、誰に頼みましょうか。
手が空いているのはラッシュバードのお世話が仕事のジルくんだけですが、彼は幼すぎます。やはり、ここもギルドを頼るしかありませんか……。
あまり秘密を外部に漏らしたくないので、ギルドの手を借りるのは正直戸惑います。でも、食堂の大事な新規開店の一週間ですから、背に腹は代えられません。明日の営業が落ち着いた時に頼みましょう。
「ふわぁ……」
いけませんね、あくびが出てしまいます。
まだやることはありますのに。
それにしても、今日の営業中のことがうまく思い出せませんね。私、最初にやって来ていたお客様の対応をした後、ずっと厨房にいましたからね。
うう、これなら反省会をすべきでしたし、護衛の方からお話をちゃんと伺うべきでした。相変わらず抜けていますね、私。
今さら反省しても遅いですので、最後はパンの最初の仕込みをしておきます。起きたら焼けるようにしておきますと、自分たちの朝食にもできますからね。
「今日の混雑具合からして、全自動食器洗浄機を作っておいて正解でしたね。皿洗いなんてとてもできる状況にありませんでしたよ」
コンロにオーブン、食洗器にフライヤーと、結構作っておきましたからね。厨房設備を。
どれもこれもフル稼働でしたから、魔石の状態などをチェックしておかないといけません。使用中に魔石の魔力切れとなったら交換で時間が取られますもの。
フライヤーは明日の朝起きましたら、魔石を投じて浄化をしませんとね。真っ黒になるくらい揚げましたし、油の量もかなり減っていますからね。
それ以外には、やはりお酒ですね。閉店の近づいてきた夕方になると、仕事上がりの方々が結構注文されていましたね。時折ギルバートたちに入ってもらいながら全部断りましたが。
お酒は現状を考えるとどうしても提供できないのですよね。やはり、女性と子どもだけが働くお店というのが大きいですから。
「ふう……。確認作業と問題の洗い出しはこんなところでしょうか。今日はさすがに面食らいましてだいぶ忘れちゃってますから、また明日チェックし直しませんと」
ようやく仕事が一段落しました。
もうすっかり真夜中ですね。
「さて、せめてお風呂だけは入ってから寝ましょうかね。明日も頑張りませんと」」
私は大きく背伸びをして、生活スペースへと移動していきます。
始まったばかりの食堂経営。必ず成功させてみせますよ。