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リスクのある願いごと
夫が亡くなった。会社で事件に巻き込まれた。会社は息子が継いでいるから、困ることはない。むしろ願ったり叶ったりだ。この願いをかなてくれる指輪、夫の出張土産だった。
ラテン語で、望めば叶えん、と刻まれていた。若い時の勉強が役に立った。「できれば惨たらしく、夫を殺害してください」と願った。翌日願いは叶った。夫は会社で強盗犯に刺され亡くなった。
通夜、私は世界一不幸な妻を演じた。目を腫らし、涙を流し、悲しみ一杯の悲劇の妻の姿。義父母、会社の社員、近所の住人、みんなつられて泣いた。何か足りない。演じなければもっと不幸な妻を。私は言った「神様どうか、忠司さんを生き返らせて。私の命を差し上げるから」と。指輪から声がした。望めば叶えんと。私の視界が狭まる。同時に夫が棺桶から微笑みながら起き上がるのが見えた。
苦しみもだえる私を抱きかかえながら夫が言った。「願いを叶えるにはリスクが必要なんだよ、僕みたいにね」と。