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平穏なる世界を求めて。  作者: ゆうらしあ
第2章 商業団体パワルタ
7/14

1-7 シャワーで

 作戦立案の天幕から出た後、キューべ達は元のキューべの天幕へと帰って来ていた。



「さて……それじゃあやる事は決まったし、休むとするか」



 キューべは軍服の上着を脱ぎ、その下に着ていたYシャツのボタンを数個外すと、置いてあるベッドへと寝転んだ。



「キューべ様!? この子も居るんですよ!?」

「ん? 何も気にする事は無いだろ? 子供だぞ?」

「それはそうですが……」



 キューべはポカンッと目を丸くし、そんなキューべにサーナは顔を顰めた。


 まだお互いを『殺し合い』して1日も経っていない、そんな相手の前で無防備な姿を晒すというのはサーナの常識の範疇には入っていないからだ。


 だが、サーナは知っていた。キューべは自分で納得出来なければ、引く事は絶対に有り得ないという事を。



「まぁエルの【代償】を調べる為にも、エルは私の傍に置いておく必要がある。別に裸を見せている訳でも無い、気にするな」

「はい……という事は、此処がこの子の天幕になるって事ですか?」

「そうなる。色々準備を進めてくれ……今はそれよりも、だ。先ずエルにはその恰好をどうにかして貰わないとな」



 キューべに指を差され、エルは自分の格好を見下ろした。

 血みどろに濡れ、時間が経ち黒く変色している麻服。手触りはゴワゴワで、鼻が曲がってしまいそうな異臭を放っている。


 エル自身、それに慣れてしまって何も感じないのだが。



「洗わせて来ます」

「あぁ、くれぐれもトラブルを起こさないようにな~」



 ニヤついたキューベに見送られ、エルとサーナは天幕から出た。

 天幕から少し歩いて、端にある湯気が立っている2つの天幕へと着く。どうやら男女別らしい。


 サーナは青の札が掛かった天幕の入口の横に背中を預けた。



「此処で身体を洗って来て下さい。綺麗だと私が判断するまで洗って貰いますから」

「……あっちには入れないのか?」

「……はぁ。入れる訳がありません。貴方は有無を言わさずこっちです。着替えは、これを」



 サーナから服の様な物を渡され頷くと、天幕へと入る。


 中にはまだ誰も居らず、幾つもの仕切りが付いたシャワー室の様なものがあった。床はタイルになっていて、中央には排水溝も設置してある。


 エルは仕切りの一区画に入る。

 中にはシャンプーやボディソープのボトルが置かれていて、細かな所まで気配りが行き届いている。


 血塗れのゴワゴワの麻服を脱ぎ、蛇口を捻る。

 頭の上から降り掛かる温かいお湯に、エルは気持ちよさそうに顔を上げた。



(やっと、1人になれたな……やっぱり1人の方が性に合ってる)



 およそ3年程、エルは1人で過ごして来た。

 荒野の真ん中。大爆撃が行われたあの場で、エルだけが生き残った時……いや、()()()()()()()()()()


 そして生き残るが為に、平穏に暮らして行けるように、全員を殺す事に決めた。

 周りからの資材を集めて掘立小屋を作り、人を殺した。


 誰かが来たとしてもエルにとっては全員が敵で、その弊害か、人と長く話す事は無かった。



(……上手く話せているだろうか?)



 エルはふと思う。

 普通に……平穏に暮らして行くには、恐らく『コミュニケーション能力』というのは必須だろう。しかし、だからと言ってそれを身に付ける手段をエルは知らなかった。



「昔は、皆んなが話し掛けてくれたから……」



 ボソッとシャワーの音で掻き消えてしまいそうなその言葉は、悲痛な雰囲気を醸し出す。

 その声音はまるで、秋の夕暮れが地平線に消えて行ってしまうかの様な、心が締め付けられる寂しさを持っていた。


 今までとは違う、優しい言葉遣いをするエル……そんなシャワー中に、外が騒がしくなってエルは仕切り板から少し顔を出す。



「さっきの……スゲー生意気そうな事言ってましたね」

「あー、あのキューべ様が連れて来たって奴だろう? 後ろ過ぎて姿は見えなかったけど、上の部隊の奴等はカンカンだったな」



 そこには、エルと歳の変わらない黄緑色をした髪の男の子と、10代後半ぐらいの薄茶髪をした優男が居た。



「まぁ、当たり前ですよね……」

「あの場面で『よろしく』って言う奴の気なんて知りたくもないよね」

「普通は、なんて言うんだ?」



 その者達が自分の事を話しているという予想が付き、エルは仕切り板越しに話し掛ける。



「ん? 君は……」

「なんだこのガキ? お前見ない顔だな? どこの部隊だ?」



 お前もガキだろう。

 と、エルは思ったがその返答は恐らく間違いだと気付き、少し考える。



「部隊……"タンコ部隊"に世話になるらしい」



 先程の話を思い出して、エルは素直に応える。それに2人は動きを止めた。



「ははっ……タンコ部隊ねぇ? それは俺達が所属する第5部隊の"蔑称"でねぇ? 先輩として一度戦場での厳しさってのを教えてやる……お前名前は?」

「エル」



 男の子は指の骨を鳴らし、眉を八の字にして上から目線をして何処か威圧感が出ていた。



「そうか、エル……俺はライムだ」

「よろしく、ライム」



 ライムはその言葉に苛立ったのか、不機嫌そうに顔を歪めながらエルへと迫る。ライムは仕切っていた扉を開いた。



「ライム"先輩"、な???」



 問うと同時に出された拳に、エルは咄嗟に顔を逸らし、顎にカウンターを喰らわす。



「ぐっ………んっ!?」



 何とかその攻撃に耐え、足が覚束ないライムはゆっくりとエルへと睨みを効かせようとした。


 そして、気付く。



「お、お前ッーー!!?」



 続きが出る前に、もう1発顎へと追撃を貰い、ライムは白目を剥いて仰向けに倒れる。



「……それで、さっきの質問は?」



 エルは足元に転がるライムを踏みつけながら、背後に居た男……パワルタ第5部隊の隊長、クルーシュへと声を掛けた。



「えっと……まぁ、普通あの状況だと『何もしない』のが穏便ではあったかも。というか君……()()()だったんだね……」



 クルーシュは戸惑いながらも、エルへと笑い掛ける。



「……サーナにこっちに入れって言われた」

「あー、サーナさんにか。だから入口の前に……性別は隠してるとか、そういう事かな。まぁ、兎に角、身体は隠してくれると嬉しいかな」



 エルは仕切り板の中へと入ると、顔だけひょっこり覗かせた。



「……幸いな事に、ライムは直ぐに伸されて気絶してるから君の性別の事はどうにでもなる。此処での事は無かった事に出来ないかな? ライムには僕から言っておくから」



 キューべにはトラブルは起こさないようにと言われている。この提案は、エルにとっても渡りに船だった。


 エルは頷くと、またシャワーを浴び始める。頭から足先まで綺麗さっぱりになったのを確認すると、上等な服の袖に腕を通す。


 倒れているライムに声を掛けるクルーシュの横を通り、エルは天幕から出る。


 すると、入口横で待っていたサーナが瞑っていた目を片方開けて問う。



「中で大きな音がしてましたが、何かありましたか?」

「いや、何もなかった」

「? そうですか」



 不思議そうに首を傾げるサーナと共に、エルはまたキューベの天幕へと向かうのだった。

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