表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平穏なる世界を求めて。  作者: ゆうらしあ
第2章 商業団体パワルタ
5/14

1-5 協力

 気が付けば、そこは大きな天幕の中。

 身体は縄で椅子と共に括り付けられていた。



「起きたか?」



 声の聞こえて来た方向に視線を移動させると、そこには椅子に座りカップを傾けている女指揮官、その後方には殺した筈の老兵、護衛に付いていた女が佇んでいた。



「まぁ……とりあえずは自己紹介と行こう。私は此処で団長を務めているキューべだ」

「ダンディーでハンサムな老戦士、フェイス」

「キューべ様の側近、サーナです」



 ーーこれは自分を油断させて情報を抜こうとしている、所謂尋問なんだとエルは押し黙る。



「ふむ……警戒心を解いてくれないぞ? 自己紹介ではダメだったか?」

「お嬢、そりゃあ相手は子供だぜ? 堅苦しい言葉遣いじゃ逆に警戒心を持たれちまう」

「その子供に毒針を使った人とは思えない素晴らしい気遣いですね」



 何処か和んでしまいそうな会話。

 このままでは要領を得ないと、エルは大きく溜息を吐いた。



「名前はエル」

「おぉ! エル! 良い名前だ!」

「……どんなつもりで俺を此処に連れて来た?」



 エルが睨みを利かせ問うと、今までの空気が一気にピリッと引き締まる。

 そして数秒の沈黙の後、キューベは椅子から立ち上がる。



「ふふっ……では早速本題に入ろう」



 キューべはエルが拘束されている元へと歩みを進めると、エルの顎を上げ綺麗な蒼眼の瞳でエルを見つめた。



「私と手を組まないか?」



 ーーザザッと昔の記憶が交差する。


 キューべの笑顔が、言葉が、心を締め付ける。


 ーーあぁ。あの時と同じ言葉だ。

 ただ違うのは、今のこの状況。彼女らが敵だと言う事。



「この世界を平穏にしなければならない、何とも素晴らしい目標だ。だが、エル。お前では"この世界を平穏には出来ない"」



 しかし、あの時とは全く違う言葉が続き、その言葉を噛み締めるかの様にエルは眉間に皺を寄せる。



「……もう1度言ってみろ」



 綺麗な金眼も、怒りがこもれば凄まじい迫力。しかし、キューベはそれに対して柔らかな笑みを浮かべる。



「何度でも言ってあげよう。絶対に無理だ。君が思っているよりも世界は広い。君よりも強い奴なんて何人も居る。増してや、私達に負けている時点で君の計画は破綻している」

「お前には関係ないだろ」

「いや、それが関係あるんだ」



 キューベはエルの顔から手を離し、先程まで居た椅子へとまた腰掛け、テーブルの上にあるホイップの乗ったケーキを切り分ける。



「私はこれから【世界を支配する】予定なんだ」

「世界を、支配する?」

「そう。君は平穏を目指して人を殺す……全員と言ってたな? 私は世界を支配する為に、君の手助けをしよう。そしたらWin-Winの関係になれるんじゃないか?」

「……お前に何のメリットがあるんだ?」

「パワルタは、行商人が集まって出来た団体……つまり国ではないんだ。だから段々戦力が不足して来るんだよ」

「………」



 キューベは肩をすくめながら、切り分けたケーキを口に運ぶ。



「エル。君の賞品ちからは強力だ。だが、強力だからこそ【代償】も大きい筈……平穏にしようと賞品を使い過ぎるのは君も不本意な筈だ。それを私が協力してやる。悪い話ではないだろう?」

「……【代償】?」



 聞いた事も無い単語に首を傾げる。

 それにキューベは1呼吸置いて、額に手を当てた。



「なるほど……まずはそこからか。いや、でもだとしたらーーまぁ、それは追々で良いか。で、どうする?」

「どうするって……」

「はあ。まだ決め兼ねているようだから言わせて貰うが、君があそこで平穏を望んで人を殺して行くとしてだ。今まで君は1日に何人の兵を殺して来た?」

「…………沢山だ」

「ぷッ!!」

「フェイス」

「あ、悪ぃ悪ぃ! 思わずな……」



 少し考えた後に出したエルの答えにフェイスが吹き出し、キューべが窘める。



「沢山……それが例えば100人だとして、今の世界の人口はざっと200億人だとされていて……1日100人ずつ殺したとしても2億日。約50万年掛かる計算だ。その間にも人は増える。つまりはだ、君が此処にいるフェイスの様に……お爺ちゃんになっても目標は達成されないと言う事だッ!」

「お、おい! お爺ちゃんは傷付くだろ!!? まだダンディーなオジ様ぐらいだろ!?」



 ビシッと指を差されるフェイスが驚愕な表情を浮かべる中、エルは忌避感を持たず、ちゃんと考えた。


 ハッキリ言えば、エルはキューベの言ってる事の大変さが理解出来ていなかった。知っている数字の単位でさえも十から千ぐらいまで。

 しかし『平穏な生活を送る為』には、どう考えても時間は掛かるという事は確かで……自分には知らない事が多過ぎるのも事実だったーー。



(平穏を過ごすには、普通の知識も必要……か)



 エルは考えた末に口を開く。



「分かった。手を組もう」



 キューベはその言葉を聞き、口端を上げる。そしてケーキを頬張ると、椅子から立ち上がった。



「よし! サーナ、エルの縄を切ってやれ! まだ毒も回ってるだろうから補助も頼むぞ!」

「……本当に大丈夫でしょうか?」

「あぁ。嘘は言ってない」



 怪訝な表情を浮かべるサーナに、キューベは確信めいた口調で告げる。

 エルは怪訝な表情のままのサーナに睨まれながら拘束を解かれ、腕を取って貰いながら立ち上がる。



「まずは皆への紹介と行こう」



 キューベとフェイスが天幕から出る背を追い、エルも外へと出る。


 強い日差しが降り注いで目を眇め、そこで待っていた光景にエルは目を丸くした。



「人気者ね」



 サーナの皮肉混じりの言葉が耳に届く。

 そこには何人もの軍服を来た兵達が集まっていた。その誰もが眉間に皺を寄せ、険しい表情をしている。



「皆! コイツの名前はエル!! この度、商業団体パワルタの仲間になった!! そして、お前らの知人・友人を殺したのはコイツだ!! 歓迎してやれ!!」



 兵達を煽っている様なとんでもない紹介文にキューベは楽しそうに笑う。



「「「……」」」



 団長であるキューベの統率力のお陰か、ザワつきや動きは無い。


 あるのは、兵から返って来た無言の圧力と壮絶と言えるまでの殺気。


 此処に居る者は全て行商人の筈。それなのに、その殺気は一般人とは比べ物にはならない程で身の毛がよだつ。


 しかしエルにとって、それは日常茶飯事。

 その言葉に動揺を見せる事なく、一言。



「ーーよろしく」



 そう、告げた。

「面白い!」

「続きが気になる!」

という方は、ブックマーク・評価・いいねしていただけると嬉しいです!


してくれたら私のやる気がupしますᕦ(ò_óˇ)ᕤ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ