大人の話です
「うおおおおぉぉぉ、なんじゃこりゃ! なんじゃこりゃだよベイルくん!!」
私はたった今飲んだジュースが入ったコップをベイルくんへ渡す。
「本当に美味しいよ。ベイルくんも飲んでごらん!!」
「す、スイさん。その、同じコップを使うのは……」
「うわ、こっちも美味い! やばっ、全部で何種類あるの?? 制覇するまで帰れないよ、これは!」
どこまでも続くのでは、というくらい、長いテーブルに並べられた、たくさんのジュース。どれも美味しくて私は止まらなかった。
「スイさん、そんなに飲んだらお腹壊しちゃいますよ?」
「いいんだよ、ベイルくん。これを片っ端から飲む。私、そんな使命を星の巫女様に託された気がする!!」
「星の巫女様がそんなくだらない使命を託すわけないじゃないですか。それより、はしゃぐの我慢って約束しましたよね?? ここは飲み過ぎもダメです」
「え、えええ……」
「このあと、色々な人にも挨拶しないとダメなんですよ? そんなとき、お腹痛かったら困っちゃうじゃないですか。それに、飲み物だけじゃなくて、これから食べ物も出てきます。美味しいもの、食べたいでしょ?」
「わ、分かったよう」
パーティはこれからだ。
最初から飛ばしちゃダメってことね。
我慢我慢。
美味しそうな飲み物から目を逸らして、窓の方を見ると、いつの間にか外は暗くなっていた。そういえば、ベイルくんが夜景がどうとかって言ってたような。
ちょっとだけ見てみようかな。と、窓に近付くと……。
「な、な、な、なんじゃこ――」
「スイさん!!」
叫びそうになったが、ベイルくんに叱られてしまう。
「夜景見ても大声出さないって、言いましたよね??」
「わ、わ、わ……分かってるよ」
私は感動の叫びを何とか飲み込み、窓に背を向けたが、見たことのない食べ物がどんどん運ばれ、テーブルの上に並べられて行くのを見てしまった。たぶん、これも我慢した方がいいんだろうなぁ。
だって、大人たちが私を見てヒソヒソと話している気がするし。私の素行が悪かったら、ベイルくんに迷惑をかけちゃうかもしれない。ちゃんとしないと……。
そんな落ち着かない私にベイルくんがアドバイスをくれた。
「スイさん、手は前に組んでください。背筋も伸ばして。より聖女っぽく見えるはずです。あと、少し口角も上げてくださいね」
「は、はい……」
ベイルくんの言う通りにすると、何となく周りからの視線が変わった気が。しばらくすると、こんな風に話しかけてくる人も現れた。
「ベイリール様、お誕生日おめでとうございます。こちらの女性はまさか噂の……?」
「はい。聖女、スイ・ムラクモ。私のパートナです」
「おおお、噂の大聖女様に会えるとは、光栄です」
立派なスーツを着たおじさんが私の前で片膝を付いて挨拶する。どんな言葉を返すべきか迷ったが、事前にベイルくんが教えてくれたものを、そのまま口にした。
「とんでもありません。王国のため、これからも全力を尽くします」
頭を下げてから、手を組んで祈りのポーズから、もう一言。
「貴方様に星の巫女様の祝福があらんことを」
後で知ったことだが、大聖女からこの言葉をかけられると、とても縁起がいいのだとか。こんなことで喜んでもらえるなら、ララバイ村に帰ったときは毎日のように皆に言ってあげたいよ。
それから徐々に会場は人で溢れて行き、何回も偉そうな大人から声をかけられたが、一通り終わったらしく、落ち着いた時間が流れた。しかし、ほっと一息吐いたところで、視線の先に知った顔を見つける。
「あ、ベイルくん。あそこにフレイルくんがいるよ。あ、リリアちゃんとライムちゃんも」
「本当ですね。なんで一緒じゃないのかなぁ」
ベイルくんの言う通り、フレイルくんとリリアちゃんは別々の場所に立っている。お互い背を向け、あえて顔を合わせないようにしてる気が……。
私たちに気付いたのは、フレイルくんが先だった。笑顔で近付くと、手にした飲み物を軽く持ち上げる。
「兄さん、改めて誕生日おめでとう」
「ありがとう、フレイル。ここから堅苦しい挨拶が続いて大変だと思うけど、頼んだよ」
「それはお互い様だから、遠慮しないでよ。スイさんもドレス似合ってるね! 本物の聖女みたい」
「君、私のこと偽物の聖女だと思ってる?」
と言いながら、罪悪感が浮かんでくる。私の血を飲んで、何日間も苦しんだのはフレイルくんなんだから、偽物と思われても仕方がないのだ。
「それよりさ」
私はフレイルくんの耳元に口元を寄せ、ベイルくんに聞こえないよう、ヒソヒソと喋る。
「リリアちゃんとの距離感は何なの? 喧嘩? もしかして、私のせいで不貞反応が出てる??」
フォグ・スイーパは、パートナー以外の相手と同調すると抵抗感が生まれる。また、パートナーが自分以外の相手と同調しても、抵抗感や嫌悪感が生まれてしまうのだが、これを不貞反応と言う。
私とフレイルくんが同調したこと、たぶんリリアちゃんの耳に入っているはず。ただでさえ、リリアちゃんは私のことが嫌いなのだ。自分のパートナーと同調したら、さぞ怒るんじゃないか、と心配していたのだけれど……。
「そ、そうじゃないよ。俺が……怒らせただけ」
「早く仲直りしなさいよ。こういうときは、男が謝るものなんだから。特にリリアちゃんみたいな子が相手だとね!」
「わ、分かってるよ!!」
フレイルくんは逃げるように去って行った。
「何を話してたんです?」
ベイルくんは首を傾げるが、私はしっかりと手を前に組んで背筋を伸ばし、やや口角を上げてから答えた。
「大人の話です」
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