世辞か本音か
「でも……」
私はドレスの裾を掴みながら、溜め息を我慢する。
「私なんかにこんな立派なドレスを用意してもらって……申し訳ない気持ちでいっぱいです。私なんて、いつもの服でいいのに」
それに、公開除去のイベントのときも、綺麗な服を用意してもらった。あれでよかったのに。しかし、レックスさんは首を横に振った。
「そうはいきません。今日はエンゲ翁の誕生祝いですが、ベイル様の二度目となる誕生祝いも兼ねています。そして、ベイル様の専属聖女となるスイ様を貴人たちに正式に紹介する場でもある。だから、ベイル様もドレス選びにはとてもこだわっていたのですよ」
「そうなんですか??」
「はい。きっと、そのお姿を見ればベイル様も喜ぶと思います」
そっかー。ベイルくんのやつ、私のために影で色々とやってくれたんだなぁ。
「正式に紹介って、私も何かするんですか?」
レックスさんは首を横に振る。
「壇上に立って何かする必要はありませんが、ベイル様とご一緒に、何人かの人物に対して、挨拶だけお願いします」
「は、はぁ……」
挨拶かぁ。ちょっと憂鬱だなぁ。
「大丈夫です。ベイル様の横に立って、笑顔で頭を下げるだけで充分ですから」
おおお、気持ちが顔に出ていたのかな。レックスさんの言う通りなら、特に難しいことはないだろうし、少し安心だ。
「さぁ、ベイル様もお待ちです。戻りましょう」
「はい」
私とレックスさんは並んで歩いた。
白いドレスを身にまとい、隣にはスーツ姿のイケメン。……これって、結婚式みたいじゃない!?
ど、どうしよう!!
恥ずかしいよう!!
「あ、スイさん!」
廊下の先に、ベイルくんの姿が。ふぅ、子どもを見ると少しだけ冷静になれるぜ。
「おー、ベイルくんもお着替えしたの?? 似合っているじゃんか」
「お、お着替えって……。変な言い方しないでください」
しかし、ベイルくんの子どもスーツも、七五三みたいで本当に似合っている。やっぱり、血筋が良いとしっかりとした服装も様になるのかもね。
駆け寄ってきたベイルくんは、私を見上げると目をキラキラさせる。本当に、目の中に「キラキラ」と書いてあるんじゃないか、というくらい、キラキラしていた。
「スイさん、とても似合っていますね! 綺麗です!」
「おー、ありがとうありがとう。私なんかでも、王子様が用意してくれたドレスのおかげで、少しは様になっているのかもね。いつも迷惑をかけてごめんねー」
「い、いえ。僕も頑張った甲斐があった、というか……」
私たちのやり取りに区切りが付くと、レックスさんが言った。
「では、後はお二人で」
「えっ、レックスさんはパーティに出席しないのですか??」
「昨今は物騒です。私は騎士団長としてホテルの警備に務めさせていただきます。なので、スイ様も安心して楽しんでください」
「そう、ですか……」
爽やかな笑顔を残し、立ち去ってしまうレックスさん。
ああ……この格好で、もう少しレックスさんと一緒に歩きたかったなぁ。
「スイさん、喉は乾いていないですか? 会場はジュースも飲み放題みたいですよ。さっそく行ってみましょう」
「そうだねぇ」
美味しいジュースでも飲めば、少しは元気も出るかも。私はベイルくんと並んで歩くのだが……。
「あの、スイさん。ドレスの方は……どうですか?」
「ん? ああ、そうだね……。こんなに綺麗なドレス着たことないから、凄く嬉しいけど、本当に私なんかが着ていいものかな? 似合ってない気がするよ」
レックスさんがいなくなり、テンションが下がった私は冷静に自分を分析するが、ベイルくんはぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことありません! とても似合っています。き、綺麗です!」
「そりゃ、ドレスのおかげだ」
「違います。スイさんは……」
何か言いかけたベイルくんが、顔を赤くして俯く。そして、何か言いたげに口をモゴモゴさせたあと、改めて私を見て言うのだった。
「そ、その……スイさんの美しさは、星の巫女様のそれに勝るものです。その美しさを、一生僕に守らせてください!」
「……あはははっ! ベイルくん、さすがは王子様だね。そんなにお世辞も上手なら、社交界も怖いものなしだ」
「そ、そうじゃなくて……!!」
ベイルくんは握った両方の拳を上下に揺らし、何かを言葉にしようとするが、結局は肩を落として諦めたみたいだった。
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