お前ら、愛って知ってるか?
「すげぇぇぇーーー! 三十階たけぇぇぇ!!」
窓の外を見下ろし、興奮する私。
「スイさん! 我慢でしょ!」
ベイルくんに怒られ、ぐっと堪える。拳を握り、昂る気持ちを抑え込もうとする私に、ベイルくんは言った。
「先に言っておきますが、パーティの本番は夜です。ここからの夜景は感動ものですが、偉い人が周りにたくさんいるので、絶対に我慢ですよ?」
「わ、分かっているよ……」
夜景なんて、お祭りの日にベイルくんと一緒に見た景色が一番綺麗だったし、あれに勝るものはないはず。少し高くなったくらいじゃ、私だって驚かないんだから。
「二人とも、お待ちしていました」
「あ、レックスさん!」
いつも騎士団の正装を着ているが、この日はスーツ姿のレックスさん。
さすがに……かっこよすぎる!!
いつもより柔らかい感じの微笑み。これには頬を赤らめるしかなかった。
「レックス、頼んでおいたものは用意してくれたの??」
なぜかベイルくんは私の前に回り込み、レックスさんに我が儘王子な態度を見せる。が、レックスさんはやはり優しい微笑みを見せて言うのだった。
「もちろんです。スイ様、こちらに」
「私ですか? は、はい」
レックスさんに付いていくと、機嫌が直ったのか、ベイルくんが嬉しそうに言うのだった。
「スイさん、僕はここで待ってますね!」
「え? あ、うん」
よく分からないけど、何かあるのかな??
……そういうことか、と理解してから数十分。私は生まれ変わっていた。
ちょっと重い気持ちをぶら下げながら個室を出ると、廊下に立っていたレックスさんが目を丸くする。が、すぐに柔らかい微笑みを浮かべてくれた。
「お似合いですよ、スイ様」
「……は、恥ずかしいから、あまり見ないでください!!」
そう、私に用意されていたもの……それは、
純白のドレスとトランドスト王家が抱えるメイクアップアーティストたち。
彼女らは凄まじい手際で、たった数分のうちに私を別人に変えてしまったのである。
でも、何て言うか……柄じゃないよ。こんな格好している自分が、恥ずかしくてたまらないのに、レックスさんに見られるなんて……。
「いつもとは違う魅力を感じます。本当に美しい」
「お、お世辞はやめてください……」
「お世辞ではありませんよ。スイ様は、普段から日を浴びた花のような美しさがありますが、今日はまるで神秘的な月光のようです。きっと、貴人たちの注目も集めてしまうでしょうね」
ちょ、えええぇぇぇ?
なんかレックスさん、いつもと違う!!
こんなこと言う人だっけ??
「どうかしましたか?」
戸惑う私にレックスさんは首を傾げる。
「その、何て言うか……今日のレックスさん、いつもと違う気がして」
素直に指摘すると、自らの言動を思い返したのか、首を傾げて停止するレックスさん。だが、何か思い当たることがあったのか、穏やかな表情を見せた。
「いつもと違うことがあるとしたら、それはスイ様のおかげです」
「わ、私ですか?」
レックスさんは頷く。
「スイ様が王都に……いえ、スイ様と出会ってから、多くの環境が変わりました。特に、私の悩みの種だった例の件も、ほとんど解決したと言えます」
例の件……次の王位継承が第一王子のベイルくんではなく、第二王子のフレイルくんに渡り、将軍による傀儡王権が生まれる、という話しだ。レックスさんは続ける。
「武家からの風当たりは明らかに変わりました。これも、スイ様にしてみたら不本意な形かもしれませんが……将軍が貴方の魅力によって心内を変えられたからです」
うっ……。
それは、そうね、将軍の気持ちは不本意だけど、王家と武家が喧嘩して、戦争にならなかったのなら、私も役に立てたのかな?
喜ぶべきか、困惑する私の前で、レックスさんが突然膝を付く。
「へっ??」
「そういう私も……スイ様に出会って心が変わった人間の一人です。今日、こうして穏やかな時間を過ごせるのは、スイ様のおかげ。本当にありがとうございます」
「そんな!! 私なんて、ただそそっかしい田舎者で、うるさいだけの役立たずです」
レックスさんは首を横に振る。
「そうお考えなのだとしたら、ご自身でも気付かれていないだけです。スイ様の真っ直ぐな心と行動は、周りの人間を変える力がある。先程は、その美しさを月光に例えましたが、心はまるで太陽のような方。まさに大聖女に相応しい。本当に……敬愛しています」
け、敬愛……!?
パパ、ママ。都会のエリートイケメンが、私に対して「愛」って言葉を使ったよ。
……ありがとう!
私を生んでくれて、ありがとう!!
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