私の前で政治経済の話はするんじゃない
「こ、これは……マジの高層ビル!!」
ベイルくんと共に訪れたパーティ会場を見上げ、私はその壮観っぷりに声を漏らした。だって、今まで見た建物の中で、何よりも空に近いものだったから。
「そうですね。確かに、このニュー・トランドストホテルは高層ビルかもしれません」
いつもなら、高い建物を見て驚く私に「これは低い方」と指摘するベイルくんが、珍しく認めるのだから、やはり目の前のホテルは高層ビルなのだ。
「しかも、モダンなデザイン!! これは都会でしか見られないぞぉぉぉ!!」
「スイさん、今日は偉い人ばかりが集まるので、大きい声ではしゃいだりするのは我慢ですからね?」
「おいおい、ベイルくん……。君、私のこと子どもだと思ってない? 私は君より七つも年上なんだぞ。大人なんだよ、お・と・な! TPOって言葉くらい、知っているんだよ」
「で、ですよね。はい、スイさんを信じてます」
ビルの中に入ると、綺麗なロビーが広がり、スーツ姿のスタッフさんたちが、私たちに一礼した。
「ベイリール様。三十階でレックス騎士団長がお待ちです」
「ありがとうございます」
ベイルくんはペコリとお辞儀をして、ロビーの奥へ。私も頭を下げてベイルくんを追うのだが……。
「ちょっとベイルくん! さっきの人、三十階って言ってたよね?? もしかして、ここからは階段地獄??」
振り返るベイルくんは、なぜか困り果てたように眉を八の字にしている。
「あの、スイさん……エレベーターって聞いたことありますか?」
「えれべいたぁ?」
「えーっと、ちなみになんですが……例えば『トランドストの夜明け』とか『トンブリア宮殿』とか、そういう番組は、見ないですよね?」
「あー、パパはよく見てたけど、私はあーゆー退屈な番組は好きじゃないかな。私には関係ないって言うか、興味も湧かないから。おじさんたちが悩んだり喜んだりするの見て、何が楽しいの?」
「ですよねぇ。とにかく、エレベーターは、そういう番組でやっと紹介されるようになった最新技術なので、驚かないでくださいね」
「しつこいな、君は。本当に私のこと、五歳児か何かと思っているよね?」
「そ、そういうわけでは……」
苦笑いを浮かべるベイルくんは、さらにロビーの奥へ進んだ後、少し大きめの扉の前で立ち止まった。そして、壁にくっついたボタンを押したかと思うと、何もせずそのままで……。
「…………」
「…………」
「……ベイルくん?」
「なんですか?」
「何しているの?」
「待ってます」
待ってる?
何を?
って言うか、気付くと周りにも大人が突っ立っている。この人たちも……待っているの??
「ねぇ、ベイルくん。このドアの向こうに階段があるんでしょ? 早く行こうよ。後ろに人も並んでいるしさ」
私は両開きと思われるドアに手をかけようとすが、ノブがない。仕方ないから、この溝に指を入れて……。
「開かない?」
「スイさん、ちょっと!! 待っているだけで良いんですよ、ここは」
「何言っているの? レックスさんを待たせているんだから、そうもいかないでしょ! うおりゃあ!!」
私は思いっきり力を入れ、その重たい扉を開こうとするが、やはり少しも動かない。
「おかしいな。ほら、ベイルくんも手伝ってよ。二人でやれば!」
振り返ると、顔を真っ赤にしたベイルくんが。そして、後ろで立っている大人たちも、なぜかクスクス笑っている。もしかして……私、何か変なことしてる?
チーンッ!
謎のドアの方から変な音が。私がもう一度ドアの方に目を向けると。
ガガガガガッ!
「か、勝手に開いた??」
「自動ドアです、スイさん。エレベーターの中に入りましょう」
「えれべいたぁ、ってこれが??」
ドアの向こうは、お城の個室トイレと同じくらいの広さがある空間。こんな狭いところで何を……と思ったのだが。
「うひゃあああーーー! ベイルくん、私たち飛んでる! 空に向かって一直線だよ!! なんなの、この乗り物!!」
えれべいたぁの壁はガラス張り。そこからは外の景色が見えていた。
「見て、ベイルくん。お城だよ! あ、あっちはこの前行ったお祭りやってたところじゃない??」
「そ、そうですね。でも、スイさん……その話は後にしましょうね」
ベイルくんは背伸びして、私の耳元で何かを伝えようとしてくる。が、背が足りないので少し屈んであげると……。
「エレベーターではしゃぐと、田舎者だと思われちゃいますから」
「そ、そうなの?」
落ち着いて周りを見ると、一緒にえれべいたぁに乗る大人たちが笑うのを堪えて、口元を抑えていた。
「は、早く言ってよぉ」
「はしゃぐのは我慢、って言いましたよね??」
チーンッ!
と再び変な音が鳴り、えれべいたぁのドアが開くのだった。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




