人の話は聞きなさい!
村の中心部と思われる場所へ行くと、既に多くの大人たちが集まって激しい議論が交わされていた。
「このままだと東の畑が全滅だぞ!」
「ドラクラ様が不在って本当!?」
「デモンが出るかもしれないのに、どうするの??」
ドラクラがいない、だって?
これはチャンス。
大チャンスじゃないか?
この状況を解決できたら、田舎から出てきた冴えない聖女だって、大聖女に見えること間違いない!
あれこれと成功のイメージを膨らませる私にベイルくんが指摘する。
「スイさん、よだれ出てません?」
私は手の甲で口元をぬぐってから、ベイルくんの方を見た。
「ベイルくん。この村は今ドラクラがいないってさ」
「そうみたいですね」
「だったら、私たちが霧を払っちゃった方がいいよね……?」
「!?」
私の企みを察したベイルくんは、嬉しそうに二度頷く。
「はい、そうかもしれません!」
ベイルくんもやる気に満ち溢れているようだ。きっと、ドラクラとして経験を積みたいのだろう。
だったら、やるしかないね!
「オッケー。じゃあ、ここは私に任せておいて。おーい! 皆さん、聞いてくださーい!」
ヤギの放牧を手伝っていた私の声は良く通り、チイチイ村の人々がこちらに振り向いてくれた。十分な視線が集まってから、私はできるだけ厳かな雰囲気を出しつつ、ベイルくんの横で片膝を付く。
「ここにあらせられるは、トランドスト王国、第一王子、ベイリール・トランドスト様であります。今は修行のため国内を旅している最中ですが、民の嘆く声を聞き、この村に立ち寄られた次第。そして、この私はベイリール様専属の聖女として――ひぃえっ!?」
いざ名乗ろうとしたところで、私は気付いた。
目を爛々とさせる村人たち。
それは獲物を見つけた空腹の野獣を連想させる。
そして、獲物に飛びつくがごとく、村人たちが迫ってきた!
「お、王子様ーーー! 本当に王子様なのですか!?」
「トランドスト王家と言えば最強のドラクラを生み出す家系!」
「ドラクラ不在である我らの村を、どうかお助けください!」
こ、殺される……
と思ったけど、どうやら違うらしい。
みんな、涙を流しそうな勢いでベイルくんに助けを求めている。
そして、村人たちは少しでもベイルくんを自分の方へ引き寄せようと、手を伸ばしてきた。
「ちょっと! こら! ベイルくんを引っ張るな!」
私はベイルくんを守ろうとするが、大勢の人にもみくちゃにされ、立つこともままらない。
「す、スイさん。助けてぇ!」
消え入りそうな声で助けを求めるベイルくん。しかし、彼は村人たちに囲まれ、村役場と思われる建物の中へ連れ去られてしまった。気付けば私は一人取り残され、冷たい風に晒されている。
「な、な、な……なんで私だけこんな扱い!! って言うか、ベイルくんを誘拐してどうするつもりだ!」
私はベイルくんをさらった村人たちを追いかけた。
……しかし、私はあらぬ誤解(?)を招くことになるのだった。
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