これはガチ!最狂の天才少女!
「ここがトランドスト大学!」
立派な赤い門を抜けると、そこには広大な敷地が広がり、荘厳な雰囲気の建造物がいくつも並んでいた。そして、確かに右も左も若者が歩いている。ただし、私の「これぞ都会センサー」は少しも反応しなかった。
「ベイルくん、ここが本当にトランドスト大学なの? 若者に人気なお洒落スポットには見えないけど」
「わ、若者に人気なのは確かです! ほら、あそこもあそこも。若者がいっぱいでしょ?」
「うーん……」
確かに若者は多いけど、真面目そうな子ばかりじゃない?
私は釈然としないまま、ベイルくんが「こっちです」と歩き出したので、それに従った。
「ところで、ベイルくん。君が担いでいる、それは何?」
「何って……さっき斬った呪木です」
ベイルくんは先程から、自分と同じくらいの大きさがある枯れ木を背負っていた。確かに、言われてみれば、浄化された呪木に違いない。
「でも、何でそんなものを?」
「ニアにお土産です。彼女、どんな差し入れよりも、これが一番喜びますから」
「ふーん」
それから、建物の中に入ったが、どこも楽しそうな場所ではなかった。雰囲気も静かで、私みたいなものが来るのは、場違いなのでは……という気持ちが膨れていく。
「……そっか!」
唐突に理解した。
「大学ってお洒落スポットじゃなくて、勉強するところじゃん! ……何でこんなところに連れてくるのよ、ベイルくん!!」
騙された、と隣に歩くベイルくんを怒鳴ると、彼は担いでいる呪木に潰されそうになりながら謝るのだった。
「ご、ごめんなさい。どうしても、ニアにスイさんを会わせたくて!!」
「……ニアって、誰だっけ?」
聞いたことはあると思うけど。
「何回も説明したと思うんですけど……ニアは国立黒霧研究機関に所属する、研究者です。呪木を斬る大剣……斬呪刀を作ってくれたのも、彼女なんですよ?」
「あー、はいはい。例の天才少女ね! 大学生なの?」
「いえ、大学はちょっと前に卒業しています」
んんん??
大学生って私くらいの歳の人間が行くものじゃなかったっけ?
だって、彼女はまだ少女なんでしょ?
私が疑問を口にするより先に、ベイルくんは話を続けてしまう。
「ニアの勤め先、つまりは国立黒霧研究機関がトランドスト大学の中にある、というだけです」
「ふーん、そう。そうなんだぁ」
まぁ、気になるけど別にいっか。
思考のスイッチを切ると、ベイルくんは呆れたように眉を八の字に曲げた。
「スイさん、完全に興味を失ったの、丸わかりですよ……」
私が返事すらしないので、ベイルくんは再び歩き出す。私は口を半開きにした状態で、ただ付き従うのだった。
しかし、気付くと建物の雰囲気が変わっていく。
「なんか病院っぽいね」
なぜか私の質問をベイルくんは無視する。
私、病院って苦手なんだよなぁ。
でも、ここって大学だよね。
病院ではないよね?
もちろん、これだけ大きい病院は見たことないけどさ、この雰囲気って……。
「テレビで見た『医の極み』に出てくる病院が、こんな感じだったような……」
「あ、その通りですよ、スイさん。ここ、そのドラマの撮影に使われていました。あの頃、ニアは撮影スタッフに道を通してほしいって言えなくて、よく遠回りしてたって――」
「ベイルくん!!」
「は、はい!?」
「ここ、ドラマの撮影現場だったの!?」
「だから……はい、そうですよ」
「そんな重要なこと、何で言わなかったのぉぉぉーー??あのドラマ、私とママ、毎週見てたんだから! あっ、記念撮影しないと!」
「記念撮影って、ここただの廊下ですよ?」
「違うよ、ベイルくん! 思い出したの、私。ここはドラマの中で、ドクター・ジーゼンとドクター・セトミが初めてすれ違う廊下だよ! 第一話の! 最初のシーン!」
「……カメラがないので、後でニアにお願いしてみましょうね」
必死な私に苦笑いを浮かべるベイルくんだったが、気のせいか安心した表情を見せたような……。廊下を進むと、両側にたくさんのドアが並んでいた。その一つの前で、ベイルくんが立ち止まる。
「ここがニアの研究室です。ニア、入るよー!」
かなり親しい関係なのだろう。
軽くノックしてから、ベイルくんが部屋の中に入ると、そこには白衣に身を包む、ウェーブがかかった金髪の女の子が。
メガネで弱々しく見えるけど、勉強が得意って感じがする。どれだけ賢いんだろう、と彼女を観察すると、物影に隠れられてしまった。
そんなニアちゃんが遠慮がちに口を開く。
「ベイル様。もしかして、この方が……?」
「うん。スイさんだよ」
「こんにちは。スイです。よろしくねー」
挨拶したはずなのに、ニアちゃんは私に背を向けてしまう。
「??」
何か失礼なことしたかな?
あ、もしかして凄くシャイなのかな??
と思ったら、振り返ってこちらを見るニアちゃん。その手には……。
「……へっ?」
私は見た。
右手にハサミ、左手に注射器を持ったニアちゃん。
その目は爛々と輝き、狂気に満ちていた。
一歩、一歩と私に近付くニアちゃん。そして、悪魔のような笑顔を浮かべた。
「では、さっそく調べさせていただきまーーーす!! お覚悟ーーー!!」
「ぎゃあああぁぁぁーーー!!」
襲い掛かってきたニアちゃんに、私は思わず悲鳴を上げるのだった。
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