さっそく事件の予感!!
と、言うわけで、私は故郷であるララバイ村を出た。
聖女はその地域を守る存在だから、大人たちも仕方なく止めようとしたけど、そこはジョイが協力してくれたので、特に問題はなかった。
ただ、村を出てから飲まず食わずで森を歩くことに。やっと森を抜けたと思ったら、どこまでも広がるような荒野が……。
これはもう死ぬかもしれない、と思ったところで……。
「僕に出会った、ということですね?」
ものすごく端的に、ジョイのことなんかは何となく省きながら、村を出た理由や経緯を説明すると、少年……
ベイリールくんは深々と頷いた。
ちなみに、さっきまで超絶イケメンの青年だった彼は、私の話を聞いている間に、少年の姿に戻っている。
「で、ベイリールくんはどうしてこんな場所でぶっ倒れてたの?」
「ベイルと呼んでください」
「ベイル?」
「はい。近しい人はみんなそう呼びます」
近しい人か……。
初対面なんだけど、私を近しい人に認定してくれたってこと?
っていうか、プロポーズされたわけだし、婚約者……って認識?
いやいや、私はまったく返事はしてないのだけれど。
そもそも、あれは本気だったのかな。
今のベイルくんは、まるでプロポーズした記憶なんてない、って顔をしているし……。
「じゃあ、ベイルくん。君はどうしてぶっ倒れていたの?」
「それがですね……。ドラクラとして訓練をするために、家臣たちとやってきたんです。この荒れ地は黒霧の発生が多く報告される場所なので。……でも、一人になってしまって」
「え、王子様のベイルくんを一人に?? みんなとはぐれちゃった、ってこと?」
「はぐれた、と言うか……」
ベイルくんは言いにくそうに顔を赤らめ、後頭部あたりをぽりぽりとかいた。
「恥ずかしながら人望と言うものが皆無でして、僕が訓練しようって言っているのに、家臣たちは取り合ってくれず……。最終的にはみんな帰ってしまいました」
そ、それ……帰ったって言うのか?
ベイルくんは照れくさそうに笑う。
「僕はどうしても訓練したかったので、帰ろうとする皆の馬車にしがみついたんですけどね……。ちょっとしつこかったせいか、蹴り落されちゃったんですよ。ほんと、頑固すぎるのはよくないですね」
ベイルくん……それ暗殺だよ!
よく分からないけれど、継承権争いとかで、敵対勢力が訓練に乗じてベイルくんを殺そうとしたんじゃないの??
指摘してあげたかったが、ベイルくんが純粋な笑顔を浮かべながら
「普段はみんな良い人なんですけどね」
と言うものだから、それはできなかった。
「と、とりあえず事情は分かったよ」
私はいったん色々な気持ちを飲み込んで、この状況を打開するための話し合いを始めることにした。
「こんな場所にいても、二人で野垂れ死ぬだけだから、まずは近くの村を目指そう。ベイルくんの服もぼろぼろだし」
ベイルくんは急に大人になったせいで、服が破れている。いちおう大事な場所は隠れてはいるが、王子様に風邪を引かせるわけにはいかないじゃないか。
「ベイルくんはどっちからきたか、覚えている?」
「もちろんです! こう見えても、方向感覚に関しては弟より優れている、と褒められるので」
私の知らない弟くんと比較されても、それが頼れるものかどうか……。
「こっちです。行きましょう!」
しかし、ベイルくんは意気揚々と歩き出す。まぁ、これだけ自信満々なんだから、大丈夫だよね!
歩きながらお互いに質問を繰り返したが、私もなんだかんだ平凡な内容しか思い浮かばず、ベイルくんはもう少しで十二歳、という情報を得るに終わる。
そうこうしている間に、最寄りの村、チイチイ村に到着するのだった。
「てっきりフラグだと思ったけど、本当に方向感覚ばっちりだね、ベイルくん。しかも、この村……結構な都会じゃん!」
「フラグって何ですか?」
「そんなことは気にしなくていいの。それより、見てよ!」
チイチイ村はララバイ村とは比べ物にならないほど活気に満ちていた。
「凄い、道具屋が二つもある! 武器屋も防具屋も……あぱれるしょっぷ、こんびにまで!!」
大興奮する私だったが、ベイルくんは冷静だ。
「スイさん、なんか発音が変ですよ。それに、アパレルショップやコンビニなんて、これくらいの田舎でも珍しくないですよ」
「むっ……」
い、田舎だって……?
そうか、ベイルくんはめちゃくちゃの「してぃぼーい」だから、この都会も田舎に見えるのか。
「取り合えず、あぱれるしょっぷに入ろうか。王子様にぼろを着せたままってわけにも行かいしね」
あぱれるしょっぷで、ベイルくんに合う服を探す。試着させてみると、さすがは王子様と言うべきか、美少年に磨きがかかるのだった。
「ベイルくん、可愛いじゃん……!」
しょっぷ店員さんも笑顔で「よくお似合いですよ」と言っているし。しかし、ベイルくんは不満げだ。
「か、可愛いって……僕、男子ですよ!」
……男子、だって?
うーーーん、男子かぁ。自らを男子って言っちゃうところ、本当に可愛いなぁ!
「よしよし、オーケーオーケー。君が可愛いから、お姉さんがお洋服を買ってあげるね。教会の雑用バイトでコツコツとためた貯金で、子供服くらい、余裕で買えちゃうんだから。これ、おいくらです?」
しょっぷ店員さんは笑顔で答える。
「三万イェンです」
「……はい?」
全財産の半分以上が消滅……!!
まぁ、ベイルくんが可愛いから良いんだけどさ……。
涙をこらえながら、次は空腹をどうにかしなければ、と激安飲食店を探す私だったが、なんだか騒がしい声が近付いてきた。
「き、霧だ! 黒霧が出たぞーーー!」
えええ、このタイミングで出るかぁ? やっと一息吐けると思っていたのに……。
でも、待てよ。
この霧をなんとかしちゃったりしたら……聖女として名を上げるチャンスかも!
隣にいるベイルくんを見ると、彼は私を見上げなら可愛らしい笑顔を浮かべるのだった。
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