いいとこあるじゃん!
そして、ついに私たちの運命を断つ、弓が引かれた。
と思ったのだけれど……。
その瞬間は、いつになってもやってこなかった。
「撤退だ」
どこからか聞こえた、少年の声。
小さいときのベイルくんより、少しだけ大人びているけれど……誰だろう。
頭痛に耐えながら、身を起こすと、黒ずくめの男たちの中に男の子が一人混じっていた。やっぱり、ベイルくんより二歳くらい上の男の子だ。
「想定外の援軍がきた。やり合ってもいいが、安全第一だ。すぐに退くぞ」
男の子の指示に従いテロリストたちが消えていく。あの子、まだ小さいのに、まるでリーダーみたいじゃないか。そして、男の子はこちらに向かって言うのだった。
「じゃあな、王子様。次は必ず殺してやるよ」
男の子は悪意を含んだ笑みを見せると、立ち去って行く。
「ベイルくん、今の子……」
「はい。黒いマントにフードを深くかぶっていました」
「しかも、フードが裂けて、顔が見えていたよね。ってことは……」
「間違いありません。先程、霧の中で戦ったドラクラです」
だよね!
でも、霧の中で戦ったドラクラは確かに大人だった。ってことは、彼も
ベイルくんみたいに変身すると大人になるドラクラ、ってこと……?
いつの間にか、黒ずくめの集団は全員消え、フォグ・スイーパや騎士たちが協力し合って、怪我人を運ぼうとしていた。そういえば、援軍がきた、って例の男の子は言っていたけど……。
もしかして、レックスさん??
私は何とか身を起こし、レックスさんの姿を探そうとしたのだが……。
「ベイリール様、ご無事か」
後方から低い声。あれ、この声って……。
ベイルくんも驚いたらしく、その名を呼ぶ。
「ビーンズ将軍……!!」
やっぱり! じゃあ、援軍って……。
「どうしても嫌な予感が消えず、サムライを集めて駆け付けました。テロリストには逃げられましたが、御身がご無事であれば何より……」
「頑固者の偏屈おじさんだと思ったら、いいところあるじゃん」
安心と体の不調が手伝い、思わず本音が出てしまい、将軍の鋭い眼光に貫かれる。
「そういう聖女様は、ひどくお疲れのようだな」
「そうなんです」
代わりに答えたのはベイルくん。
「一刻も早く安全な場所で休ませたい。将軍、馬車をお借りできないか?」
「もちろんです。後始末は我々にお任せを。あと、輓馬として引き続きシシマルをお使いください」
「助かります」
私はベイルくんに抱き上げられ、馬車の中に運ばれた。
「待って、せっかくだから街をぶらぶらしたいよ」
「ダメです。こんなにも青白い顔をしているのですから」
そう言って、ベイルくんは私の顎を指でなぞった。さらに、抱き寄せてから、私の頭を膝の上に乗せる。膝枕か……。悪くないかも。ベイルくんの体温を感じていると、少しずつ眠くなっていった。
「聖女様、今日こそは……」
ベイルくんが何か言ったけど、よく聞こえなかった。その後、私がうつらうつらしている間、ベイルくんがずっと私の頭を撫でていたと思うけど、もしかしたら夢だったかもしれない。
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