こうしてポンコツ聖女は田舎を出た
「やっぱりダメだったんだ!」
誰かが叫んだ。それをきっかけに、村の人たちの本音が少しずつ聞こえ始めた。
「スイちゃんの血は本当に呪われているのかねぇ」
「あの子が聖女だって言うから、私たちはムラクモ家にお金も収めているのに」
「聖女として役に立たないなら、村にいてもらっても困るよ」
大人たちがジョイを毛布でくるみ、担ぐようにして控室の方に消えていく。たぶん、一時間はあの調子で、下手をすれば命の危険だってあるだろう。
「貴方が悪いわけではありません」
俯く私の背に、シスターがそっと触れてくれる。それは温かくて、たぶん本当の優しさがあった。だけど……私はこの優しさを受ける資格はないのだ。
私は正装のまま、教会を飛び出した。そして、いつもの場所……役場の屋上に隠れる。何をするわけでもなく、私はそこで呆け続けた。それから、たぶん三時間も立ったころだと思う。
「スイ……」
ジョイが現れた。
「村のみんなが騒いでいるよ。スイがいないって。儀式の後、スイが動揺するなんて初めてのことだから、みんな驚いたんだろうね。何だかんださ、みんなスイのこと好きだから、心配なんだよ」
ジョイが隣に座る。
横目で表情をうかがうと、顔色は悪くかなりやつれていた。
たぶん、激しい拒否反応に苦しんだのだろう。今だって立っているのがやっとだと思う。
でも……死ななくて、よかった。
「スイ、ごめんね」
「あんたが謝る必要、ないでしょ」
「……でも、僕は」
ジョイが泣いているのは、すぐに分かった。
「僕は、スイを聖女にしてあげたかった。僕が、スイを聖女に……」
そこから、私たちは夜になるまで役場の屋上で座っていた。何を話すわけでもなく、ただ黙って。
どうして、私はジョイがドラクラに立候補したと聞いて逃げ出したのか。それは、簡単なことだ。
私は私が思っていた以上に、ジョイのことを信頼していたからだ。
もし、ジョイが私の血に適合しなかったら。ジョイほど私を理解して、私を知っている人間が、同調できないのなら、きっとこの村で待ち続けていても、本当の聖女になんて、いつまで経ってもなれない。
そんな結論が出てしまうのが、怖かったのだ。
だからこそ、私は決断できた。
私は立ち上がり、ずっと暮らしてきたこの村を見下ろす。
「スイ?」
唐突な行為だったせいか、ジョイは少し驚いた顔で私を見上げる。
「ジョイ。私、決めた」
「決めたって……何を?」
私は胸に決心の火が宿ったことを感じながら、深く頷いた。
「村を出る。明日、ララバイ村を出て王都へ向かう!」
旅立ち編はここで終わりとなります。
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