聖女襲撃
「ベイルは、私が……。私とフォグ・スイーパになるんだから!」
リリアちゃんは刃を手にして、デモンの群れを睨みつける。その距離は十メートルほど。すぐにでも逃げ出さなければならない距離だ。
それなのに、リリアちゃんは手にした刃で自分の手の平を切り裂いた。滴る血液が地面の濡らす。それを見たベイルくんは、リリアちゃんを引き止めようとした。
「リリア! 何をするつもりなんだ!」
「ベイルは大人しくしてて! 私が何とかするから!」
リリアちゃんは聖女の血を使って、大地や空間に干渉を始めた。数秒の後、リリアちゃんの力によって、迫りくるデモンの群れが体を痙攣させ始める。
その間、リリアちゃんは悲鳴のような叫び声を発し続けた。干渉による攻撃は、とんでもない集中力が必要で、自身も痺れるような痛みを感じる。それを二十体はいるだろうデモン相手にやっているとなると……かなりの負担が彼女を襲っているだろう。
「リリア! もういい、やめるんだ!」
ベイルくんが引き止めると、彼女は意識を失ったのか、その場に崩れてしまった。ただ、同士にデモンたちも失神したかのように、倒れ込む。
通常、聖女の干渉によってデモンを倒すなんて有り得ないことだ。だって、聖女にかかる負担がとんでもないから。
それなのに、リリアちゃんは……。
「リリア……?」
ベイルくんはリリアちゃんを抱き留めるが、彼女の鼻から血が流れていた。
あれは……まずくないか??
「リリア!!」
彼女を心配して飛び出したのは、隣にいたフレイルくんだ。
ベイルくんから奪い取るようにして、リリアちゃんを自身に抱き寄せる。
「リリア、大丈夫か!?」
薄っすらと目を開けるリリアちゃん。
そして、瞳にフレイルくんを宿す彼女の唇が弱々しく動いた。
「ベイル……」
再び途切れる意識。
それを見たフレイルくんの表情は何とも言い表せないものだった……。
しかし、すぐに感情的な目つきで、ベイルくんへ言い放つ。
「兄さん、何やっているんだよ!!」
「フレイル……」
「どうしてリリアがこんなことになるか、分かるか!? 兄さんがいつまでも、しっかりしてくれないからだろ!」
「……」
「できないなら、最初から何もするなよ。大人しくしていてくれよ! そうすれば、リリアだって……」
ちょ、ちょっと待ってよ、フレイルくん!
ベイルくんは別に、そういうつもりじゃないのに……!
すると、二人の飲み込むようにして、フォグ・スイーパたちがデモンたちへ向かって駆けて行った。まずい、二人を見失っちゃうし、手柄も取られちゃう!
私はもう一度レックスさんを探すが、やはり見当たらない。
どうしよう、どうしよう……!
「スイ様!」
背後からレックスさんの声。
よかった、と振り返ったが……。
「レックスさん!?」
それは、私とレックスさんの目が合った瞬間だった。彼の胸のあたりに、何かが突き刺さる。レックスさん自身も、何が起こったのか理解できなかったらしく、驚愕の表情で胸を見下ろす。
レックスさんの胸に刺さったものって……
もしかして、弓矢なの?
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