何をぐずっているんだい?
楽しい王都の散策も終わり、都会をたっぷり堪能した私だったが、その翌日。朝からレックスさんが現れ、新たな試練の始まりを伝えられるのだった。
「スイ様、今から国王に会っていただきます」
「こ、国王??」
レックスさんは頷く。
「それは、ベイルくんのお父さんってことですよね?」
「もちろんです。これから、私たちはスイ様こそ、ベイル様の聖女に相応しいと主張をするつもりです。しかし、国王に支持を得られなかったら、どこかで計画が破綻する恐れがあるでしょう。何としてでも、スイ様が国王に気に入られなければ……」
「ま、マジっすか。国王なんて有名人に気に入ってもらえるかなぁ……」
十分後、私は謁見の間にいた。
いや、正確には謁見の間の前にある、控室らしい場所だ。
国王に会うせいで、さすがの私も緊張状態だが、そろそろベイルくんもやってくるらしい。早くベイルくんに会って「大丈夫ですよ、スイさんなら」とか言ってもらい、緊張をほぐしてほしいのだが……。
「す、スイさん……」
現れたベイルくんはなぜか元気がなかった。私の横にちょこんと座ると、なぜか溜め息を吐く。
「ベイルくん、どったの?」
「……父上に会いたくなくて」
「え、仲悪いの?」
ベイルくんは首を横に振る。
「そういうわけでは……」
「じゃあ、どういうわけ?」
ベイルくんは黙って、なかなか理由を話そうとはしない。
「どうしたのさ、ベイルくん。いつもなんだって教えてくれるじゃん。田舎者の私にも何でも丁寧に教えてくれる、いつものベイルくんが好きだなぁ」
「す、好き……ですか」
「そうだよ。素直で優しいところがベイルくんの良いところなんだから」
「……」
しかし、ベイルくんは考え込むように俯いてしまう。そこまで悩むって、お父さんとどんな関係なのよ。
「実は、ですね」
お、話してくれそう。
「父上に会いたくないというか、スイさんに会わせたくないというか……」
「……どういうこと?」
ばっ、とベイルくんが私を見る。
そして、その目はうるうる。
うーん……可愛い。
「絶対に、笑わないでくださいね! 父上と僕のやり取りを見ても、絶対に笑わないでくださいね!」
「な、なになに? ちょっと話しが分からないというか、見えてこないんだけど!」
しかし、ベイルくんは目をこすりながら、ぐすぐす言うだけで、それ以上は説明してくれなかった。
私はただベイルくんの背中を撫でていたのだが、レックスさんが顔を出した。
「ベイル様、スイ様。国王の準備が整いました。……ベイル様?」
レックスさんに声をかけられても、黙り込んだままのベイルくん。仕方なく、私が状況を説明しようとした。
「その、ベイルくんが急にぐずりだして」
「ぐずるとか子ども扱いしないでくださいっ!」
ベイルくんが顔を上げるが、鼻まで真っ赤にしちゃって、子どもそのものじゃないか。
「よく分かりませんが」
とレックスさんも事情が分からないらしい。
「王がお待ちです。ベイル様も、ほら、鼻を拭いて」
「自分でできるよ!」
レックスさんが鼻に近付けたティッシュを奪うように取るベイルくん。
うんうん。ちゃんと、鼻を綺麗にして偉いじゃないか。
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