なんだよジジイ
「スイさん。試験合格、おめでとーーー!!」
「ありがとーーー!!」
地獄のような一ヶ月半が終わった。そして、今はベイルくんをはじめ、レックスさん、リリアちゃん、ライムちゃん、フレイルくんまでが駆け付け、私の試験合格を祝ってくれている。目の前には見たこともないご馳走。嗚呼、頑張ってよかった。
「美味しい。これも美味しい! 美味しいよう!」
「スイさん。もっとゆっくり食べないと、喉に詰まっちゃいますよ?」
「でも、本当に美味しくて……!!」
私とベイルくんのやり取りを見て、レックスさんが笑顔を見せる。
「せっかく無事に合格できたのです。スイ様、無理をなさらないように」
「は、はい」
そうなのだ。
まだまだトラブルが続くのでは……と思われたが、意外にもスムーズに試験を終え、王族聖女としての資格をゲットしたのである。
ただ、超過密スケジュールが続いたせいか、私は試験が終わると同時に三日も寝込み、やっと動けるようになったのだった。
「まさか、スイさんが資格なしだとは思わなかったよ」
と笑うのはフレイルくんだ。
「一ヶ月半で王族聖女の資格を取るなんて、どうやって勉強したの?」
「それは超優秀な家庭教師が二人もサポートしてくれたからね」
そう言って、私はベイルくんとリリアちゃんを見た。ベイルくんは笑顔を返してくれたが、リリアちゃんは唇を尖らせて、顔を背けてしまう。それを見たライムちゃんが一言。
「姉さま、不機嫌?」
「不機嫌じゃない」
いやーな空気がそよ風のように通り抜ける。が、それを掻き消すようにフレイルくんが別の話題を。
「それにしても、お祝い事が続くなぁ。半月後は夏祭りの時期だから兄さんの誕生日だし、それが終わったらエンゲ様の誕生日もあったよな」
と、フレイルくんはなぜかライムちゃんを見る。
「エンゲ様って誰?」
ベイルくんに聞いてみると、彼は親切に答えてくれた。
「ライムの祖父に当たる方で、昔から将軍家を支える、ライオネス家の重鎮の一人です」
「ほんと何歳なんだろうな、あの爺さん。正直、デモンみたいに不気味だから俺は苦手だなぁ」
人当たりの良いフレイルくんがそんなことを言うなんて。逆にどんなお爺さんなのか気になっちゃうなぁ。
「フレイル。ライムの前でそんなこと言わないで」
優等生のようなリリアちゃんの一睨みに、フレイルくんは顔を引きつらせるが……。
「私は構いませんよ」
当のライムちゃんは気にした様子はない。それから、しばらくは他愛もない話が続いたが、途中でライムちゃんが席を立った。
「どこに行くの?」
素早くリリアちゃんの確認が入った。
「お手洗いです」
「あ、私もー!」
凄い勢いで飲み食いしたせいか、私もトイレに行きたいと思っていたところだ。ちょうどいい、と私はライムちゃんと二人でトイレに行った。
特にこれと言った会話もなく、用を済ませて、みんなのところへ戻ろうと二人で歩いていると……。
「あ、お父様」
ライムちゃんが立ち止まり、廊下の奥からこちらに向かってくる人物に目を止めた。
「ライム、こんな時間に城にいるとは珍しいな」
その人物は、かなり腰は曲がり、顔も多くのシワを刻んだ老人だった。何歳くらいなのだろう。下手をしたら、百歳近いかもしれない。足も悪いのか、杖も付いているじゃないか。そんなお爺さんに対しても、ライムちゃんは淡々とした態度で会話する。
「珍しいも何も、今日はリリア姉さまと祝いの席に出るとお伝えしました」
「そうだったか……。何の祝いだ?」
「ベイル兄さまのご友人が王族聖女の資格を取得しました。こちらの、スイさんです」
「王族聖女の?」
お爺さんの目がこちらに。
な、なんだか雰囲気のあるお爺さんだなぁ。ちょっと人間離れしている、というか……。
「スイさん、こちらがエンゲおじい様です」
「どうもどうも。スイと言います」
あれ?
エンゲおじい様?
その人って、さっきフレイルくんが言ってた……?
私はエンゲさんの顔をもう一度見る。確かに、年齢不詳を通り過ぎて、人間ではない何かに近付きつつあるように見えるくらい、長い時を感じさせる雰囲気だ。
物珍し気にエンゲさんを見る私だったが、エンゲさんの方も私を物珍し気に見てることに気付く。そして、エンゲさんは顔のシワをくしゃくしゃっと動かした。いや……笑った、のか?
「噂に聞いている。ベイルの小僧と同調した聖女は、お前さんか?」
「え? あ、その、何て言うか……」
これ、秘密なんだっけ?
よく分からないけれど、誤魔化した方がいいよね?
「ただの噂ですよ。私は別に。あはははっ」
「珍しい瞳の色だな」
エンゲさんは急に話題を変える。びっくりしたけど、目の話ね。確かに私の目は金色に近くて、昔から珍しいって言われるんだよな。
「そうなんですよ。昔から――」
「出身はどこだ?」
うわ、また話を変えたよ。マイペースな爺さんだな。
「田舎です。とんでもない田舎」
「村の名前を言いなさい」
「……ララバイ村、です」
どうせ知らないだろ、あんなド田舎にある村のことなんて。と思いつつ、その名前を教えてみたのだが、エンゲさんは黙り込んでしまい、何だか重たい空気が流れた。次にどんな質問がくるのか、エと身構えていたが、エンゲさんはしゃがれた声で言う。
「ライム、帰るぞ」
「でも、おじい様……」
有無を言わさないエンゲさんの威圧、ライムちゃんは顔を伏せてしまう。
「分かりました、おじい様。スイさん、リリア姉さまに私は帰ったとお伝えください」
「う、うん。でも……」
私が口を出すことじゃないけれど、ライムちゃんはエンゲさんに連れられて、暗い廊下の奥へ消えて行った。
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