気になるあの娘は……
「うわぁぁぁーんっ! ベイルくーーーん!」
「スイさん!? どうしたんですか??」
寝る前の復習授業が始まる前、私はベイルくんの顔を見て、思わず泣き出してしまった。
「都会の男、怖いよう! 怖いよぉぉぉーう!!」
「……もしかして、アーロンですか??」
「ど、どうして分かったの??」
び、びっくり。
ベイルくん、エスパーか何か??
「どうしても何も……。アーロンはいかにも女癖が悪いタイプじゃないか。ずっと、スイさんに変なことしないか、心配だったんですよ」
「……そうなの?」
ベイルくんみたいなお子様にも分かるくらい、アーロンのやつって、すけこましオーラに溢れてたってこと??
それに気付かない私って……やっぱり、芋娘なんだぁ。そう思うと、余計に情けなくなって、私はベイルくんを抱きしめて泣くしかなかった。
「うえぇぇぇーーーん!」
「ちょ、スイさん!?」
「慰めてよ、ベイルくーーーん!!」
「わ、分かりましたっ!!」
十分後。
「ほら、スイさん。お鼻をチーンって」
「うぇ……」
ベイルくんがティッシュを鼻に当ててくれたの、言うとおりにする。チーンって。
「もう、スイさんは他人の悪意や欲望に対して無防備過ぎるんですよ」
「だってぇ……田舎には人を騙すような人、いなかったもん。みんな優しかったし、嫌なやつなんてババスくらいだったしぃ」
「いいところで育ったんですね」
「うん。みんなのこと、大好きだったよう」
嗚呼、何だか寂しくなってきた。ララバイ村に帰りたい……わけじゃないけど、
あの田舎に戻るのは本当に勘弁なんだけど、
パパとママ、教会のシスター、それから……ジョイにも会いたくなってきちゃった。
「大丈夫です」
そんな私の気持ちを宥めるように、ベイルくんが言った。
「スイさんのことは、僕が守りますから。それで、何があったんですか? 詳しく聞かせてください」
「で、でも……。なんか私が告げ口したみたいにならない??」
「黙っていても時間の無駄です。僕がその気になれば、城で起こったことは全部分かるんですよ。誰がどんな不正をしていて、仕事をどれだけさぼっているか。そんな彼らのお尻に何本の毛が生えているのか、なんてこともまで分かるんですから」
お、お尻って。
ベイルくん、笑っているけれど……なんか怖くない? 気のせい?
次の日、午前中の学科が始まる前にレックスさんが訪ねてきた。
「スイ様、申し訳ございません。本日の技術訓練はなしでお願いします」
「な、なしですか?」
レックスさんは頷く。
「新しい指導員を探すので、しばらくお待ちください」
「あの、アーロンさんは?」
「スイ様が心配することは、何もありません。私にお任せください」
気のせいか、レックスさん……怒ってない?
私が面倒なこと言ったせいかな……。
しかし、次の日もその次の日も、技術訓練は行われなかった。
「なかなか代わりの指導員が見付からなくて……」
レックスさんは疲れているのか、表情がやや暗い。
「今回は現役の王族聖女を教師として招こうと思ったのですが、タイミングが悪いことに半年に一度の呪木発生予防期間に入ってしまい、ほとんどの王族聖女が郊外に派遣されてしまったのです」
レックスさん、大変そうだなぁ。
何だか申し訳ない気持ちになってしまうのだけれど、レックスさんは気合を入れなおすように背筋を伸ばした。
「あと一週間だけお待ちください。王族聖女として十分なキャリアがあり、教師としても優秀な人間を必ず用意してみせます」
一週間か……。
私みたいなやつが、そんなに悠長にしてて大丈夫なのかな?
「あの、普通の先生で大丈夫ですからね」
優秀な人じゃなくてもいい。一週間だけで良いから教えてくれる人がいればいいのだけれど……と思ったが、レックスさんは首を横に振る。
「そうはいきません。スイ様には最高水準の教育を受けていただかなくては。スイ様のためなら、私はどんな努力も惜しみません」
わ、私のため??
レックスさんったら、そこまで必死になってくれるなんて……!
その想いに応えるためにも、自主練に取り組んでみようか、とベイルくんに相談したところ……。
「スイさんはそそっかしいから、自主練は危ないですよ!」
と反対されてしまうのだった。しかも、危ないからってどんな理由だ。
君は私の親か?
しかも、過保護よりだぞ。
だが、ベイルくんには別のプランがあるようだった。
「でも、大丈夫ですよ。優秀な教師ならすぐ近くにいるから。どうやら、レックスはすっかり忘れているようですけど」
「すぐ近くって……またベイルくんのこと?」
だとしたら、最初から全部ベイルくんに教わっておけば良かったじゃないか。しかし、彼は首を横に振る。
「いいえ。僕は聖女の資格試験でどんな技術が必要なのか、まったく知らないので」
「じゃあ、ベイルくんの知り合いってこと?」
ベイルくんは頷く。
「しかも、経験者ですよ」
「経験者?」
なるほどなるほど。
現役の聖女ってことね。
確かに、トランドスト城なら王族聖女の資格を持っている人、たくさんいるんだろうな。
「はい。超優秀な聖女です。資格もちょっと前に取ったばかりだから、同じ目線で教えてくれると思います」
「えええーーー、最高じゃん! どんな人なの? ぜひ紹介してよ、ベイルくん!」
「紹介も何も、スイさんも知っている人ですよ」
「え、誰のこと?」
と言ってから、それが何者か何となく分かってしまい、少しばかり嫌な予感を抱くのだが、ベイルくんは得意気に言うのだった。
「もちろん、リリアのことです。彼女ほど優秀な聖女は、そういませんよ」
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




