恐怖のモラハラ教師
リネカーさんによる授業は、さっそく始まった。
背の高いイケメンが私の部屋にやってきて、二人きりの空間で指導を受ける。
もしかしたら、勉強以外の指導も……
なんて想像していたのだけれど。
「では、スイさん。二番と三番の答えは?」
「えーっと……分かりません!」
リネカーさんの目がギラっと光った、ように見えた。
「おかしいですね。最初に渡した参考書の1ページ目から50ページ目を読んでおくように、と伝えたはずですが?」
こ、怖いよう。
何か思っていたのと全然違う!
今日も朝からずっと授業だけど、このパターン何回目だったかな。問題に答えられないたびに、とんでもない圧をかけられ、もう心折れそうなんですけど……。
「……スイさん、もう一度聞きます。参考書は読みましたか?」
「よ、読みました」
リネカーさんは深い溜め息を吐く。
「では、なぜ二番と三番の問題に答えられないのでしょうか? まずそれを答えてください」
「なぜ、と言われましても……」
嫌な沈黙……。
私がまともな理由を説明しない限り、リネカーさんは喋る気がないようだ。
「あの、読んだけど、理解できなくて」
「理解しようとしたのですか?」
「そ、それは……」
「つまり、貴方は読めと言われたから、ただ読んで理解する必要はないと思った、ということですね。私の指示が悪かった。そういうことですか?
参考書を読んで、次の日に問題を出されても答えられるくらい、内容を理解してください。そこまで言わなかった私が悪い。そういうことですね?」
「違うんです。私、本当に理解力がなくて……」
「文字は読めますか?」
「いちおう……」
「では、なぜ理解できないのです?」
「なぜって……」
「教えてあげましょう。興味がないからです」
リネカーさんは言い切って、私の前に広げられた参考書を手に取った。
「分かっていますか。貴方はこれから聖女になる。黒霧の中で作業しなければなりません。それは恐ろしい現場です。場合によってデモンと戦うことになるかもしれないのですから。最悪、命だって落とす。それを避けるための知識が、この参考書に書かれているのですよ!?」
リネカーさんは参考書をバンバンッと叩く。何だか私が叩かれているようで、本当につらい……。
「自分の命が関わっているにも関わらず、興味がないと思えるその考え、聖女としての心構えがなっていない。その心構えができたら私に声をかけてください。私は中庭で待っていますので」
そういって、リネカーさんはバタンッと扉を閉めて、出て行ってしまった。
「もう勉強やだよう……」
私はぐずぐず言いながら参考書をひらき、そこに書かれた文字を追うが……。
ね、眠いよう。
泣いた後って何だか眠くなるよね。
このまま寝たら気持ちいいだろうな。
頭を前後に振ったり、垂れそうになるヨダレを拭いたり、何とか眠気に耐えていたところ、ガチャリと扉が開く音が。
やべ、リネカーさん帰ってきたかも、と背筋を伸ばすが……。
「スイさん、大丈夫ですか……?」
入ってきたのは、ベイルくんだった。
「だ、大丈夫だよ。いま頑張って参考書を読んでたところ」
「今日で三日目ですけど、どこまで進みましたか?」
ベイルくんは私の方に駆け寄り、参考書を覗くのだが……。
「まだ最初のページじゃないですか」
さすがに驚いたらしい。
「じ、実はね……」
私はリネカーさんに怒られる日々が、既に三日間も繰り返していると打ち明ける。説明中、思わず涙が流すと、ベイルくんがさりげなくティッシュを差し出して、背中まで撫でてくれた。
「やっぱり……。リネカーは学者としては優秀だけど、モラハラ気質だって噂なんですよ。だから、心配で見に来たんすけど……」
「うぇ、うぇ……。本当に君は優しいよねーーー! 私、ベイルくん大好きぃぃぃーーー!」
「ちょ、スイさん!?」
思わず抱き着いてきた私に、ベイルくんは驚いたみたいだったけど、優しく背中を撫でてくれるのだった。
十分後。
「ほら、スイさん。お鼻をチーンって」
「うぇ……」
ベイルくんがティッシュを鼻に当ててくれたの、言うとおりにする。チーンって。
「ごめんね、ベイルくん。洋服、汚しちゃったよね」
ベイルくんの服は、私の涙と鼻水で染みができているが、彼は笑顔だ。
「ぜんぜん平気ですよ。それより……リネカーはどこまで参考書を読むように言ったのですか?」
「50ページまで……。でも、私こんないっぱいの文字読めないよぉ」
「ふむふむ」
ベイルくんは参考書を手に取り、内容を確認すると、パタンッと閉じてから言うのだった。
「じゃあ、今から僕が50ページまでの内容を要約するので、聞いていてください」
「え、本当? ノートとか、取った方が良い?」
「そうですね。どんな風にノートを取っているかだけ見せてもらっていいですか?」
私はノートをひらくが、そこには落書きしかない。
「だ、大丈夫です。取り敢えず聞くだけで」
そこから、ベイルくんの授業が始まった。
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