少年少女が見ています……
「ほ、本当にベイルなの?」
目を瞬くリリアちゃんに、ベイルくんは低い声で答える。
「本当だ。なぜこの姿になるか、それは私にも分からない」
大人になったベイルくんを見て、リリアちゃんは動揺を隠せないみたいだった。顔も真っ赤。未来の旦那が超イケメンになるって分かったら、そりゃそうなるようなぁ。
フレイルくんも驚いているようだけど、リリアちゃんに比べると冷静だ。
「城に飾られている、若いころの父上の肖像にそっくりだから、兄さんに間違いない。でも、急に大きくなられると、びっくりするなぁ」
何とか目の前の事実を受け入れようとするフレイルくんだが、リリアちゃんは違った。
「でも、どうして? だって、あれだけ色々試したのに、どうして急に変身できたの?」
ベイルくんは首を横に振る。
「それも分からない。恐らくは、聖女様の血が私の力を呼び起こす鍵になったとしか……」
「スイさんの血が……?」
リリアちゃんは私の方を見る。
気のせいか……涙目じゃない?
泣かないでね?
泣いている子どもは苦手だから勘弁してほしいなぁ。
「きっと、ベイルの力が目覚めたってことじゃない? たぶん、スイさんじゃなくても変身できるよ」
リリアちゃんは自分を納得させるように何度か頷くが、ベイルくんは既に彼女を見ていなかった。
「そんなことより、呪木の切除だ。これ以上、馬車を攻撃させるわけにはいかない」
「そんなこと、って……」
「リリア、兄さんの言う通りだ。今は戦いに専念しよう」
フレイルくんの言葉に小さく頷くリリアちゃん。……気まずいから、早く呪木の切除に行きたいなぁ。
「じゃあ、気を取り直して行きましょう!」
私はパンパンッと手を叩く。
「たぶん、呪木はあっちだね。まだデモンの気配があるけど、四人で戦えば怖くないはず! 皆で頑張ろう!」
私は皆を盛り上げるため、一人先に歩き出すが――。
「あっちじゃありません。こっちです」
と、リリアちゃんに訂正されてしまうのだった。
霧が濃い方へ移動する。
何度かデモンに遭遇したが、すぐにベイルくんがやっつけてしまい、フレイルくんとリリアちゃんはそのたびに目を丸くするのだった。
「兄さん、本当に強いじゃないか! ドラクラになった兄さんは、絶対に強いとは思っていたけど……俺の想像を遥かに超えているよ」
「う、うん。こんなに強いドラクラ、私も初めて見た」
二人に褒められて、大人のベイルくんは優しい微笑みを見せる。たぶん、ずっと二人に出遅れていた分、嬉しさも倍になっているのだろう。
「もう少しで呪木も見付かるはずだ。フレイル、その前に血を飲ませてもらおう」
「そうだね。兄さん、経験豊富なドラクラみたいだ。これは父上も驚くんじゃないか?」
「フレイル、油断するには早い」
「分かった分かった」
兄弟でそんな会話を交わしているが……私には分かる。
ベイルくんは照れている。
照れているから、真面目な話をしようと頑張っているのだ。
「聖女様、よろしいですか?」
「え? あ、うん。血が欲しいのね」
いつの間にか、目の前にベイルくんが。
なんだろう、私も大人のベイルくんを目の前にすると、変な感じになっちゃうんだよなぁ。
だって、こんなイケメンに見つめられるなんて、田舎ではなかったし。最近はレックスさんに見つめられることもあるけどさ、ベイルくんのときは何か違う。何が違うのか、まったく分からないけど。
「聖女様?」
「す、すぐにやるから!」
何を動揺しているんだ、私よ。
隣ではリリアちゃんが淡々と指先を切って、滴る血をフレイルくんの口元に移している。私も同じように、指先をベイルくんの口元へ近付けたのだが……。
「うわっ! ベイルくん、ちょっと」
ベイルくんが私の手首を掴むと、指をパクリッとくわえ込んだ。
「く、くすぐったいよ!」
手を引っ込めようとするが、ベイルくんが私の手首を掴んで離さない。ちびっ子のときならゲンコツを食らわせてやるところだが、背が高いから無理だし、力も強いから逃げられない……。
「いや、待って! そんなに強く吸わないでッ! もう、やめてってばぁ!」
でも、なんだろう変な感じ。
嫌じゃないって言うか……ん?
「…………」
「…………」
私を捉える四つの目。
それは、明らかにイケナイモノを目にしてしまった少年少女のものだった。
赤面する私に気付くと、フレイルくんとリリアちゃんは慌てて目を逸らしたが……子どもの前で、変な声を出しちゃった気がする。くすぐったいけど、ここは我慢しよう。
「ありがとうございます、聖女様。フレイル、行こう」
「お、おう」
血の補給を済ませたら、何事もなかったように霧の方へ歩き出すベイルくん。
な、なんだろう。
顔が熱い。恥ずかしいような悔しいような思いで爆発しそうなんですけど……!!
「こら、ベイルくん! 待ちなさい!!」
どうしようもない気持ちをぶつけるようにベイルくんの背中に飛び蹴りを食らわせる。が、ベイルくんは何事もなかったように振り返った。
「どうしましたか、聖女様」
「どうもこうもないよ! 次はもっと優しくしてよ!」
「痛かったですか?」
「痛くはなかったけど……」
「嫌でしたか?」
「嫌ってわけでもなくて……」
「では、どうしたのです?」
「むぐぐぐっ……」
自分の気持ちを表現できず、ただ拳を握りしめる私だったが、その横をリリアちゃんが通り過ぎていく。そして、彼女は呟くように言うのだった。
「スイさん、呪木も近いので真面目にやってください。一番大人なんですから」
「す、すみません」
ベイルくんのせいで怒られちゃったじゃんか。なんか顔も熱いままだし!
ちびっ子のベイルくんは聞き分けの良い可愛い子なのに、大人になると何か変な感じなんだよな。私のペースが乱してくるって言うか……。
まぁ、いいや。
取り敢えずは呪木の除去に集中しないと!
それから、呪木を無事に除去。霧は晴れた。
そして、数日後。
私は王都の地を踏むことになる。
弟と幼馴染 編はここで終わりとなります。
読んでくださり、本当にありがとうございました。
「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、
下の方にある☆☆☆☆☆のボタンによる応援、感想の投稿をよろしくお願いします。
もし、まだブックマーク登録をお済でない方は「ブックマークに追加」のボタンを押していただけると嬉しいです。
次回から、スイが憧れていた王都での暮らしがついに始まりますので、ぜひ次のページに進んでみてください。よろしくお願いします。




