天下無双の王子様
馬車の列、その先頭には黒々とした肌の巨体が、その太い腕を振るって騎士たちを威嚇していた。どうやらドラクラも聖女もいないようだ。
「あいつが馬車をひっくり返した犯人だね。ベイルくん、やっちゃって!」
「お任せを」
ベイルくんがざっと踏み出して一気にデモンの目の前まで移動する。そして、剣による横一文字の斬撃。腹が裂けたデモンが、血を吹き出しながらその場に崩れると、ベイルくんがこちらに振り向いた。
「聖女様、霧が侵攻する前に行きましょう」
「うん。まずはフレイルくんたちの無事を確認しないと!」
馬車の列から離れ、霧の方へ走る私たち。一瞬の出来事に、周りの騎士たちも目を丸くしていた。黒霧の中に入ると、一気に視界が悪くなる。だけど、聖女の力は霧を薄くして、視界を確保することも可能だ。
「フレイルたちの場所は分かりますか?」
「たぶん、呪木の方に向かっているはずだから、あっちじゃないかな?」
「時間がありません。駆けるので、私から離れないでください」
「もちろん!」
ベイルくんが先程よりも速いスピードで走り出す。途中、苦戦する仲間を見つけたら、敵対するデモンを斬り捨て、さらに先へ向かった。私たちに助けられたフォグ・スイーパたちは、誰もが目を丸くして呟くのだった。
「あれだけ強いドラクラが……何者なんだ?」
デモンを十体ほど倒すと、フレイルくんとリリアちゃんを見つける。
「くそっ! 今までのデモンとは何かが違う。リリア、危ないから下がって」
「私のことは気にしないで! こっちもちゃんと援護するから!」
そんなやり取りを交わしながら、お互いフォローしているみたいだけど……
あれ?
ドラクラ化しているはずなのに、フレイルくんは子どものままだ。
やっぱり、大人になるベイルくんが変なのかな??
フレイルくんたちが相手にするデモンは、他の個体と比べて一回り大きい。さらにパワーもあるらしく、フレイルくんは攻撃を避けるのに精一杯みたいだ。
「フレイル、大技が来る。下がるんだ!」
ベイルくんの声に二人はこちらを振り返る。
いやいや、よそ見したら危ないから!
案の定、デモンの巨大な腕が振り落とされるが、フレイルくんは慌ててしまったのか、その場に転んで尻もちをついてしまった。
「危ない!」
ベイルくんが地を蹴って、一気に距離を詰めると、巨大なデモンの腕を剣で防いだ。
「フレイル、早く下がって体勢を立て直すんだ」
「ち、父上……? いや、まさか兄さんなのか?」
さすがは兄弟と言うべきか、フレイルくんは姿が変わっても、感じるものがあったのだろうか。
「ベイルくん、私が動きを止めてみる。君はデモンを倒すための一撃に備えて!」
「承知!」
ベイルくんがデモンと距離を取りつつ、剣を構える。私も小刀を取り出し、デモンの動きを止める準備に入ろうとしたのだけれど……。
「ちょっと、スイさん! どういうことですか??」
リリアちゃんが声をかけてくる。
「話は後! あいつを止めるから、リリアちゃんも協力して!」
「でも、あのドラクラは、もしかして……」
「集中して!」
「わ、分かってます!」
リリアちゃんは腰の短刀を抜き、指先を傷付ける。
「大地にアクセスして、デモンの動きを止めるんですね!」
「二人で同時にやれば、きっとできる」
私も小刀で指先を切って、大地に血を滴ららせた。聖女は血の力を使って、大地にアクセスできる。それは呪木の場所を探る他にも、大地を踏みしめる存在を、その場に固定することもできるのだ。
これも初めてやるけど、私ならきっとできるはず。
目を閉じると、大地を通した景色が見えた。隣にはリリアちゃん。少し離れた場所にベイルくん、フレイルくんの存在を感じる。そして、その目の前にデモン。私はデモンの足元に意識を潜り込ませた。
「捕まえた!!」
「……私も、捕まえました!」
私に少し遅れて、リリアちゃんも叫ぶ。目を開けると、デモンは明らかに不自由なった体に戸惑っていた。
「ベイルくん、頼んだ!」
「聖女様、お任せを」
ベイルくんが剣を構えながら腰を落とし、力強く飛び跳ねた。そのジャンプ力はデモンの頭上まで達し、彼は剣を振り上げる。そして、真っ直ぐ振り下ろされる剣は、デモンの頭頂部に突き刺さって顎に抜けた。
デモンの顔面が二つに裂けて、ぐらりとバランスを崩す。ベイルくんがふわりと着地すると、デモンもその場に倒れ込むのだった。
「や、やったの?」
隣でリリアちゃんが呟く。
「何度アクセスしても捕まえられなかったのに……」
リリアちゃんが驚いた表情でこちらを見てきたので、私は笑顔を返した。
「二人だからできたってことだね。協力してくれてありがとう、リリアちゃん!」
「……こ、こちらこそ、ありがとうございます」
リリアちゃんは顔を赤らめて目を逸らす。が、すぐに大事なことを思い出したらしく、顔を上げた。
「そうだ、あのドラクラは?? 気のせいか、ベイルに似ている気がしたけど……」
「気のせいじゃないよ、ベイルくんだよ」
ピースサインを見せる私だが、リリアちゃんは既にベイルくんの方を見つめ、他のことは目に入らないようだった。私は溜め息を吐きながら、リリアちゃんと同じ方向を見てみると、大人のベイルくんが転んだフレイルくんに手を差し伸べるところだった。
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