もしかして出番ですか?
馬車の列が再び動き出す。一度止まった理由は、ベイルくんだったらしい。
「スイさんが何をしているのか、気になって」
「私のことが? 私は平気だったよ」
「でも、レックスに手を握られていましたよね?」
「あ、あれは……」
ベイルくんのジト目。
別に悪いことしてたわけじゃないけど、なんて説明すればいいんだ??
ちなみに、レックスさんはさっき別の馬車に移動した。ベイルくんが私と話したい、と言うものだから、席を外したのだ。別にレックスさんも一緒でよかったのに……。
「ベイルくんのことをお願いします、ってお願いされたんだよ」
「え、レックスが……認めてくれたんですか??」
お? なんだか目に輝きが戻ってきたぞ??
「うん。ベイルくんとリリアちゃんが結婚するためには、私の協力が必要だって」
「……え?」
ん? また目の輝きが失われてしまったぞ??
「なんかベイルくんも大変だね。国のために凄い責任を負わされている、って言うか」
「……僕は別に、責任とかは感じてません」
「そうなの?」
「僕はフォグ・スイーパとして、ちゃんとドラクラに変身して戦いたいだけです。そして、いつかこの星から霧を完全に消滅させたい。それが夢なんです」
おおお、夢を語る少年は良い顔をするね。
「でも、周りが王家を存続させるために、って必死に色々やってるみたいだから、僕も協力しないとって思っています……」
楽しそうに夢を語ったのに、沈み切ってしまうベイルくん。
そっかぁ。
そりゃそうだよな。
ベイルくんはまだちびっ子のお子様。王家を守るとか、誰かの権威がどうとか、そんなものよりドラクラとしてかっこよく戦うことの方が重要だよね。
「それにしてもさ」
取り敢えず話を変えておこう。
ベイルくんが泣き出してしまったら、王子様に意地悪した女だと思われちゃうからね。何よりもリリアちゃんに怒られたら、本当に怖そうだし。
「ベイルくんたち、本当に仲がいいね。兄弟がいるって、どんな感じ?」
私は兄も姉も、弟も妹もいない。少し兄弟っていうのは憧れる。
「フレイルは本当に凄い弟なんです!」
おおお、目に輝きが戻った! よかったーーー!
「六歳のころから、既にフォグ・スイーパとして王都周辺の呪木除去に参加していて、大人にも負けないくらい、凄い活躍しているんですよ。この前も、こんなに大きな木を切って、僕に見せてくれました」
そう言って、ベイルくんは両腕を広げる。しかし、実際に見た木はもっと大きかったのか、腕をプルプルさせながら、リアルなサイズを表現しようと頑張っていた。
「あと、城の人間は僕のことを可愛そうなやつって目で見てくるんです。昔から兄のように僕らの世話をしてくれるレックスだって、ときどき僕に同情的な目を向けます。だけど、フレイルはそんな目で僕を見ない。あくまで対等。いえ、ときどき尊敬の言葉をかけてくれることもあるんですよ。凄いですよね、僕みたいな役立たずのことを褒めてくれるんですから」
「それは言い過ぎだよ。ベイルくんだって、良いところたくさんあるよ。私だって、まだ会って二日目だけど、ベイルくんのこと良い子だって思っているよ?」
「ほ、本当ですか?」
顔を赤らめて俯くベイルくん。
そうそう、ちょっと褒められただけで照れちゃうベイルくんが一番可愛いよ!
「リリアちゃんとは、昔から仲いいの?」
「はい。物心がつく前から三人一緒なので」
「そっかー」
でも、リリアちゃんはベイルくんかフレイルくんと結婚するんだよね??
それ、凄い複雑じゃない?
本人たちはどう思っているんだろう??
聞いていいのかな?
いや、ダメだよね?
うーーーん……。
「スイさん、何を唸っているんですか?」
「な、何でもないよ」
私よ、理性的であれ。
子供にそんな無粋なことを聞いちゃいけないよ。大人としてね。
そのうち、辺りが暗くなり、近くの村で宿泊することになった。
王都が近付いているせいか、めちゃくちゃ都会だ。「こんびに」がそこら中にあるし、初めて「しょっぴんぐもーる」を見た。
ベイルくんは
「スイさん、あれは商店街ですよ」
と言ってたけど、違いは分からなかった。
あと、高層タワーも見た!
ララバイ村で一番高い場所と言えば、ジョイと一緒に星空を見た役場の屋上だけど……
都会のタワーはもう格が違うんだね。
下手したら、雲に手が届くんじゃないかな?
でも、ベイルくんは
「スイさん、あれ五階建てですよ」
と言っていたけど、十分高くない?
高層じゃないの??
それから、宿泊した高級ホテルもやばかったんだから!
とにかくキラキラしててさ。
でも、一番びっくりしたのは、部屋の中に温泉があったこと。
せっかくだから、ベイルくんと一緒に入りたくて、誘ったんだけど……リリアちゃんに
「ベイルにイタズラするつもりですか!?」
って怒られちゃった。
私はただ一緒に温泉に入りたかっただけなのに、イタズラって何さ。
かと言って、リリアちゃんを誘っても断られちゃったし……。もしかして、一緒にお風呂入るのって都会では非常識なの?
まぁ、そんな日々が三日も続いて、人生で一番楽しい日々だった。これで王都に到着したら、どれだけ楽しいことが待っているんだろう。
だけど、三日目で事件が起こったのだった。
ここ数日と同じように、ベイルくんと二人でお喋りしながら馬車の移動を楽しんでいたら、ガクンッと軽い衝撃が。急に馬車が止まったらしい。
「何かあったのかな?」
「どうでしょう……」
五分くらい経っても、馬車が動き出さないので、ベイルくんが立ち上がった。
「何があったのか、レックスに聞いてきます」
ベイルくんが扉を開け、外に出ようとしたが、ちょうどそこにレックスさんが駆け付ける。
「ベイル様、馬車から出ないように」
「何かあったの?」
「前方に濃い霧が出ました。デモンも多数確認されたのですが……やや数が多い」
どれだけのデモンが出たのだろうか。レックスさんの表情から強い緊張感が見て取れるようだった。
「今、フォグスイーパを集めているところです。危険ですので、お二人はここから出ないように」
そう言ってレックスさんは馬車の扉を閉めて、立ち去ったみたいだけど……
私とベイルくんは思わず顔を見合わせるのだった。
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