表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

225/239

小さな小さなプレゼント

襲撃者の踏み込みは速く、並みのドラクラではないことが瞬時に分かった。面を食らいながら、何とか剣を受け、距離を取り直すフレイルだったが、一撃の重さに息を飲む。


「フレイル!」


追撃に踏み出そうとする襲撃者をリリアの干渉が阻む。五本の見えない手による包囲。だが、襲撃者はそれを難なく躱し、フレイルへ詰め寄ってきた。


「何者なのだ、この男は!」


フレイルは横一文字に剣を振るって迎え撃とうとするが、襲撃者は腕一本(・・・)で受け止める。


「なっ!?」


そして、反撃の切っ先がフレイルの胸に。容赦のない、心臓を狙った一撃。王の命が一瞬で失われるかと思われたが、それはピタリと止まった。リリアの干渉だ。


「フレイル、ちゃんとやって!!」


「分かっている!」


フレイルは素早く剣を引き直し、次の一撃を繰り出す。剣撃と剣撃がぶつかり合う音が何度も響いたが、フレイルの剣は一度も襲撃者を捉えることはなかった。しかし、リリアに焦りはない。


(だって……これなら、どんな敵だって!)


リリアは自らの得意技を繰り出す準備ができていた。ひっそりと干渉の手を敵の近くに忍ばせ、タイミングを見て、足元を狙う。しかも、そのタイミングはフレイルも分かっているため、どんなデモンであっても確実に仕留めてきた技だ。


(今だ!)


リリアが敵の足を引っかける。襲撃者がバランスを崩すと同時に、フレイルの一撃が……と思われが。


「嘘でしょ!?」


襲撃者はリリアが仕掛けるタイミングを分かっていたかのように、変則的な動きによってやり過ごすと、飛びかかってきたフレイルを迎え撃った。


「クソっ!」


必殺のタイミングで勝ちを確信していただけに、フレイルは攻撃を避けられた瞬間、反応が遅れてしまった。低い姿勢からフレイルの懐に飛び込んだ襲撃者は、肘を叩き込む。それは見事に鳩尾へヒットし、フレイルはたまらず蹲ってしまうのだった。


「フレイル、立って!」


敵の前に膝を付いて動かないフレイル。このままでは王の命が失われてしまう。リリアは命を賭して、彼を守ろうとしたが、敵は剣を振り上げることはなく、フレイルを蹴り飛ばして、自らが進む道を開いた。そして、敵の道を塞ぐ存在はリリアだけになる。


「り、リリア……逃げろ!!」


ゆっくりと歩みを進める襲撃者。

リリアはどうすればこの状況を切り抜けられるのか、頭を全力で回転させるが、打開策は何一つとしてない。


向き合う二人。既に襲撃者の間合いに入ってしまったリリアは、死を覚悟しなければならなかった。しかし、襲撃者は足を止める。一秒、二秒と動きを止めたのだった。


「やめろぉぉぉーーー!!」


その隙に、フレイルは息を整え、何とか立ち上がると、襲撃者の背に向かって踏み込んだ。そして、渾身の一撃を振るう。それは意表を突いたのか、今までと違って襲撃者の回避に余裕はなかった。


「やったか!?」


襲撃者の胸板を切り裂いたかのように思えた。だが、実際はマントの一部を切り裂くに終わる。ただ、フレイルは見た。黒衣の間から覗いた小さな輝きを。


「……馬鹿な」


フレイルと襲撃者、両者の足が止まる。まるで、時間が止まったかのように、二人は動かなかった。先に動いたのはフレイル。震える唇で、言葉を発しようとしたが、それは妨げられてしまう。


「危ない、フレイル!!」


「な、なんだ!?」


悲鳴に近いリリアの警告に反応するフレイル。それは、どこからか現れた芋虫男だった。彼はフレイルの死角から襲い掛かり、襲撃者を逃がそうと、必死に食らいついてくる。


「ベータ・ワン、構うな。先に進む!」


襲撃者の声に、ベータ・ワンと呼ばれた芋虫男はフレイルから離れる。そして、彼らはフレイルとリリアを無視して、どこかへと立ち去ろうとした。


「待ってくれ!」


フレイルは引き止めようとするが、先程受けた一撃が効いて、足に力が入らない。リリアに体を支えられ、もう一度顔を上げたときには、二人の敵の姿はなかった。


しばらくの沈黙。


フレイルは敵の正体に、言葉が出てこなかった。ゆっくりとリリアを見ると、彼女の顔が青ざめている。たぶん、彼女も気付いたのだ。


「見たのか……?」


問いかけに、リリアは頷く。

その反応を見て、フレイルは全身の震えを止めれず、ただ彼女にそれを確認するしかなかった。


「兄さんだった。そうだよな?」


「……うん。マントの下に、見えた。あの安っぽいバッヂ」


「誕生日にスイさんからもらったって、ずっと大事にしていた、あのバッヂだ。やっぱり……ベイル兄さんに違いない」


二人はお互いに見たものを確認すると、言葉を失ってしまった。もう何年も前に死んだはずの兄。彼が帰ってきたのだ。


でも、何のために?


いや、フレイルは知っている。理由なんて、一つしかないのだ。


「復讐のためだ。俺を殺すために、帰ってきたんだ」


フレイルの呟きに、リリアは何も言わなかった。

読んでいただけたら「リアクションボタン」をお願いします。モチベーションにつながります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ベイル……くん? 本当に君なのか? どういうことなのか気になることだらけです。 が、ここはひとまずお話を追わせていただきましょう!
芋虫男きもいなぁ。やっぱりエリオットのしわざかな……。それにしても、フレイル君とリリアちゃんのコンビは熱い! なんて思いながら読んでいたら、マント男がまさかのベイル君!? 生きてたのはいいですが、これ…
わああぁーー!! 最強の二人のやり取りに「君たち……ここまで来るのにきっと相当な困難を乗り越えてきたんだね……そうに違いない」とニヤニヤしながら読んでいたら、こんなことに!! 本当に?本当ですか…?続…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ