再びの狼煙
その人物は全身を黒いマントで包んでいた。目元だけは白い面で隠しているが、そのデザインが不気味である。
「気持ち悪い仮面だな。なんだあれは?」
嫌な雰囲気を醸し出す謎の人物に、さすがのフレイルも眉を寄せた。彼の質問にライムが答える。
「確か、極東で能面と呼ばれる仮面だったと思います。なぜか上半分だけで口元は露出していますが……あんな面を付けて、こんな場所に姿を現す時点で、普通ではないでしょうね」
サムライと騎士たちが、その人物を挟むように近付いてく。そのうちの一人が謎の人物の腕を掴んだ、その瞬間だった……。
「何かを落とした?」
「拳サイズの球体に見えましたね。メラブくん、見える?」
「はい!」
目を凝らすメラブにはそれが見えた。
「聖女様が仰る通り、黒い球体のようですが、二つありますね。……あっ、何かが生えた!」
「生えた??」
すると、謎の人物の足元に落ちた黒い物体から、みるみるうちにツタ状の何かが伸びて行く。それは、瞬時に謎の人物の背丈を超え、天に向かっていく。
「呪木か……」
フレイルの呟きは正しかった。球体から生えたツタは瞬時に幹となり、樹冠を形成した。さらに、そこからは吹き出される黒い霧。遠くから悲鳴が聞こえ、謎の人物にコンタクトを取ろうとした者たちが逃げ出して行った。
「フォグ・スイーパに対処させろ! 騎士とサムライは掘削機の中に戻れ!」
フレイルの指示に人々は慌てふためきつつも、王を守るために行動する。そんな中、メラブは謎の人物から目を放していなかった。
「聖女様、敵が倒れました!」
「……まさか、霧の毒で自爆した?」
謎の人物は二本の呪木の下でうつ伏せに倒れていた。と言うことは、霧の中で自由に動ける聖女ではないらしい。謎の人物は、文字通り自ら蒔いた種で自滅したかと思われたが……。
「な、なんだあれ!?」
メラブが驚きの声を上げるのも無理はない。謎の人物は倒れたかと思うと、その状態のまま能面だけが前を向き、体をうねらせながら、地を這い始めていたのだ。
「蛇……。いや、芋虫みたいですよ、聖女様! 怪人芋虫男の襲撃だ!」
「はしゃがないの、メラブくん。それに敵は男と決まっていないよ」
謎の人物……芋虫男は両手も両足も使わず、本当に芋虫のように地を這って進むが、それが思いのほかに速く、真っ直ぐとライムたちのいる掘削施設へ向かってくる。しかし、芋虫男の脅威はこれだけに終わらない。
「聖女様! あの芋虫男、這いながら、さっきの黒い玉をどんどん落としています」
「……それはまずいかも」
メラブの言う通り、芋虫男は移動と同時に、黒い球体をまき散らし、それが次々と呪木に成長していく。このままでは、辺りは呪木の森になってしまうだろう。フレイルの表情もやや険しさが増した。
「フォグ・スイーパたちはまだか!?」
「後方から間もなく駆け付けます!」
警護の責任者が言う通り、フォグ・スイーパたちが芋虫男を取り囲む。敵は一体。誰もがすぐに制圧されるかと思われが……芋虫男は這いつくばった状態から、獣のようにドラクラの一人へ飛び付いた。
「ぎゃあああーーー!!」
悲鳴が上がる。芋虫男がうつ伏せの状態から跳ね上がったかと思うと、ドラクラの首筋に噛みついたのだ。しかも、その咬合力は凄まじく、首を嚙み千切ってしまうほどである。
「この不気味野郎!!」
「干渉で抑えろ!」
フォグ・スイーパたちが抑え込もうとするが、芋虫男は再び地面を這いながら干渉の間をすり抜け、また別のドラクラに噛みつく。
「な、なんだあれは……。デモンの亜種なのか?」
その不気味な光景に、フォグ・スイーパとしても経験豊富なはずのフレイルも動揺を隠せないようだ。隣のリリアも寒気を感じたのか、両肩を抑える。
「デモンにしては動きに野性が足りないように見えるけど……」
「デモンではないとしたら、霧の中で動けるのはフォグ・スイーパだけです」
ライムが指摘する。
「あれだけの身体能力ですから、ドラクラになりますね。しかし、パートナの聖女がいない……。どういうことでしょうか?」
芋虫男の力は圧倒的だった。群がるフォグ・スイーパたちは恐れをなし、敵に近付くことすらできないらしい。このままでは突破され、掘削施設を攻撃されるのも時間の問題だ。
「もう少し様子を見たかったのですが……仕方ないですね」
ライムが振り返り、メラブを見る。
「メラブくん、行ける?」
「もちろんです、大聖女様!」
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