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平和の証拠

フレイルによる第38調査地区の視察は予定通り行われた。この地は、ライムたちにとって二度目だが、その田舎っぷりに何度でも驚いてしまう。特にメラブは大はしゃぎだ。


「凄いですね、大聖女様! 何もないですよ!」


「もともとは小さな村があったのですが、全員退去してもらったそうです。ラインハルト博士が言うには、そうするだけの価値がある土地だとか何だとか」


「どういうことですか?」


「さぁ? 霧発生の原因、しかもその根源に、限りなく近い何かがあるのかもしれないですね」


二人は馬車を降りて、第38調査地区の中心部へ向かう。何もない山や川ばかりの風景だが、突如として巨大な要塞が現れ、低い音を立てながら小さく振動している。


「あれが掘削施設ですね! 前きたときは、完成してなかったのに!」


「これを作るための、デモン討伐でしたから」


掘削施設の近くまで進むと、ライムたちに向かって手を挙げる男の姿が。


「あ、イリアさんだ!」


例の調査を頼んでから、姿を見せなかったイリアだが、どうやら現地に先回りしていたらしい。


「メラブ、ライム様と二人きりで楽しかったみたいですね」


「そ、そ、そ、そそそそそんなことは……あるけど、わざわざ言うことじゃない!!」


動揺するメラブを見て満足そうに笑うと、イリアはライムに耳打ちする。


「やはり、例の件……ライム様が心配されていた通りでした」


「そうですか。では、仲間の戦力を確認しておくとしましょう」


三人で掘削施設の内部へ。この施設は、ただ大地を掘り進めるための巨大な機械ではない。その中は数名の研究員やフォグ・スイーパが生活できる、巨大研究施設としての役割を果たしているのだ。


「こんにちは。王都からきました、ライム・ライオネスです」


会議室を訪れ、ライムが挨拶するが、大勢の男たちが合戦場のように二つに分かれて睨み合い、声が届いていないようだった。その状況を、イリアが端的に説明する。


「どうやら、騎士とサムライたちの意見が割れて、一触即発のようですね」


「なるほど。いつもの縄張り争いですか」


騎士たちは赤い制服、サムライたちは青い制服のため、二つの勢力が綺麗に分かれて睨み合っている様子が、よく分かった。


「我々サムライが施設の正面を守る!」


「いや、正面は騎士の仕事だ!」


「騎士は王の警護に集中すべきだろう!」


「だから、正面の守りは我々に任せよと言っている!」


メラブは「どっちでもいいじゃん」と呟くが、サムライと騎士、双方の事情を知るライムにとっては、彼らがそこを割り切れないことを知っている。


「十四年前、あの事件の直後はどちらも手を取り合っていたのですけどね」


「ある意味、平和になった証拠……ということでしょうか」


「メラブくん、大声で皆さんに挨拶を」


「任せてください!」


メラブは大きく息を吸い込むと、小柄な少年から発せられたとは思えない音声で、彼らに呼び掛けた。


「みなさーん! 大聖女様がお出ででーす! 少しだけお時間、よろしいですかー!?」


騎士もサムライも一様に耳を塞いだ後、ライムたちの方へ振り向く。


「おお、大聖女様ではありませんか」


「こんにちは。我々も警護に加わるので、人員配置について確認させてください」


「もちろんです」


見せられた資料では、フォグ・スイーパは後方で待機となり、ライムたちに関しては、王のすぐそばを守ることになっていた。


「あの、これでは危険ですよ?」


ライムが指摘すると、騎士とサムライの責任者らしき男たちが同時に首を傾げる。


「「どうして?」」


「敵がくるとしたら、霧も発生します。フォグ・スイーパを前面に出して、できる限り均等に配置すべきです」


「「いやいやいや!」」


敵対しているとは思えないほど、騎士とサムライはシンクロしていた。


「大丈夫ですよ」と騎士の責任者が答える。


「この土地は滅多に霧が出ない土地らしいので」とサムライの責任者。


「では、せめて私たちだけでも最前に置いてください。万が一があっても、対応できると思うので」


「何を仰います!」 とサムライの責任者が答える。


「大聖女様は安全なところで見守っていていください!」と騎士の責任者。


それから、しばらく最前を任せて欲しいとライムは主張を続けたが、結局は会議室を追い出されてしまった。再びイリアが状況を説明する。


「どうやら、王の前でどっちが目立った動きをするか、争っているのでしょう。今日はテレビの取材も入るようですし。正面を守れば、自分たちの方が忠誠心が強いように見えると。そんな風に考えているのです」


「浅はかですね! そんなの関係ないのに。何よりも、大聖女様の言葉を無視するなんて、罰当たりですよ!!」


「まぁ、霧を操る敵が攻めてくるなんて、想像もしていないでしょうから」


ライムの表情からは、怒りも悲しみも、失望や落胆と言った感情も見えなかった。

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