イケメンに頼まれたら退けないね
「えっと、つまり……私とベイルくんが、け、け、結婚するってことですか??」
それをレックスさんに頼まれたら、ちょっと複雑な気持ちだ……。けど、レックさんの王家を守りたい、という想いのためなら!
って言うか、それはそれで燃えるかも!!
いいでしょういいでしょう。
ならばレックスさん、私にベイルくんと結婚しろと言ってみなさい!
貴方の夢、私が守ります!
私は覚悟に満ちた目をレックスさんに向けるが……。
「いえ、違います」
「あ、違うんですか」
……恥ずかしいじゃん。
じゃあ、どういうことなの?
「落ち着いてください。一から説明します」
げっ、顔が赤いのバレているな、これは。
「まず、私たち王家派が一番恐れているのは、将軍家の頭領であるビーンズ・ライオネス将軍が王家に反旗を翻し、戦争になってしまうことです」
「戦争って……王家と将軍家はそこまで仲が悪いのですか?」
レックスさんは苦し気な顔をする。答えにくい質問だったようだ。
「そうではありません。ただ、ビーンズ殿は野心家。何か火種になるものがあれば、王家を討つことも躊躇わない方です」
「でも、火種は何もないわけですよね?」
「それが難しいところで……。最近は、王家と将軍家が不仲ではないか、という噂が市民たちの間に広まっています。本当に噂が噂を呼んで広がったのか、もしくは誰かが意図して広めたのか、それは分かりませんが、王家と将軍家の関係は一触即発、という空気が充満しているのです」
「誤解なら早めに話し合うべきじゃないですか!」
「その通りです。そして、実際に話し合いが行われました。そこで、ビーンズ将軍からこんな提案があったのです。不仲はないと民に証明するため、トランドスト王家とライオネス将軍家の間で、縁を結ぶのはどうか、と」
縁を結ぶ……?
あ、結婚ってこと?
誰と誰が……?
「も、もしかしてベイルくんが??」
「はい。トランドスト家の王子とビーンズ将軍の一人娘、リリア様の結婚です」
やっぱり、リリアちゃんが将軍の娘だったのね!
「じゃあ、ビーンズ将軍から誤解をとく方法を提案してくれた、ってことですよね? 将軍は悪い人じゃないってことでは?」
「そこが難しいところというか、ビーンズ将軍の恐ろしいところと言うか」
どういうこと??
私は首を傾げる。
「ビーンズ将軍は、自身の娘であるリリア様とトランドスト家の王子が結婚させるだけでなく、そこで王位継承も決定してしまえば、不仲はないと証明できる、と提案したのです。つまり、リリア様の結婚した王子が、次の国王になるということです」
「それって、王家にデメリットあるのですか??」
「……ビーンズ将軍はリリア様と王子を結婚させると言ったのです。ベイル様、とは言っていません」
「えっと……将軍はリリアちゃんとフレイルくんを結婚させたい、ということですか?」
レックスさんは頷く。
でも、何が悪いの?
当人同士が良ければ、問題ない気がするけど。
「実は、ベイル様とフレイル様は、異母兄弟です」
「え?」
「しかも、母上は将軍家側の人間。もし、フレイル様とリリア様が結婚することがあれば、王家と王家を支持する貴族たち、そして我々騎士団の発言力は一気に落ちてしまいます」
おおお、さすがの私でも理解できてきたぞ。
「つまり、国は将軍家の好きなようにできるってことですか?」
「はい。王家は残るかもしれない。しかし、近い将来に将軍家の傀儡になるでしょう。そうなれば、王家の消滅は時間の問題です」
「あれ、でも……普通にベイルくんとリリアちゃんが結婚すればいいわけですよね? リリアちゃん、ベイルくんにほの字みたいだし」
「ほの字?」
あ、やべっ。
都会ではほの字って言わないのか。
「その、かなり好意があるように見えた、というか」
「ああ、そういう意味ですか。そうです、ほの字です」
いいよ、無理に使わなくて!
「ただ、ビーンズ将軍はトランドスト家を継ぐ者は、ドラクラとして優秀であるべし、と強く主張しています」
「な、何それ! そんな不平等な条約、踏み倒すべきじゃないですか!」
「そうしたいのは山々。しかし、ここで将軍家の機嫌を損ねたら……それこそ戦争になるかもしれない。きっと、戦争を始める理由も適当に用意するでしょう」
じゃあ、ベイルくんが必死にドラクラになろうと頑張っていたのは、王家のため??
レックスさんは胃痛を訴えるような顔で言うのだった。
「既にご存じのようですが、ベイル様はドラクラとしての才はありません。いえ、ないはずでした。それが、もし本当に貴方の血でベイル様のドラクラ化が可能なら……」
ビーンズ将軍の計画をぶっ壊せるかも、ってことね!
「だから、協力していただきたい。ベイル様とリリア様の結婚。そうなれば、トランドスト王国はさらに百年、安寧の歴史を刻むはずです。お願いします、スイ様!」
スイ様?
レックスさん、私のことを様付け……!!
あーん!
お姫様扱いされてるみたい!!
「どうか。そのためなら、私は……どこまでも貴方をお守りします」
お、お守りします??
こんなイケメンから、そんなことを言ってもらえるの??
「……分かりました! いいでしょう、このスイ・ムラクモ。トランドスト王国の平和のため、一肌脱ぎます!」
「スイ様!」
「ぬおっ!?」
再びレックスさんが私の両手を握りしめる。
くうぅぅぅ、イケメンの体温、凄いあったかい!!
「ありがとうございます。このレックス、どんな危機であろうと、必ず貴方を守ってみせます。だから、私を信じてください!」
「は、はい」
なんだろう、これってプロポーズみたいじゃない?
ん? プロポーズ?
そういえば、ベイルくんって私にプロポーズしていたよね?
国のことを考えたら、ベイルくんはリリアちゃんと結婚するはず。なんで私に?
……あ、わかったぞ。
あのときの勢いに任せて言っちゃったんだな。
分かる。分かるよ、ベイルくん。
そういうことってあるよねーーー!
「レックス、開けるよー!」
ガチャ。
……あっ。
「……二人とも、何しているの?」
いつの間にか止まった馬車。そして、扉を開けたのは、ベイルくんだった。
「ベイル様こそ、どうしたのですか?」
レックスさん、平然と答えている場合??
あんた、私の両手を握りしめているんだよ??
一度離せって!
子供に見せるもんじゃないよーーー!!
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