大聖女の護衛とパートナ
「しかしだな……」
許可を出したものの、フレイルは納得したわけではないらしい。
「大聖女となったライムは、国の宝だ。普段の活躍はもちろん知っているし、その実力も理解しているが、できるなら危険な目に合わせたくはないものだ」
真面目に話すフレイルだが、膝の上に乗っているクレイブが彼の頬を叩く。しかも、割と強めに。国民が見れば恐れおののく瞬間だが、ライムは一切触れることはなかった。
「何を仰るのです。王が危険に赴くのですから、私の命など軽いものです」
「それは違う。お前が思っている以上に、大聖女を失うという悲劇は、国にとって重いことなんだよ。大聖女は国を明るく照らす存在だ。そこにいるだけで、希望を感じさせてくれる。あの人が亡くなったとき、どれだけ国が暗くなったことか」
新しい世代が国を支え出してから、その空気は少しずつ変わって行った。が、一番近くで暗い時代を感じていたフレイルからしてみると、大聖女を危険に晒すことは避けたいようだ。ただ、そんな意見がフレイルから出ることも、ライムは予想していた。
「ご安心を。私には優秀な護衛がいるので」
ライムは後ろで控えていた二人を紹介する。
「一人はイリア・ドバリ。トランドスト剣術大会で三年連続優勝した実力者です」
「三年連続? それは……レックスと並ぶ記録じゃないか」
フレイルが驚くのも当然だ。トランドスト剣術大会は、王国最強の使い手を決める大会と言って間違いない。トップの中のトップと言える実力者が集まる中、優勝は実力だけでなく、運やタイミングも関係してくる。その大会で三度も連続して優勝した人物は、その長い歴史の中でもたった二人だけなのだ。
「そんな人物が現れていたなんて知らなかった」
「仕方がありません。兄さまが一番忙しかった時期の出来事なので」
イリアが頭を下げた後、緊張で固まってしまったメラブに視線を送る。
「で、こっちがメラブくん。メラブ・トプリアくんです」
「噂は聞いている。大聖女の血に耐える優れたドラクラと。メラブとやら、前に」
「は、はい!!」
一歩前に出たメラブを、フレイルはただ見つめた。ただ見ているわけではない。瞳の奥にある、何かを確かめるように。
「分かった。下がってくれ」
メラブが言われるがまま下がると、フレイルは納得したように呟く。
「なるほど、似ている」
それがどういう意味か、メラブもイリアも理解できないようだったが、ライムだけは深い同意を示すように頷くのだった。王の許可を得た三人は玉座を後にする。ライムを先頭に廊下を歩く三人だったが、最初に安堵の息を吐いたのは、やはりメラブだった。
「はぁぁぁ、緊張したぁぁぁ!! でも、少しだけイメージが違いましたね。あんなに子どもに甘いなんて想像もしませんでしたよ」
「前の王がさらに輪をかけて子煩悩だったそうですよ。兄さまもその影響で、あんな感じになってしまったのでしょう」
「じゃあ、フレックとかいう人物の話は何だったんですか?」
何も知らないメラブの問いに、ライムは微笑みを浮かべる。普段から表情の少ないライムの微笑みは、メラブにとって星の巫女が目の前に降臨したようなもの。つい白昼夢を疑ってしまうのだが、彼女はこんな一言で済ましてしまう。
「国家レベルの機密事項は、メラブくんが相手でも話せません」
「そ、そんなぁ」
今にも泣き出しそうなメラブに、イリアがメガネを光らせながら忠告する。
「ダメですよ、メラブ。王とは言え一人の男。どこかでガス抜きは必要なのですから、追及してはならないのです」
分かったようなことを言うな、という目でイリアを睨むメラブだが、当の本人は少しも気にした様子はない。なので、メラブは質問を続けた。
「あと、王が僕を見て何か納得していたようだったのですが、あれは何だったのですか?」
「メラブくんがどんな人間か推し量っていただけです」
「じゃあ……似ているって言っていたのは?」
その質問に、ライムが立ち止まるものだから、二人は数歩前に進んでしまった。
「大聖女様?」
振り返って首を傾げるメラブに、彼女は言う。
「メラブくんはあの人と同じ目をしているんです」
「あの人?」
「先代の大聖女……そのパートナとよく似た目をしているんだよ」
やや驚きを見せるイリアの隣で、メラブは「誰ですかその人!」と不満げである。どうやら、ライムに別の男と比較されることが気に食わないようだった。
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